話題
ジャルジャル「ドネシア!」現地でもウケる?あえて国名わけるなら…
インドネシアの人に「国名わけっこ」を見てもらったら…?
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インドネシアの人に「国名わけっこ」を見てもらったら…?
若手漫才の日本一決定戦「M―1グランプリ2018」の決勝で、3位となったお笑いコンビ「ジャルジャル」(よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属)が披露して大ウケした「国名わけっこ」。ジャルジャルのYouTubeの公式チャンネルで公開されたネタ動画は、M―1後に再生回数170万回を超えるほど大好評です。「イン」と「ドネシア」に分けられたインドネシア。現地の人たちにもウケるのか? ジャカルタ駐在でお笑い好きの記者が、誰からも頼まれてもいないのに、そんな調査をしようと街へ出てみました。
「アメ」「リカ!」、「イギ」「リス!」……。「国名わけっこ」は、向かって右側の福徳秀介さんが国名を頭から気ままに分け、残りを左側の後藤淳平さんが素早く正確に答え続けられるかを遊ぶというネタです。
だんだんテンポが上がって盛り上がるなか、いろんな国名が出てくるのかと思いきや、次第に後藤さんが「ドネシア」(インドネシア)と何度も言わされます。後藤さんが「初めて言う4文字。変なところで区切ってこんといて」とツッコミを入れると、会場は大笑いに包まれ、審査員からも高得点を得ました。
生放送でこのネタが披露された直後から、ネット上では「ドネシア」や「ゼンチン」(アルゼンチン)が検索上位となり、「頭から離れない」「学校で明日はやりそう」などとツイッターでの投稿も相次ぎました。
私(筆者)がインドネシアのジャカルタに赴任してから7カ月ほど経ち、年の瀬が近づくにつれて、むずむずと気になり始めたことがあります。今年もM-1を楽しめるか、ということです。
お笑いのテレビ番組で私が最も楽しみにしているのが、若手漫才の日本一を決める「M-1グランプリ」(ABC放送)。最初から最後まで全部みたうえで、年末に、友人と神戸でちゃんこ鍋の店に集い、あーだ、こーだと、素人お笑い論を語り合うというのが、もう10年以上続く、毎年の恒例行事です。番組をチェックしていないと話にならないので、絶対に外せません。2年前の年末にアメリカにいたときも、実家の母親に「帰省したときに観るから、絶対にビデオ撮っといて」と頼んだほど、夢中なのです。
また、M-1は生放送で見ないと値打ちがありません。若手漫才師が1年間、必死に練り上げたネタを披露する場です。優勝コンビは直後から仕事が殺到し、人生が変わる、変えられる、というのは有名な話。その人生をかけたヒリヒリした緊張感を、審査員だけでなく、テレビを見ている視聴者も味わっているはずです。
ただ、最近はネットニュースやSNSで、その結果がすぐにわかります。職業柄ニュースはチェックせざるを得ないのですが、そういう時は、細目にして、M-1関連のニュースを視野から外しています。
そんな努力をするよりは、やっぱり日本の生放送と同じタイミングで見られるのがベストです。ジャカルタでは、支局の前任者からの引き継ぎで、日本のテレビ放送が楽しめるサービスが幸いありました。そのサービス会社に問い合わせれば、東京のキー局やBSだけでなく、関西の準キー局からサンテレビまで楽しめるといいます。M-1を生放送で見るために11月末、このサービスに加入しました。ちなみに1カ月で35万ルピア(約2,700円)からです。
フェイスブックの寸評をみた友人・知人から色々なリアクションがありました。日頃、いいね!もコメントも少ない私のスレッドも、M-1の話題性の強さから、このときばかりは返信が活発になっています。
