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ツッコミは全21種類!? 漫才研究を極めた芸大院生、パターンを図解
先日、東京芸術大学の卒業制作展に行きました。たくさんのアート作品の中で、あるプレゼンに目がとまりました。その内容は…漫才、ボケとツッコミ?? 聞いてみると、制作した学生は「ツッコミは大きく分けると21種類になる」と言っている。気になる。面白そうなので、深掘り取材してみました。
なお、この記事には何組かの芸人さんの漫才を例に出して説明します。ネタバレとなる場合があるので、ご了承ください。
プレゼンをしていたのは、東京芸術大学大学院デザイン専攻の最上あやさん(26)。発表していたのは漫才における「ツッコミ」を分析したものです。作品のきっかけは、お笑い芸人の千原ジュニアさんがラジオ番組での「ツッコミとは何か?」という質問に対し、次のように答えていたことだそう。
描写などの際に境目をはっきりさせる「フチ取り」。このラジオでの千原ジュニアさんの言葉に、デザインを学ぶ最上さんは「そういわれればそうだよな」と思います。と同時に、どんなフチ取り方法があるのかについてどんどん考えていったそう。
ひたすら漫才を見て、このボケとツッコミはどんな関係性かというのを模造紙に付箋を貼っていき……すると、漫才におけるツッコミによる「フチ取り」についてアイデアが浮かび上がってきました。
浮かんできたアイデア、それはツッコミが「なにをフチ取るのか」「どのようにフチ取るか」という2点でわけられるというものでした。
漫才には注目してほしい笑いのポイントがあり、観客にそこへ意識を向けさせるのがツッコミ。つまり、この笑いのポイントをうまく浮かび上がらせることこそ、ツッコミの「フチ取り」であり、「何をフチ取るか」というのは、その漫才の笑いの要素が何か、という点を観客に伝えることとなります。
分析では、この「何を」について、「動作」「場面・状況」「容姿・外見」「成り立ち・関係」「思考・評価」「語意・用語」「音」の7点にわけられるといいます。
最上さんは具体的に実在する芸人さんのネタで説明していました。例えば……
上のフットボールアワーのネタでは、「S字クランク」といったことばでボケた相方に対し、「教習所」と場所について触れてツッコミを入れることで笑うポイントを浮かび上がらせています。
次にギャロップの例です。このネタでは「20代のコンパに場違いな誘いをする」相方のボケに、「ババ抜きやないか」とツッコミを入れます。ここでのババ抜きは、「多くの20代モデル」と「1人の芸人」という関係性をトランプのババ抜きと例えて、笑いを浮かび上がらせているのです。
次に、どのようにフチ取るか、という点です。この関係性について、最上さんは3種類に分けられると考えました。この「どのように」はデッサンするときに輪郭や稜線などを描く方法にも似ていると言います。どんな分類なのでしょうか。
上の集合図が3つの分類を表しています。いわずもがなですが、ツッコミは単体では成り立たず、『ボケ』と『ツッコミ』の関係で成り立ちます。この2者の関係性こそどのようにフチ取るかということになるのです。
左はツッコミがボケの詳細を伝えることで笑いのフチ取りをするということ。中央はボケがある事象の詳細を伝えた上でツッコミがその全体を説明し、イメージさせるような関係。そして右はボケとツッコミに共通項があり、観客はこの共通項に気づくと笑いが生まれるというものです。
この見取り図のネタでは、「豚まん」と「包むな」がボケとツッコミの関係となります。「豚まん」というボケに対して「包む」というより詳細を伝えるでフチ取りをします。観客のイメージをより絞っていくことで笑いとなります。
もう一つ、具体例で紹介します。
ミキのこのネタでは「高齢のJr.」と「Mr.Children」がボケとツッコミの関係です。この二つの言葉は、年齢層の異なる二つの言葉を掛け合わせているという点が共通しています。この共通項への気づきが観客を笑わせるのです。
少し長くなってしまいましたが、以上の「何をフチ取るか」(7種類)と「どのようにフチ取るか」(3種類)を掛け合わせた21種類がツッコミの「フチ取りパターン」になるのです。最上さんはこの21種類のツッコミを図解したダイアグラムを卒業制作として完成させました。
このパターンをM-1グランプリ2018で優勝した「霜降り明星」の決勝でのネタにあてはめてみます。
この霜降り明星のネタ。「学校でしゃべるな」というボケに対して「厳しすぎる」とつっこんでいます。この二つの関係、「何を」という点では先生への印象でフチ取り、「どのように」の点では「厳しすぎる」と詳細を話すことで、観客は笑いのポイントをイメージし、笑うのです。
と、ここまで最上さんのボケとツッコミに関する理論を説明してきましたが、そもそもなんでこの作品にたどり着いたのでしょうか?? 本人に聞きました。
――もともと漫才が好きだったのですか?
