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「人を傷つけない笑い」つらぬく芸人が、結婚する後輩に贈った言葉
お笑い芸人の世界は、人情で支えられている。売れない時代に先輩から譲り受けた逸品や、芸人仲間との思い出の品、大した価値はなくても捨てられない品が一つはあるもの。そんな「芸人遺産」を紹介してもらい、いかにも芸人らしい“知られざる物語”をつむいでいく――。今回は、昨年から『ウチのガヤがすみません!』『踊る!さんま御殿!!』(ともに日本テレビ系)などに出演し、徐々に注目を浴びているお笑い芸人コンビ、ペッパーボーイズ・石本しょーきさん(27)の自宅に訪問。希代の天然っぷりと、思い出の品とのエピソードが絡み合い、笑えてホロリとくるインタビューとなった。(ライター・鈴木旭)
――まずは、思い出の品の贈り主から教えてください。
今の事務所の先輩で、ずん・飯尾和樹さんとイワイガワ・岩井ジョニ男さんです。
――お二人と初めて会ったのはいつごろですか?
2012年に東京アナウンス学院の養成所在学中に所属が決まった浅井企画の事務所ライブですね。それがちょっとハードルの高いライブで、若手芸人は通常のライブで結果を残さないと出られないんです。そこに飯尾さんもジョニ男さんもいらっしゃって。初めて生で見たし、「うわっ、テレビの人だ!」って別次元にいる感覚でした。
――まだ芸人1年目でプロって感覚もない頃ですよね。そのライブで、どんな話をしたか覚えていますか?
初対面でガチガチに緊張していたので、本当に大した会話もできなかったですね。当時、僕たちは「3LDK」ってトリオを組んでたので、ジョニ男さんから「お前ら、間取りはなんだ?」みたいなボケを連発された記憶はありますけど(笑)。
あっ、飯尾さんには初対面で怒られたんだ! ライブの打ち上げで僕に彼女(今の奥さま)がいるって話をしたときに、「まぁ養ってもらってるんですけどね」ってヘラヘラしながら軽くボケたんです。そしたら飯尾さんから「君はもしかしてクズなのか? ホントにそんなこと良いと思ってるのか?」と一喝されまして。後を引きずる感じではないんですけど、飯尾さんは本当に優しくて、“女性を泣かす”みたいなことが許せない方なんですよ。
――なるほど。すると、お二人との交流が深まったのは、どのあたりからですか?
初ライブの2年後くらいですかね。飯尾さんが主催の「大喜利合宿」に誘っていただいたんです。まぁ大喜利は名目で、実際には浅井企画の芸人何組かで行った、1泊2日の楽しい静岡旅行。大喜利を小一時間やったら、飯尾さんが「もういい、ご飯行こう」って感じの(笑)。
その旅行で、めちゃめちゃおいしいおすし屋さんに連れてってもらったんですけど、僕の隣に座ったのがジョニ男さんだったんです。そこでガッツリいろんな話をして、一気に距離が縮まりましたね。ある日突然連絡が来て、僕の家に寝泊まりすることも珍しくなくなりました。
――では、思い出の品を受け取った経緯をうかがえますか。
さっきお話した静岡旅行のおすし屋さんで、飯尾さんから「そう言えば、あの彼女とはどうなったんだ?」と聞かれたんです。「覚えててくれたんだ」って驚きもありつつ、「まだ続いてます」と僕が答えたら、今度はジョニ男さんから「結婚は考えてないのか?」と言われて。
交際して4年くらいでしたけど、まだ僕は23歳でバイト生活をしてる状態。「正直、結婚はまだ考えてないです」と言ったら、「お前って、女の子の出待ちがいっぱいいるタイプの芸人?」と聞かれて。「いや、まったく……」と返したら、さらにジョニ男さんから「じゃなんで結婚しないの?」と詰め寄られちゃった(笑)。
当時、今の奥さんから何度か結婚したいとは言われてたし、たしかにお互いの気持ちのうえではなにも問題はない。僕も困りつつ、「向こうのご両親が許すか分からないので…」と言葉を濁してたら、「そんなのやってみなきゃ分かんないだろ」と言われてしまって。
――それは選択の余地がない状況ですね。
お酒が入ってたのもあると思います。それから、「次、いつ実家に帰るんだ?」という話になって、「2カ月後に帰る予定です」と答えたら、飯尾さんとジョニ男さんに「ちょっと男見せてこい」「石本は結婚したほうが面白くなる」と後押しされまして。僕もいつかは結婚したい気持ちがあったし、お二人からそこまで言われると「このタイミングかもな」と思えてきちゃった。それで、最終的には「分かりました」と返事をしたんです。
