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IT・科学

桃尻が加齢で「ピーマン尻」に 筋肉体操・指導者に聞く逆転の筋トレ

NHK『みんなで筋肉体操』に筋肉指導者として出演した近畿大学生物理工学部准教授・谷本道哉さん。
NHK『みんなで筋肉体操』に筋肉指導者として出演した近畿大学生物理工学部准教授・谷本道哉さん。 出典: NHK『みんなで筋肉体操』提供

目次

テレビ放映直後からネットで大きな話題を集めたNHKの『みんなで筋肉体操』。この人気番組で俳優の武田真治さんを始め、マッチョな弁護士や庭師といったユニークな面々に「筋肉指導」をするのが、近畿大学生物理工学部准教授の谷本道哉さんです。

「筋肉好き」が高じてサラリーマンから筋生理学・トレーニング科学の研究者になった谷本さん。筋トレブームの昨今、飛び交う情報の中には勉強不足や思い込みによる誤解も多々あると言います。そんな谷本さんから、科学的根拠のある筋トレの効果とその方法について、話を聞きました。
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痩せて見えてもお尻は「ムンクの叫び」

1972年、静岡県生まれ。大阪大工学部卒業後、大手建設コンサルタントに入社。恩師である石井直方東京大学教授のボディビル雑誌の連載記事を読んで衝撃を受けたことをきっかけに、27歳で退社、東京大学大学院に入学した。同院博士課程修了後は国立栄養研究所、順天堂大で博士研究員を務め、2013年から現職。
1972年、静岡県生まれ。大阪大工学部卒業後、大手建設コンサルタントに入社。恩師である石井直方東京大学教授のボディビル雑誌の連載記事を読んで衝撃を受けたことをきっかけに、27歳で退社、東京大学大学院に入学した。同院博士課程修了後は国立栄養研究所、順天堂大で博士研究員を務め、2013年から現職。 出典: 谷本道哉さん提供
――あらためて筋トレのメリットを教えていただけますか。

健康面のメリットももちろんありますが、若い人なら「メリハリのある体になる」ことが挙げられます。「ダイエット・ボディメイクは体重を落とすだけでは上手くいかない」ということが最近よく認識されてきているように、筋肉をつけることは体の「カタチ」に大きく影響しますから。

――どういうことでしょう。

例えば今は筋トレブームで、女性の間で「Booty」としてお尻のトレーニングが流行っていますよね。「お尻に年齢が出る」と言われることがありますが、これは本当です。そして、加齢によるお尻の形の変化には筋肉が強く関係しています。
下着メーカー・ワコールの人間科学研究所の研究を紹介しましょう。ワコールは1950〜1960年代生まれののべ4万人の女性を最長で30年間以上追跡したデータから、女性の体型の変化を時系列で分析しました。
ワコール提供
ワコール提供
そこでわかったのは、女性のお尻の形が加齢に伴いステップ0からステップ3へと崩れていく、ということ。最初は横から見て半円形で垂れていないステップ0です。
 
そこから徐々に下部がたわみ(ステップ1)、メリハリがなくなって四角形に近づき、ヒップの頂点が下がる(ステップ2)。やがて側面のボリュームが削がれて、ヒップが中央に流れる(ステップ3)。
 
わかりやすく形容すると、丸みのおびた「桃」が垂れて「ピーマン」のようになり、さらに頬がこけて「ムンクの叫び」のようになっていくわけです。
 
――わかりやすいです! でも、どうしてこのような変化が起きるのでしょうか。

皮膚のたるみなど別の原因も関係しますが、加齢により筋肉が衰えることの影響が大きいと考えられます。皮下脂肪は筋肉と結合組織でつながっていますから、筋肉がやせ衰えて丸みがなくなっていくと、脂肪も一緒に垂れていくんですね。
 
