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ヒゲダン、ストリーミングで証明「ヒットの条件」 サブスク世代響く

Official髭男dism。左から楢崎誠さん、小笹大輔さん、藤原聡さん、松浦匡希さん=2019年7月、東京都港区、村上健撮影
Official髭男dism。左から楢崎誠さん、小笹大輔さん、藤原聡さん、松浦匡希さん=2019年7月、東京都港区、村上健撮影 出典: 朝日新聞

目次

音楽配信のストリーミングサービスから、新しいスターが生まれました。Official髭男dism(通称「ヒゲダン」)は、「Pretender」が1週間に計350万回以上再生され、1年以上前のメジャーデビュー曲「ノーダウト」もロングヒットを続けています。「人間的にすごいまじめ」というメンバーたち。音楽的なスタイルを固定せず、1曲ごとにメロディーの良さを追究するスタイルからは、サブスク世代に響く音楽が見えてきます。(朝日新聞文化くらし報道部記者・坂本真子)

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ライブの熱量でヒットを実感

Official髭男dismは、ボーカル&ピアノ藤原聡さん、ギター小笹大輔さん、ベース&サックス楢崎誠さん、ドラムス松浦匡希さんの4人。島根大と松江高専の卒業生で2012年に結成され、昨年4月、テレビドラマ「コンフィデンスマンJP」の主題歌「ノーダウト」でメジャーデビューしました。

今年5月に出した映画の主題歌「Pretender」はオリコンの週間ストリーミングチャートで8月19日付まで12週連続1位に。累積再生数は4千万回を超えました。また、1週間の再生数は、同7月29日付で354万7千回を記録し、昨年12月末に同チャートが始まって以来の最多を更新しました。

ストリーミングという新しいフィールドは、CDのように「わかりやすく売れる」現象は見えにくい場です。そんな中で、ヒットを実感させてくれるのがライブの観客の熱量だと、4人は言います。7月8日には初めて日本武道館でライブを行いました。

楢崎さんは「武道館は音の圧がすごかったですね。人の声は混ざると塊になる。みんなが聴いてくれているんだなぁ、と実感しました」。

松浦さんは「曲を聴いてくれている人がいるからこそ僕らは活動できる。ライブもみんなが声を出してくれるからより良くなる。そういう楽曲を作ることができて、ライブで演奏できていることが、本当にいい状況だな、と思います。これをさらに超えていく楽曲を作りたいし、応援してくれる人のためにも作らなきゃと思いますね」。

全国ツアー最終日だった7月22日、東京・青海のゼップダイバーシティでのライブも超満員。CDで聴くよりもロックっぽくて、力強い演奏を聴かせてくれました。

「僕らはそれぞれに音楽のルーツが違っていて、もともと好きな音楽のジャンルも違う。その中で今回はライブハウスっぽいバージョンにしました」と松浦さん。

藤原さんも「ホールとライブハウスは音の響き方も感じ方も違うので、一番ベストな、一番楽しんでもらえるライブ作りを心がけているんです」。

6~7月の全国ツアーは全公演でチケットを完売したヒゲダン。ストリーミングでのヒットは実像が見えにくい分、ライブの観客動員数が、人気の確かな裏付けになります。

Official髭男dism『Pretender』(ポニーキャニオン)

タイアップで心がけていること

7月31日に出した新シングル「宿命」は、朝日放送系「熱闘甲子園」のテーマソング。華やかな金管楽器のフレーズが印象的で、サビ前の「届け」という力強い歌声でがっちりつかまれます。オリコンの週間ストリーミングチャートで、8月19日付では「Pretender」に次ぐ2位に入りました。

ドラマや映画などのタイアップが多いヒゲダンの楽曲。曲作りに影響はあるのでしょうか。

藤原さんは言います。

「お題や要望があったとして、その要望を取り込んで自分たちが何を見るか。自分たちの大事な楽曲として放っていくものなので、4人が『これは来たな』と思える自信作を書くことが、僕たちにとっては最優先なんですよ。タイアップだろうがなかろうが、やることは同じ。いい曲を作ることです。時間をかけてみんなでアイデアを出していけば、必ずいい答えがあるんだな、ということが活動の中でわかってきたので、非常にクリエーティブで楽しい時間ですね」

ヒゲダンの曲は、どのタイアップであっても、メロディーが覚えやすいという共通点があります。その背景は彼らの音楽的なルーツにあるようです。

阪神甲子園球場で撮影にのぞむ(右から)松浦匡希さん、藤原聡さん、小笹大輔さん、楢崎誠さん=遠藤真梨撮影
阪神甲子園球場で撮影にのぞむ(右から)松浦匡希さん、藤原聡さん、小笹大輔さん、楢崎誠さん=遠藤真梨撮影
出典: 朝日新聞