――その流れで受け入れる石本さんもすごい……。
ただ、問題は親を説得できるかどうかじゃないですか。実際、福岡に帰って結婚したいと親に伝えたら、「あっちのご両親が納得しないでしょ」とビックリされまして。ただ、「一応、向こうの親御さんにも聞いてみたら?」という話になったので、今の奥さん経由で大丈夫か聞いてもらったんです。そしたら、「お互いがしたいんだったら止める理由ないでしょ」と、割とあっけなくOKが出て。
――どっちのご両親も、理解が早過ぎる気もします(笑)。
ですよね(笑)。で、そのことを飯尾さんとジョニ男さんに報告したら、「そっか。じゃ結婚をすすめたのは僕らだから、婚姻届の証人になるよ」と言っていただいて。ちょっと恐れ多い気もしましたけど、ありがたいお言葉だったのでお願いすることにしました。
――すると、今回ご紹介いただくのは、結婚のお祝いの品ということですね。
はい。ジョニ男さんからは、絵をいただきました。後輩や親しい人が結婚するときは、毎回絵を送ってるみたいなんですよ。正直、誰のなんの絵かまでは分かりませんけど(苦笑)。200枚中の7枚目と書かれていて、なにか理由があるみたいです。「2人にはこれがいいと思った」とおっしゃってましたね。
――お二人をイメージした贈り物ってところが素敵ですね。ちなみに飯尾さんからは?
大きなホテルのなかにある高級店でおいしいおすしをごちそうになったんですけど、そこでけっこうな額のご祝儀をいただきまして。もちろん金額にも驚きましたけど、メッセージ付きだったんですよ。それが本当にうれしかったですね。その日は、ジョニ男さんも一緒にお祝いしてくれました。
――お祝いの席で、お二人から結婚について何か言われたことは?
お店の方が天ぷらを運んで来て、「お塩でどうぞ」と机に置いたんですけど、その直後に僕が天つゆみたいなので食べちゃったんですよ。それを見た飯尾さんから「今のは失礼だけど、お前はそのままで頑張れ」と言われましたね。ジョニ男さんは「じゃオレも(だししょうゆで)食うか」とボケてました(笑)。
――素敵な先輩たちですが、今後どう恩返ししていきたいという思いはありますか?
飯尾さん、ジョニ男さん、どっちも人を傷つけず、自分が汗をかいて場を盛り上げるようなカッコいい先輩です。ただ、いつまでも浅井企画を引っ張ってもらうのは、もどかしい気持ちもあります。だから、僕たち若手が頑張ってテレビ番組で共演できるように頑張りたいですね。それがたぶん、お二人に一番喜んでもらえることだと思うので。
あと、今までライブの打ち上げとか旅行とか、えげつない金額をおごってもらってるんですよ。だから、僕らも早くそっち側に行って先輩たちにお返ししたり、後輩たちにおごってあげたりしないと(苦笑)。「ありがとうございます!」って、いつまでも言ってられないですから。
安易な笑いは、「人を傷つける」「笑いを誘う」という現象を同時に招きやすい。他人をおとしめることで、見る者に“自分は多数派である”という優位性を与え、日常の“はけ口”を一時的に解放させることができるからだ。浅井企画の芸人には、そうした“えぐみ”がない。どこまでも平和で、こちらが自然とホッコリするオーラを放っている。
しかし、それは「絶対に観客を楽しませる」という、ある種異常なまでのサービス精神に裏打ちされたものだ。会場の空気が重い状況こそ最前線に自ら身を投じ、玉砕することもいとわずギャグを繰り出す。飯尾さんやジョニ男さんには、そんな気高い“お笑い魂”を感じてならない。
きっと石本さんは、そんな先輩たちのカッコいい背中を見て来たはずだ。パワハラやモラハラが問題視される昨今にあって、実際に先輩が“やってみせる姿勢”は、態度や言葉の圧力よりもはるかに後輩の心に響いたに違いない。だからこそ、石本さんはお二人の後押しを信じて結婚話を受け入れたのではないだろうか。
今回紹介した思い出の品は、そんな芸人たちの絆の結晶――。人間関係が希薄になりやすい時代だが、人生において一番の財産は、3人のようにうそのない特別な関係性を築くことなのかもしれない。
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