これは皮下脂肪の厚みの大小に関わりません。だから、痩せていても加齢で筋肉が落ちればお尻は『ムンクの叫び』になってしまいます。お尻の筋肉は加齢で落ちやすく、特に年齢が出やすい部位と言えます。
 
――「体のデザインは単純なカロリーの足し算・引き算による体重の増減だけでは決まらない」ということですね。一度、ステップが進んでしまうと、元に戻る方法はないのでしょうか。
 
ワコールの分析によると、この30年間のステップの進行が小さかった群は、たくさん歩くことを心がけたり、体をよく動かしたりするなど、日常生活での活動強度が高かったといいます。でも、筋トレをしっかりすれば、その効果は加齢変化を抑えるだけに留まりません
 
筋肉は運動刺激に対して強く大きくなることができます。その能力は年をとっても保たれます。ですから、筋トレをしっかりすれば、ステップ3からステップ0に「逆行させていく」ことも可能です。実際、女子のトップボディービルダーで見事なヒップの形を保っている方には、50代以上の方がたくさんいますから。

筋トレで「痩せやすい」体になる

――筋トレ、大事ですね……。

筋肉をつけるボディメイクという面だけでなく、脂肪を落として痩せるボディメイクとしても筋トレには意義があります。よく言われることですが、しっかりと全身の筋トレをすれば体は痩せやすくなるんです。

筋トレで筋肉をつけると、安静時のエネルギー消費、いわゆる基礎代謝量が上がります。これは多くの研究で証明されていて、平均すると3カ月程度の筋トレで100kcalほどの基礎代謝量の増加になります。

100kcalというのは、例えば70kgの人が通常の速度(70m/分)でウォーキングした場合の、40分の運動量に相当します。忙しい人にとって、これは結構なアドバンテージですよね。

――40分歩く分が、自然に消費されているわけですもんね。

はい。そして、基礎代謝が上がることが複数の研究で明確に示されているのは、実は筋トレだけです。痩せる運動といえばジョギングのような有酸素運動というのは正解で、運動中の脂肪の消費はとてもすぐれています。でも、有酸素運動では基礎代謝は上がりません

基礎代謝は加齢とともに下がり、男性の50-60代では10-20代よりも100kcalほど平均値が低下します。ここには筋肉量の減少が関係しているとされます。年を取ると太りやすい体になると言われるのはこのためですね。

――筋トレをすれば、筋肉量を維持したり、増加させたりすることができる、と。

筋肉が太く大きくなることを「筋肥大」と言います。筋肥大を促す刺激には、大まかにいうと物理的ストレスと化学的ストレスがあります。これらのストレスを与える効果が、筋トレは圧倒的に大きいんです

なお、筋力が高いほど死亡率や脳梗塞、心不全などの罹患率が低いことが、いくつかの疫学研究で報告されています。健康面でも筋肉は大事といえます。
 
その一つに「握力が高いほど死亡率が低い」という有名な研究があります。ただし「だから握力を鍛えよう」というわけではないので誤解しないでください

握力と相関する全身の筋力や筋肉量が健康に大きく関わるということです。握力は簡単に大人数のデータをとれますので、研究ではそれを指標に評価しているわけです。
 
――では、具体的にはどこを鍛えるのがいいですか?
 
もちろん全身、すべて大事です。順位をつけるなら、生活機能に直結する体重を支える下半身の筋肉が一番。スクワットが最重要といえます。見た目を重視するなら上半身ですけどね。

やってるつもりでも「できていない」

――「これから筋トレを始める」という人は、具体的にはどんなトレーニングをするのがいいでしょうか。

手軽にできるという意味では、器具を使わず、自分の体重だけを使う自重トレーニングがおすすめです。腕立て伏せや腹筋・背筋、スクワットなどですね。

――あっ、『みんなで筋肉体操』だ。

そうですね(笑)。筋肉体操は「効果の高いきちんとした筋トレの方法を示したい」という思いで監修を快諾した番組です。短時間集中で、自重負荷でもしっかり効果があるように、いろいろなテクニックを駆使してメニューを考案しています。
 