小学生のころは好きでしたが、それからは特に好きというわけではなく高校まで過ごしていました。
で、大学生のころにふと新宿の吉本の劇場に行ってみました。生で漫才を見て、帰りにまたチケット買って帰るくらいにはまりました。それからは月1~2回くらい劇場で見たり、あとは作品をつくるときに動画配信を流して聞いたりしています。だいたい1年で100組ほどの漫才を見ています。
――卒業制作にするのは、もとから考えていた?
学部生の時には函館の詩と写真を本にするという卒業制作でした。私は飽き性なので、別のことをしようと。何か深掘りできるテーマがないかなって考え、好きなモノなら延々とできるので大学院では漫才を研究テーマに選びました。
大学院1年の時はコント漫才で観客が何を考えているかを分析しました。漫才は大衆演芸で開かれた存在。なのに、お笑いを考察したものを調べると、途端に専門性があり、ものすごく難しい論文になってしまう。よりわかりやすく分析したものがつくりたいと思いました。
でも、お笑い芸人の方はあんまりこういうのはやられたくないですよね。私も自分のデザインを分析されたら「めんどくさいな」って思うし(笑)。
――調べてみてわかったことはなんですか?
正直、これがあれば自分でもつくれるなって思いました。ただ、21種類に分類できると言っても実際には使われていない分類も存在するんですよ。それは、やりにくいのか、面白くないのか。卒業制作で桃太郎を題材に21種類のボケとツッコミをつくってみたのですが、無理やりつくっているというのもあります。
実際にプレゼンの感想で、芸人さんらしき人からは「次のライブで使ってみます」というメッセージをもらいました。
――逆につらかったことは
理性を保ったまま漫才を見るのがつらかったです。純粋に楽しむと分類のこととかが飛んじゃって。研究室の仲間もこの研究を知っているので、会話中に笑いがおこると「これ、あの分類だね」ってなっちゃう。
私生活で変わったことと言えば、漫才が楽しめなくなりましたね。今は漫才を楽しめるようになりたいですね。
――最上さんにとって、漫才とは
出た!インタビューっぽいやつ。(笑)なんて言えばいいんだろ……。「漫才はデザイン」だし「デザインは漫才」だと思います。
――ちょっと何言っているのかわからない
今回研究をしてみて、漫才は笑いをつくるためのデザインがされていることがわかりました。と同時に、(これまで私が勉強してきた)デザインには漫才のような楽しさや愛嬌が必要なのではないかと感じました。
どちらも一般的には生活の中での優先度が低い存在かもしれません。空腹が満たされるわけでもなく、命を救えるものでもない。でも、あれば生活がより明るくなるなと。そんな性質も似ていると思います。
――なるほど
ほら、これでうまくインタビューしめられるでしょ?
――どうも、ありがとうございました!
ちなみに、この卒業制作。東京芸大の卒業制作の中で優秀なものに選ばれる「サロン・ド・プランタン賞」を受賞されたそうです。最上さんが考えてみた桃太郎を題材にした21種類のツッコミはフォトギャラリーをご覧ください。
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