「優等生みたいに見られるともったいない」

藤原さんと楢崎さんは高校時代にブラスバンドに所属していて、野球部の応援で演奏したそうです。小笹さんは小学4年のときに3カ月だけ、野球をやっていたとか。

「宿命」を作る前に、4人は今年春の選抜高校野球大会の決勝を観戦しました。球児や周りの応援の真剣さを肌で感じたと、藤原さんは言います。

「球児にとって野球は何か、と考えたとき、『宿命』という言葉に出会って、これだと思ったんです。生まれ持った定めという意味もありますが、このチームで勝ちに行くためにすべての思いと時間をつぎ込む姿が、宿命という言葉で表せるんじゃないかと。球児だけでなく、誰でも一人一人が自分の人生における宿命というものを自分で選んで背負っているんだ、と思って、すべての人をたたえるような歌を作りました」

ヒゲダンの曲作りには、ブラックミュージックをベースに、ロックやジャズなどさまざまな音楽を吸収してきたことが生かされています。

例えば、小笹さんはパンクロックやメロコアが好きで、藤原さんと小笹さんの出会いは、フィンランドのメロディックデスメタルバンドChildren of Bodomがきっかけでした。ギター&ボーカルのアレキシ・ライホと同じ形のギターを使っていた中学3年の小笹さんに、高校2年の藤原さんが声をかけたそうです。また、藤原さんが大学で最初にコピーしたのは、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTだったとか。



「僕らは、ブラックミュージックをルーツに持つピアノポップバンドと言われることが多いですけど、それだけじゃないし、これからはわかりませんよ」と楢崎さん。

「4人に共通するのは、グッドメロディーを好きなこと」と藤原さんは説明します。

「ブラックミュージックだったら何でもいいわけじゃなくて、『この曲いいね』と言う曲は、どんなジャンルでも、たいていメロディーがいいんですよね。やりたい音楽がいっぱいあって、ロックも静かな曲も好きだし、いろんなことができると思っています」

藤原さんが大半の作詞作曲を手がけ、アレンジは4人全員で。レコーディングでは音決めに最も時間をかけ、互いに積極的に提案し合うそうです。

「みんながみんな、いろんな楽器を好きで興味があって、音楽自体が好きだから、レコーディング中の意見は大事にしています」と松浦さん。
ゼップ・ダイバーシティでのライブでは、ギターの音色やフレーズも、ロック調のものが目立ちました。

「ポップスが好きですけど、あまりとがっていないのも面白くない。僕たちは人間的にすごいまじめなんで、優等生みたいに見られるともったいない、という思いもあって、常にみんなをびっくりさせたいと思ってます。ちょっと裏切って、みんなの記憶に残るようなことを、ライブでも楽曲制作でもやりたいんです」と小笹さん。

「決め事を作らない」

4人がいま、音楽をやるうえで大事にしていることは何でしょうか。

楢崎さんは「Have funですね」と即答しました。

「悲しい曲調の曲でも心地いいサウンドや人の琴線に触れるものを探ることが楽しいので、楽しむことを意識して、制作もライブもやっていきたいですね」

小笹さんは「常に驚きが欲しいと思っていて、楽曲制作だったら、メロディーが次はこう行くだろうと思ったところに行かなかったけど、すごく美しい、とか。ただ流れて終わって欲しくないし、新しい発見があったとみんなが思ってくれるような曲を作りたいですね。ライブアレンジも驚かせたいし、みんなの記憶に残るようなことをやりたい。常に新曲に興味を持ってもらえるバンドでありたいと思いますね」。

松浦さんは「僕らは、国民的なバンドになりたい、というざっくりした目標があって、国民的なバンドっていうのは、一番大事なのは、聴いている一人一人にどれだけ寄り添っているか、どれだけ背中を押せたり、人生の1ページの中で曲が鳴っているか、だと思うんです。だから、グッドメロディーを作って、レコーディングで個々の楽器に魂を込めるし、ライブも楽しんでもらえるように考える。記憶に残る、人生に寄り添える音楽を作りたいですね」。

大半の作詞作曲を手がける藤原さんは、曲作りについて語りました。

「決め事を作らないこと。やりたいと思ったらやってみて、結果的にそれがかっこいいと思ったら世に出す。自分のスタイルはこれ、ということを決めないようにしています。楽器も4人だけじゃないし、自分たちが作る楽曲でベストな音は何か、ベストなメロディーは何だろうってことを突き詰めていくことを大事にしています。決め事を作ると、曲作りにワクワクしなくなる気がするし、自分たちが、いい曲だなぁ、いいバンドだなぁ、と思いながら活動していけるのが一番健全だと思うんですよ。今は楽しいし、やりたいことをやれていることが一番幸せ。そのためにも決め事は作らないようにしています」。