――でも、筋トレをするなら重いバーベルを使ったり、回数をたくさんしたりした方が効果が高そうですが……。

バーベルを使う方法は確かに優れています。重りを使って強い負荷をかけられますし、細かい負荷の調整も可能です。でも、自重でもやり方次第で、十分に強い刺激を加えられますよ。負荷の調整もできます
 
腕立て伏せなら、狭めの手幅で体を真っ直ぐにして胸が床につくまで下ろす。これを反動を使わずに丁寧におこなえば、10〜20回でも相当にきついです。「お前、腕立て30回できねえのかよ」と友だちに言っていた学生に、きっちりこの方法でやってもらったら、5回が精一杯でした(笑)
 
みんな回数を多くしたくて、ごまかしたラクなやり方をしちゃうんです。やっているつもりで全然できていない。胸がつかない腕立て伏せは「腕立て伏せかけ」。質の低い100回よりも質の高い10回の方がずっと効率よく筋肉をつけられます
 
腕立て伏せは、深く下ろしたときほど筋肉にかかる力が強くなります。また、深く下ろして筋肉が伸ばされるほど筋損傷が強く起こります。上下動が大きく力学的仕事量も増えます。刺激が強くなれば、筋肉がより強く大きくなる。腕立て伏せと腕立て伏せかけでは全然違うんです。スクワットも同じ。浅いスクワットは「浅はかなスクワット」です。
 
始めようと思えばその場で「1秒後にでもできる」のが自重トレーニングのメリットです。また、腕立て伏せなら、膝をつけば負荷は軽くなり、椅子に足を乗せれば負荷は重くなります。フォームで負荷を調節してオールアウト(これ以上の動作ができない状態)までやってみてください。
 
――そういえば、「腕立て伏せ」の回ではゆっくりの動き(フルレンジプッシュアップ)と早い動き(ハイスピード・プッシュアップ)のものがありますよね。
 
筋トレにはいろんなテクニックがありますが、その1つとして「スロー」と「クイック」を組み合わせたものですね。筋肉をつける刺激には物理的なものと化学的なものがあると言いましたが、それらを自重の負荷でも効率よく与えることができるように工夫しています。
 
スローは力を入れ続けて動作することで、筋肉にジワジワと持続的な力を与え続けます。こうすると筋血流が制限されて運動することになるため、比較的軽めの負荷でも乳酸などの代謝物が多量に蓄積して、筋肉内の化学的環境が過酷になります。
 
クイックは切り返しの加速度によって、自重でも強い物理的負荷をかけられます。その切り返しの大きな加速度をより筋肉が伸びたポジションで加えることで、筋肉痛を起こす刺激が大きくなります。
 
ハイスピード・プッシュアップでは、切り返しの物理的ストレスと、高回数おこなうことにより代謝物が多量に蓄積する化学的ストレスの両方を強く与えられます。自重でも工夫次第で効果的な筋肥大の刺激を加えられるんです。筋肉体操では他にもいろいろなテクニックを駆使しています。
 
――基本的には初心者なら筋肉体操をやっておけば、自然と谷本先生の教えが身につくわけですね。でも、筋肉体操はかなり上級者向けでは?
 
北海道版の『北海道で!筋肉体操』では、レベルダウンの方法もあわせてお手本を見せています。公式動画が公開されているので、自分に合うレベルでやってみてください。1部位週2回くらいの実践が良いでしょう。ちなみに、北海道版の締めは「筋肉は裏切らんべ!」ですよ。


注意点として、最初は張り切りすぎないようにしてください。激しい筋肉痛に悩まされてしまいます。徐々に慣らしていけば筋肉痛はさほど起こらなくなります。はじめの1週間はフォームを覚えるくらいで、翌週からはしっかりオールアウトしてください
 
――早速、実践してみます。ありがとうございます!

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