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「父親のことをよく知らない」父子家庭を漫画に 琴線触れる言葉たち
父と2人で暮らす小学生・花さんを描いた漫画「コスモス」(光用千春作、イースト・プレス出版)。配偶者と別れた親の子どもへの思い、親が別れたことに対する周囲からの視線や子どもたちの反応、子ども同士の日々のやりとり……。その一つ一つをつぶさに、そして優しいタッチで描いた漫画に共感が広がっています。(朝日新聞記者・吉田貴司)
コスモスは主人公・花さんのお母さんが家を出ていく場面からはじまります。でも、花さんにとって、より大きな問題がありました。それは「お父さんをよく知らない」ということでした。
最初は会話もちぐはぐだった二人。花さんはお父さんが好きな歌を口ずさむことや映画を観ることなど、今まで知らなかったお父さんの姿を知ることになります。
作者の光用さんに聞くと、そもそもこの「父親のことをよく知らない」ということが作品をつくる原点だったといいます。
光用さん自身も警察職員をしていた父についてよく知らなかったそう。「父のことは何も知らないけれど、『おはよう』も『おやすみ』もいう。それで『家』というものが成り立つって面白いなあということを描いてみました」
元々はイラストレーターのアルバイトをしていた光用さんが、アルバイト先の出版社に第1話を見せると、「面白いね、続きも読みたい」と言われるようになり、Webメディアのマトグロッソで連載に。4月に書籍化されました。
さっぱりとしたタッチのイラストが、かえって素直な気持ちを力強く表しているのがこの漫画の特徴の一つです。
そんな作画について、光用さんはあまり強いこだわりがあったわけではなく「ただ、読みやすさを意識しました」といいます。ストーリーは、自身の経験を基に描いたのではなく、それぞれのキャラクターが「こんな場面の時だったら、どう振る舞うのだろう」と想像して描いてきたそうです。
「私(作者)はこのコマの片隅で飛んでいる蚊?みたいな感じ。ブンブンとまわりを飛び回って人間の様子をみて『大変だな』って思う。そんな風に観察して描いているというのが近いのかもしれません」
そして、もう一つの漫画の特徴がキャラクターたちのセリフです。
多くは日常の会話やふと思ったことが描かれているのですが、度々考えさせられるような言葉がふと現れてくるのです。
こういった言葉がどのように紡ぎ出されてくるのでしょうか。光用さんに聞くと、日頃出会ったふとした言葉をメモに残しているそうです。「いい感じの言葉のストックは常にあります。その言葉を(日常の会話を描いた漫画に)ぱっと出すと違和感が残る。読者の方はそこに引っかかるのかもしれません」
志賀直哉や太宰治、中島敦といった文豪の小説が好きという光用さん。繊細な表現は、小説からの影響もあるのかもしれません。
親戚や同じように両親が別れてしまった転校生など、作品の中で、花さんはいろんな人に出会います。中には好きじゃない人や面倒だなと思う人もいるけれど、様々な人との出会うことで花さんは今まで気づかなかった自分自身の感情が芽生えていきます。
ストーリーでは、登場人物同士の考えがすれ違うこともあります。光用さんが描きたかったのは、むしろ、そんなところだそうです。
「『わかった』という言葉が好きじゃない。理解しあうというのは描きたくないんです」。理解しているかのように「一人親ってかわいそう」という人もいるけれど、そんなこともないんじゃないかなということを描きたかったといいます。
「わかり合うことが家族かと言ったら違う気がします。一緒にいてわかることもわからないこともある、間違ったらごめんと言う。それでいいんじゃないかと思うんです」
言われてみれば、世の中や他人のことはわからないことだらけ。そんな毎日を「わからなくてもいいんだよ」と優しく伝えてくれるような一冊でした。コスモスは各書店で販売中です。
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