「決め事を作らないでいると、何か思わぬところから新しい音楽の曲がり角を教えてもらえるときがあって、音楽は無限で楽しいものなんだと感じられる。音楽をより好きになりましたね。例えば、メロディーのコード進行が微妙だな、変えたいな、と思った瞬間に、このコードだったら、こういうメロディーにいく方が面白いんじゃないか、という予感がある。このコードが教えてくれた、元のまま押し通していたら出会えなかったメロディーの道だと思うんですよね。より素晴らしい音楽が自分の中の道にあるのに、『これはもう決定だから』と諦めることが音楽的に健全なのか、というとそうじゃない。新しい気づきに忠実にやっていく方がいいと思うし、そうすると、いろんなところに曲がり角があふれているんです」

Official髭男dism『Traveler』(ポニーキャニオン、10月発売予定)

違うサビだった「Pretender」

大ヒット曲「Pretender」のサビも、最終的に決まるまで紆余(うよ)曲折あったと、藤原さんは説明します。

「『この曲でいきましょう』と一度なったときは、違うサビだったんです。でも、コード進行をもうちょっとドラマティックにしたいと思ったときにパッと出てきたのが、今のサビ。変えて、より良くなったので、自分がもうちょっとこうしたいな、と思うときはとにかく試すことを大事にしています。自分たちも一生消えない思い出、そのときベストだと思うものを作りたいから、基本的にやりたいことは全部やります。それを思い切りやらせてくれるチームがいることにはすごく感謝していますし、本当に楽しいです。メンバーが教えてくれる音楽の楽しさがある。次に何をするか、常に話しているんです。だからずっとクリエーティブだし、それがこのバンドの強みだと思っています」

4人は今、夏フェスに出演しながら、10月に発売予定のアルバムを制作中。超多忙な夏を過ごしています。

新作には、メンバー全員がそれぞれに作った曲を収録する予定です。

タイアップの曲も多い中で、「何もないところからどう作ろうか、という話も楽しくて。この4人だったら本当にいいものを作る、と信頼してくれるチームがいるので、ありがたいですね」と藤原さん。

そんな藤原さんにとっての夢は、4人が出会った地である島根県で大きなフェスを開くこと。

「仲のいいアーティストには僕らの地元の魅力を知って欲しいし、地元の人たちにはすごく素敵なアーティストたちのライブを見て欲しい。結構真剣に考えています」

2016年6月、大阪のイベントでポーズをとるOfficial髭男dismのメンバー=伊藤周撮影
2016年6月、大阪のイベントでポーズをとるOfficial髭男dismのメンバー=伊藤周撮影 出典: 朝日新聞

ストリーミングでつかんだチャンス

ストリーミングは昨年、米国の音楽産業で収益の75%を占めるようになり、米国では楽曲制作にも影響を及ぼしています。イントロを短くしたり、アルバムの1、2曲目にヒット曲を入れたり。長い曲は受けず、短い曲が増えていると指摘されています。

多くのストリーミングサービスでは、曲が始まって30秒以上聴かれると1再生と数えられますが、30秒未満でスキップされると、再生されたことにならないとも。

例えば日本で、ストリーミングで最大のヒット曲といわれるあいみょん「マリーゴールド」は、始まって20秒ほどで歌が始まり、1分5秒ほどでサビに入ります。やはりストリーミングで大ヒットしたKing Gnu「白日」は、歌で曲が始まります。

ヒゲダンの「宿命」は約10秒で歌が始まり、約1分で「届け」という印象的な言葉からサビに入ります。「ノーダウト」は約20秒で歌が始まります。

一方、「Pretender」は、イントロのギターのフレーズだけで約1分。それでも聴かれ続けているのはなぜでしょうか。

メンバーはインタビューで、レコーディングでは音決めに最も時間をかける、と説明してくれました。

4人の話を踏まえて、何度も繰り返し聴いて感じたのは、イントロのギターの澄んだ音色とメロディーがどこか懐かしく、それだけで引きつけられるからではないか、ということです。

そのうえで、誰もが一度は経験がありそうな、届かない思い、切ない失恋を描いた歌詞が共感を呼び、サビの節回しや、イントロと同じメロディーを奏でる最後のピアノの音色が耳に残った、ということが、ヒットの最初のきっかけだったのでは、と想像します。

また、インタビューで「僕たちは人間的にすごいまじめ」と話していた通り、4人を見て、浮ついた印象は受けません。島根県という地元への愛を率直に語る様子には親しみを感じます。

身近にいそうな4人が演奏することで、より普遍的な歌として、リスナーの心に響いたのではないでしょうか。

ストリーミングでは、一度チャートの上位に入ると、さまざまな「プレイリスト」に曲が入るため、さらに再生数が伸びる、という特徴があります。チャンスをつかんだヒゲダンは、10月に出す新アルバムと、その後に続く大規模な全国ツアーで、さらに勢いを増しそうです。

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