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「おじいちゃん、泣けなくてゴメンね」 弔いに割った茶碗、流れた涙

ちゃんとあの世へ旅立てるように故人の茶碗を割る。そんな風習をもとに祖父との思い出を描いた漫画が、ツイッター上で注目を集めています。

漫画「割れない茶碗」の一場面
漫画「割れない茶碗」の一場面 出典: よこせ(@fudekichi453)さんのツイッター

目次

 ちゃんとあの世へ旅立てるように故人の茶碗を割る。そんな風習をもとに祖父との思い出を描いた漫画が、ツイッター上で注目を集めています。実体験をベースに描いたという作者に話を聞きました。

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漫画「割れない茶碗」
漫画「割れない茶碗」 出典: よこせ(@fudekichi453)さんのツイッター

タイトルは「割れない茶碗」


 先月25日、「割れない茶碗」というタイトルで計8ページの漫画がツイッター投稿されました。

 漫画は、茜という女性が地面に茶碗を落としながら「意外と割れないな」とつぶやいている場面から始まります。

 次のページでは時間をさかのぼり、祖父が元気だったころを振り返ります。

 病弱だった兄が母から生体肝移植を受けたこと。その間、祖父と二人っきりで過ごしたこと。

 手術が成功して兄が元気になったけれど、数年後に祖父が天寿を全うしたこと。葬儀でも火葬場でも、一度も涙が出なかったこと。

 そして、地元の風習にのっとって、祖父の茶碗を家の外で割ろうとする冒頭の場面に戻ります。


何でも言うことを聞いてくれた祖父


 駐車場に止めてある実家の車を見て、祖父の車のナンバーが自分の誕生日だったことを思い出した茜は、「こんな色 好きじゃない」と言ったことを思い浮かべます。

 通り過ぎる自転車を見て、祖父が買ってきた赤い自転車に対して「自転車は青でよかったの!」と怒ったこと。

 なかなか割れない茶碗を見て、ナス料理を作った祖父に対して「食べれないって言ったのに」と文句を言うと、「ごめん、忘れとったわ。今日はマック行く?」と言ってくれたこと。

 何でも言うことを聞いてくれた祖父との思い出を振り返りながら、「私、すっかりワガママに育った自覚あるよ」と笑います。


「おじいちゃんわかってるでな」


 どうして、おじいちゃんが死んだ時に涙が出なかったのか。

 「生まれて初めておじいちゃんに無視されて、ビビって私の涙、引っ込んじゃったんだ」と振り返った瞬間、「ガチャン」と音を立てて茶碗が割れました。

 「泣けなくてごめんね、おじいちゃん。今までありがとう」と心の中で唱えると、幼い頃の自分が現れて、おじいちゃんの前で泣いています。

 「お……お兄ちゃんだけ お母さんとお父さんと一緒でズルい……うう……。茜だけおじいちゃんと一緒とか最悪……」

 「ごめん……ごめんな お母さんがええよな お父さんがええよな けどお兄ちゃんも色々ガマンして……」

 「茜だってガマンしてる!」

 「そやな……茜ちゃんもガマンしてるよな 他のことはな~んもガマンせんでええよ 本当は泣きたかったの、おじいちゃんわかってるでな」

 祖父に抱きしめられている幼い自分を眺めている茜。割れた茶碗を抱えながら、顔をぐしゃぐしゃにして泣いている場面で漫画は終わります。

漫画「割れない茶碗」の一場面
漫画「割れない茶碗」の一場面 出典: よこせ(@fudekichi453)さんのツイッター

作者に聞きました


 この漫画に対して、「すごくすごくわかります」「自分と生い立ちがほぼ一緒」「何度も読み返して号泣してしまいました」といったコメントが寄せられ、リツイートは3万、いいねは9万を超えています。

 描いたのは、よこせ(@fudekichi453)さん。会社員として働きながら漫画を描いています。

 漫画家を育成する「コルクラボ専科マンガ家コース」を受講していて、そこで課された「相手に響くように伝える」というテーマで描いたそうです。

 「ワークショップで、『誰に』『何を』伝えるかを掘り下げていく中で、今年1月に亡くなった祖父のことが思い浮かんだんです」


妹をモデルに描きました


 茜のモデルになったのは、よこせさんの妹。そこに自身の幼少期の祖父との思い出を加えて描きました。

 よこせさんの弟が母から生体肝移植を受けるにあたって、祖父と一緒に暮らすことに。漫画で描かれているエピソードはその時の実体験がもとになっています。

 「自転車はもらいもので、最初はきれいな水色でした。祖父がよかれと思ってピンクに塗ったら妹が泣き出して……。結局、水色のペンキを買いに行ってもう一度塗り直しました」

 よこせさんが漫画好きだと聞いた祖父は、どんな本が欲しいかを聞かずに書店に行き、「人気のある漫画を選んでください」と店員にオーダーして買ってきたことも。


茶碗が割れた途端に


 よこせさんと妹は故郷を離れて都内に住んでいるため、祖父の最期には立ち会えませんでした。

 遺影を選ぶために昔のアルバムをめくりながら、お調子者だった写真を見つけてみんなで笑い合いあった後、妹が「おじいちゃんの茶碗を割らなきゃ」と言い出しました。

 家の外に出て茶碗を割った途端、それまで明るく振る舞っていた妹が堰を切ったように泣き出したそうです。

 「自分は泣きませんでしたが、どうして妹は突然泣き出したのか? そんなことを考えながら描きました」


作品に込めた思い


 描く前に考えていたメッセージは「おじいちゃん、泣けなくてゴメン」でしたが、今回の課題は「相手に響くように伝える」。

 自分の思いではなく、「おじいちゃんはどう思っているんだろう」と視点を切り替えた時に、「きっと笑って許してくれる」となり、そこを物語の中心に据えました。

 「本来は読者をイメージしながら描くべきだったんでしょうが、今回はおじいちゃんに向けて描きました。自己満足かもしれません」

 作品に込めたメッセージは「何の不自由も苦労もなかったよ。おじいちゃん、ありがとう」でした。


締め切りを大幅に過ぎて完成


 初めてのカラー作品で、課題の締め切りを大幅に過ぎて完成。それをツイッターに投稿したところ、話題になりました。

 多くの反響が寄せられたことについては、こう話します。

 「『わかる』『自分もそうだった』といったコメントを多くいただきました。個別のエピソードは重なっていなくても、大切な人との関わりの普遍的な部分に触れることができたのであれば、うれしいです」

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