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中国にあった「パンダの楽園」シャンシャンとも縁、数十頭がのびのび
パンダと言えば、中国。とくに中国の西南部に位置する四川省はパンダの総本山です。そのなか、四川省の県庁所在地である成都市から約40キロ離れた都江堰(とこうえん)市が、「パンダの町」を売り出そうとしています。山々などの自然風景が映画「カンフーパンダ3」(2016年公開)のモデルにもなり、市内には「パンダの楽園」と呼ばれる施設も。古代の水利施設など「世界遺産の町」として有名ですが、上野動物園のシャンシャンとも関わりがあることから、日本でも「パンダの町」として知られるようになるかもしれません。
都江堰市は世界遺産の町として有名です。2000年には世界文化遺産、2006年には世界自然遺産、そして2018年には世界灌漑施設遺産に登録され、世界遺産の「三冠王」として輝いています。
その三冠王を支えるのは、都江堰市が持つ四つの顔です。
まずは「水」、つまり都市名の由来である「都江堰」です。紀元前256年に築かれた都江堰は、万里の長城とほぼ同年代。ダムを用いず、「分水」などをすることで洪水を防ぐ雄大な水利施設として、世界文化遺産、世界灌漑施設遺産に登録されています。
二番と三番目は「山」と「道」(タオ)です。都江堰市から12キロ離れた「青城山」は、風光明媚な上に、中国道教の発源地であり、中国四大道教名山の一つに数えられています。「青城山」も世界文化遺産に登録されています。
そして、四つ目がパンダです。都江堰市の周辺は青々とした原始林が残っており、山も水もきれいなため、パンダが数多く生息しています。
都江堰市の関係者によると、人工飼育のパンダと野生のパンダを合わせると、69頭のパンダが都江堰市に生息しています。人口80万人の都江堰市は、人口比でみると「世界一パンダが多い都市」になるのです。
都江堰市にはパンダを飼育する二つの施設があります。一つは「パンダの谷」で、もう一つは「パンダの楽園」です。
「パンダの谷」はパンダが野生へ戻るためのトレーニングの場所で、正式な名前は「都江堰繁殖育成野放研究センター」です。
人工繁殖で誕生したパンダたちはここで、飼育員の手厚い保護から独立し、自然界に帰る「野生化」のトレーニングを受けます。これまで成功する事例も出ています。16頭のパンダが暮らしています。
「パンダの楽園」の正式な名前は「中国パンダ保護研究センター都江堰基地」。世界で唯一のパンダの救助、および疾病をコントロールする専門機構でもあります。
多くのパンダが海外へ渡航する前、あるいは帰国後に、ここで一定期間の隔離・検疫を受けています。現在は39頭のパンダが、のびのびと暮らしています。
また、野生のパンダは、市内の原始林などで14頭ほどが確認されています。人間との関わりについて、都江堰の観光事情に詳しい成都市都江堰文化旅行有限会社の鄭光傑(チェーン・グワンジエ)社長があるエピソードを教えてくれました。
「数年前、町に迷い込んできたパンダがいました。そのパンダは川を泳いで、町の中心部に出没し、高い街路樹にもよじ登りました。最終的には保護され、自然に帰りました……」
「生きている化石」とも呼ばれるパンダが800万年前からその土地に代々生息してきた時の長さを考えると、人間が作り上げた町に「迷い込んだ」パンダに不思議な感じも沸き上がります。
5月に都江堰市の旅行関係者が都内で開いた説明会では、世界遺産の紹介とともに「パンダの町」をPRしていたのが印象的でした。都江堰市旅行管理局の高尚(カオ・サン)局長は「カンフーパンダ3」に登場した山々の風景や、パンダたちが太極拳を練習するなどの場所となったパンダ村は都江堰市がモデルになった、と説明。特に日本はシャンシャンの関心が高いことから期待を込めています。
というのも、シャンシャンが将来、帰国する際に、都江堰に行く可能性があるからです。関係者の一人は、アメリカのサンディエゴ動物園から中国に戻ったパンダの「白雲」「小礼物」親子が、都江堰基地で隔離・検疫を受けた例を出し、「シャンシャンも都江堰で検疫を受け、定住する可能性がある」と話しました。
さらにこの都江堰基地は、同じ四川省にある「中国パンダ保護研究センター」の管理下にあります。このセンターの別の施設で、シャンシャンの両親のシンシンとリーリーが生まれ育ったことから、シャンシャンとの関わりを挙げる人もいます。
シャンシャンは当初、12日で2歳になるのを機に中国に戻る予定でしたが、その後の協議で2020年末ごろまで上野動物園での飼育が続くことになりました。
「パンダの繁殖適齢期は4~5歳からなので、3歳半になる来年12月頃に帰国するのがシャンシャンにとって、ちょうどいいタイミング」。こう話すのは、上野動物園の前園長でもある日本パンダ保護協会の土居利光会長です。中国に戻れば、メスであるシャンシャンの婿候補が多く、血統などの面から相性がいいペアリングができるだろうと指摘します。
四川省にあるパンダ基地への視察経験もある土居会長。「都江堰には緑が多く、環境がよい。アクセスも便利で、訪れやすい。『行きやすい』ということはパンダの保護活動にもつながる」と魅力を語ります。
中国でしか味わえないパンダ観賞の醍醐味については、「飼育頭数が多いので、パンダのしぐさや表情など色々なバリエーションを比較できる。自分好みのタイプのパンダを見つけることができます」。シャンシャンが都江堰市へ行くことになれば、パンダの楽園でシャンシャンを見る日がいずれ来るかもしれません。
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