連載
#30 コミチ漫画コラボ
「電池切れ」で休んだ学校 少女の孤独、窓越しに照らす「青い景色」
いじめなど、はっきりした理由はない。でも、中学校に通うのが苦しい。耐えかねた末、引きこもりがちに……。そんな過去を、漫画化した女性がいます。「電池切れ」になった自分を責め、逃げ込んだ自宅の部屋すら、居場所と思えない。ボロボロの心に寄り添ってくれたのは、窓越しに見える、美しい眺めでした。「まだ心が生きている。そう教えてくれたんです」。灰色の思春期を照らした、「青い原風景」について聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
あたりまえを、うまくできない――。冒頭、そんな書き出しとともに、毛布をかぶった中学生の少女が描かれます。深夜テレビを見ながら、彼女はつぶやくのです。「また学校行けなくなる」
明確な原因はないのに、なぜかクラスに溶け込めない。「あのなぁ、ただ来ればいいんだよ」。少女の脳裏には、小学校時代、担任の教師に言われた言葉が刻まれていました。
中学校に進んでも、状況は相変わらず。夏休みが過ぎ、新学期を迎えた後も、違和感が拭えません。
下がり続ける成績。近くて遠い友達の輪。「クラスに迷惑をかけちゃいけない」「頑張らな」。自分を追い詰め続けた結果、「電池切れ」となり、登校出来なくなってしまいます。
糸が切れた人形のように動けず、自室で眠れぬ夜を過ごす少女。ある明け方、朝刊がポストに届く音で、一日の始まりを知ります。
「不安しかない」「これからどうなるんやろ」。憂鬱(ゆううつ)な気持ちで窓を開けると、思わぬ光景が飛び込んできました。
藍色の空に浮かぶ、薄紫の雲。折り重なる山々と、裾野に輝く街灯の明かり。白みゆく眺めの中で響く、車の走行音……。
「世界、真っ青やん」。命が息づく風景を前に、自然と涙があふれてきます。
美しいものを見て、心動かされたことで、彼女は気付いたのです。当たり前のことが出来なくたって、楽しければ笑えるし、悲しければ泣く。自分は確かに生きているんだ、と。
「すがるような闇から外へ」。モノクロの色調で描き出された部屋に、笑顔でたたずむ少女。その瞳には、水彩画のように、淡くぼやける街並みが映っていました。
全13ページの漫画に、思春期の一幕を凝縮したmichiさん。物語の元となっているのは、中学1年の頃に過ごした日々でした。
通っていた地元の中学校には、周囲にある複数の小学校から、多くの子どもが進学してきました。michiさんは、それまでと異なる環境に、なかなかなじめなかったそうです。
一方で、父が病気がちで入院するなど、家庭の状況も複雑でした。「多分、成長の過程で、心と体のバランスが崩れたんでしょうね」。授業に行きたくないと訴えても、教育熱心な母は「教室で座っているだけでいい」などと反論してきたといいます。
夏休みが明けると、ますます学校に行く意味が分からなくなりました。行事など、役割がある日以外は、ほとんど家で過ごすように。録画した映画を見たり、本を読んだり。「2学期の半分くらいは休んでいたと思います」
尾を引いていたのは、漫画にも登場した、小学生時代の教師の言葉です。登校の理由を尋ねても、「しょうもないことを聞くな」と繰り返すばかり。「そういう答えが欲しいわけじゃなかった。結局誰も分かってくれないんだ、と自分の殻にこもりきりでした」
そして、その年の秋ごろ、「真っ青な世界」と出会います。学校に行けない、家でも落ち着けない。寄る辺なさに震えていたとき、朝方の風景が、そっと寄り添ってくれるように感じられたそうです。
「ふと、外が青いな、と思って。窓から眺めてみたら、青い空と、オレンジ色の街灯の光が、目に飛び込んできたんです。コントラストが、すごく印象的で。見慣れているはずの街並みなのに、見たことがない光景のようでした」
自宅近くには空港があり、夜が明けると、ジェット機のエンジン音なども聞こえてきたそう。誰かの生活が繰り返されていると知り、「一人じゃない」という気持ちになれた――。michiさんは、その思い出に、支えられ続けているといいます。
「大人になった今も、寝られない程つらいことがあったときなどに、ふと思い返されるんですよ。そして外の音に耳を傾けたり、ボーッと空を見つめたりして、自分をリセットしています。私にとっては、『記憶の情景』が、一種の居場所になっていますね」
確たる理由がなくても、学校に居心地の悪さを感じる子は、他にもいるかもしれません。多感な10代を乗り切るために、何を意識すればいいのでしょうか?
michiさんは「まず、生活を雑にしないで欲しい」。しっかりご飯を食べ、体調を整え、疲れたら休む。当たり前のように思えますが、暮らしの乱れこそが、心の乱れにつながると、体験も踏まえ語ります。
もう一つ、心情を表現するための、言葉の大切さについても教えてくれました。
「大人に言われたことをやらなきゃいけない。そんなこと、子どもが一番分かっているんですよね。でも、十分に対話出来るだけの言葉が、まだ持てない。一番しんどい時期だと思います」
「だからこそ、自分の言葉を、自分なりの方法で手に入れてもらいたいです。負の感情や思い出って、内側にためているだけだと、本当に嫌なものになってしまうから。恥ずかしいと思うのではなく、どんどん外に発散していってもらえれば、と感じています」
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