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山田孝之がネットフリックスに食いついた理由「全裸監督」という事件
その動向が常に注目を集める山田孝之、35歳。世代を代表する人気俳優であり、映画プロデューサーやミュージシャン、会社経営者の顔も持つ。そんな彼が「AVの帝王」を演じているという。制約ばかりのテレビや映画に「フラストレーションがたまりにたまっている」という山田が飛び込んだのは、世界的な動画配信サービスのネットフリックス。「半裸になることも抵抗はなかった」。今、彼は何を考え、何を見据えているのか。少しだけ頭の中をのぞいてみた。(朝日新聞記者・小峰健二)
カメラを肩にかかえ、ディレクターズチェアに座ったパンツ一丁の山田が、不敵な笑みをたたえて、こちらに視線を投げかける――。
8月8日からネットフリックスで配信されているドラマシリーズ「全裸監督」の広告ビジュアルだ。
ひと目見て、強烈なパンチを食らった。「また山田が変なことをしている」と思った。本人のインタビューができるという。映画担当記者として、会わないという選択肢はなかった。
山田が主演する「全裸監督」は、バブル絶頂の1980年代を舞台に、「AVの帝王」と呼ばれたアダルトビデオ監督・村西とおるの半生を全8話で描く。共演する玉山鉄二が「よく企画が通った」と語るように、過激な性描写も含んでいる。
山田は出演のオファーを受けたときをこう振り返る。「村西さんを紹介する宣伝文句が『前科7犯、借金50億』……。それだけでも、すげえ人だなと。その時点で、やりたいと思いますよね? これは多分すごいことが起きる、起きちゃうなと思った」
米国発の動画配信最大手のネットフリックスは世界が相手だ。今作も約190カ国で見られるという。「事件を起こそうと思いました。この作品が、世界中に配信されるのは事件みたいなことだと思います」と興奮気味に語る。
村西は英語教材のセールスマンから転身し、当時爆発的に売れ始めていたアダルト雑誌の販売を足がかりに、文字どおり裸一貫でエロ業界に飛び込んでいったパイオニアとして描かれる。演じる山田も、俳優だけの活動にとどまらず、映画「デイアンドナイト」をプロデュースしたり、俳優仲間と音楽バンドを組んだりするなど、開拓精神にあふれる活動を続けている。そんな山田にとって村西は「はまり役」のように思えてくる。
村西にシンパシーがあるのではないかと聞くと、「ありますね」と即答。「村西さんの発言や、言いそうな言葉からセリフが作られていますが、それはすごく理解ができます」と言う。
初期段階から制作に関わり、村西本人にも会った。印象は「スイッチを切り替える方だと思った」と言う。「話している相手や内容によって、様子や雰囲気がすごく変わる。みんなで言っていたのは、『ものすごい天才かもしれないし、とんでもないうそつきかもしれない』ということ。どっちだ? いや、どっちでもいいやと」
それは、ハッとする美貌(びぼう)で観客や視聴者の心をわしづかみにする二枚目を演じたかと思えば、女性用下着を身につけて公の場に現れてファンの度肝を抜く三枚目にもなる、つかみどころがない山田と通ずる。そう指摘すると、早口でまくし立てる。
「村西さんは、どっちでもいいんですよ。魅力的な方というのは分かっているので。僕も『いい加減なヤツだ』『馬鹿だ』『天才だ』とか、何を言われても別にいい。顔も知らない人に、どう思われたって」。そして、続ける。「でも、僕は人生をめちゃくちゃ楽しめている。それでいいんです。しかも楽しめているだけでなく、数人なのか数百人なのか分からないけど、人を楽しませることもできているから、めちゃくちゃ幸せなことですよね」
人の目や評価は気にしない。だから、AV監督を演じることも、半裸になることも抵抗はなかったという。「これができるのは俳優だからこその特権です。村西さんの人生を疑似体験で生きられるわけですから、これは俳優以外できないことです」
2015年に日本でサービスを開始したネットフリックスは近年、自社制作のオリジナル作品を続々と投入しており、テレビや映画とは異なる「第三極」になりつつある。今回、同社の作品に初出演した山田の目にはどう映ったか。そう問うと、「ネットフリックスに人が集まって当然だと思います。見る側も作る側も」と言い切る。
現在のテレビや映画の現場は、「それは出来ません」「それも無理です」「その中でできることをやってください」といった制約ばかり、という。「作り手はフラストレーションがたまりにたまっている。『全裸監督』のスタッフや俳優は、それを爆発させ、表現に変えていった感じです」
受け取る側がどう思うかではなく、作り手側が「これを作りたい」という作品を世に出すことが、山田にとっての「表現」だという。世界で1億5100万人からの会費(日本で1千円前後)で成り立っているため、スポンサーの意向を意識せず、途中でCMを入れることを想定した作りにすることもない。その意味で、足かせのないネットフリックスが制作体制を強めていることを歓迎している。
劇中に登場する、80年代の新宿・歌舞伎町の街並みをつくりあげた巨大セットを見れば分かるように、予算は潤沢だった。それだけでなく、制作期間も余裕をもって組まれていた。「ただただ楽しかった。今までで一番楽しい現場だったと思います。撮影が終わるのが嫌でしたし、ここまでスタッフやキャストが一つになったのは初めて経験でした。それに、全員が全力で楽しんで、ひとときもブレーキを踏まない感覚が、気持ちよかった」。山田は目を輝かせて言う。
そんな経験をしたからこそ、「(出演者側の)選択肢として配信があることはすごくいいこと」と、俳優がより広範囲に活躍できる場になりえると山田は見ている。そして、トップランナーたる山田が、新種の配信サービスに「まずは自分から」と、食いついていったという形だろう。「食いついたのか、食いつかれたのかわかんないです(笑)。少なくとも僕は本気になれるものを見つけてしまったという感覚はありますけどね」
いつも新しいものを求めている人だ。決まった枠組みは嫌いなのだろう。
「嫌ですね。だって、僕は放牧状態で親から育てられたんで。『これをやりなさい』『宿題しなさい』とか、言われた記憶がないし、全然やっていなかった。好奇心旺盛なので、自分が興味がわいたものに、とにかくそこに進んでいきたいんです」。物語を引っかき回し、既存の概念をぶっ壊すトリックスターたる山田から、ますます目が離せない。
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