翌日、ジャカルタの日本人の知り合いから「こんなにM-1に本気なのは異常。記事として出さないの?」と言われました。私は「いくらお笑い好きとはいえ、素人の私が偉そうに論評なんかだせない。個人の楽しみでやっているので、これでいいんです」と答えました。何を面白く感じるかは人それぞれ、というのを、ネット上やリアルな会話でもよくみるからです。
ただ、その知り合いは「もったいない。せめて、ジャルジャルの『ドネシア』がなぜ面白いのか、それだけでも書いて欲しい」と、熱心にくどいてきます。ジャカルタ在住19年。聞くと、「インドネシアが脚光をあびてうれしい」といいます。
フェイスブックへの投稿で自己満足していた私ですが、だんだんとその気になり、今度はどうやったら本業の取材でも、記事にできるかを考えるようになりました。
最初に思いついたのが、インドネシアを現地の人たちはどう「国名わけっこ」するか、ということです。
現地の日本人が「ネシア」と呼ぶのをたまに聞きます。東京外大でも、卒業生によれば、インドネシア語専攻は「ネシア科」と呼ぶそう。ほかにも、「フラ科」(フランス)、「チャイ科」(中国)、ベト科(ベトナム)、ジャパ科(日本)と呼称があるそうです。
調べると、「ネシア」は諸島を意味するギリシャ語の接尾辞で、ミクロネシアやポリネシアも同様の語源でした。ただ、日本・日系人を「ジャップ」と呼ぶように差別的とされ、「ネシア」とは言わないように気をつけている日本人も多いといいます。
同じように、隣国マレーシア人が特に労働者を指して「Indon」(インドン)と呼ぶこともあると今回、初めて知りました。支局の29歳の男性スタッフが教えてくれました。
ただ、インドネシア人がどう分けるかを聞くと、「インドネシアを省略して呼ぶことは通常ない」という反応でした。
その夜に乗った車の運転手のタウファンさん(30)は、「あえて分けるなら『Indo』(インド)」といいます。
具体的に現地の企業や商品名を教えてもらいました。インドセメントやインドフード、インドモビル、インドサット(通信大手)、インドマレット(コンビニチェーン)など……。ちょうどインドフードのビルの前を通りかかったので、撮影しました。
ここまでうんちくを集めたのはいいものの、どう呼ぶか、だけの紹介記事では物足りないと感じました。教科書的だし、ジャカルタの現地におらずとも、知っていれば書ける話題。せっかくインドネシアに駐在しているのだから、やっぱり現地の反応かな。次にそんな考えに至りました
試しにタウファンさんから、「ドネシア」の反応を取りました。運転中なので、動画の音声だけ聞いてもらうと……
タウファンさん
タウファンさん
タウファンさん
タウファンさん
こんな感想が取れました。
タウファンさんの感想から、もっといろいろな人に聞いてみて、素直にそれを載せれば面白いのでは、と思いました。動画も見てもらいたい。どのように形にしようかと悩みながら、夜に東京にいる同僚にメールすると、あっさり「いいじゃん」。
これをみて、翌朝、とりあえず今ある材料で書き始めました。
日本の話題について、世界の特派員が反応を取る。こういうオーダー取材は、よくあります。少し前でいえば、日産ゴーン氏の逮捕劇。ルノー社があるフランスや、ゴーン氏の自宅があるレバノンの現地に、特派員が足を運んで記事を書きました。
インドネシアの9割が日本車なので、私もゴーンショックの反応を取ろうとしましたが、こちらでは、ほぼ話題になっておらず、貢献できない悔しい思いをしました。
今回はM-1の「ドネシア」の現地反応を取るという自ら課したミッション。ジャカルタには多くの日本メディアが支局を構えていますが、おそらくそんな取材をまじめにしようとしているのは自分だけだろう。そんな自覚も、もちろんありました。
知り合いを介して、ジャカルタ在住で自営業の女性、プトリさん(27)にジャルジャルのネタ動画をみてもらいました。
プトリさん
野上
プトリさん
野上
プトリさん
こんなコメントをもらえたので、何とか原稿として成立しそうです。朝日新聞デジタル専用の原稿を書いて、東京に送って掲載の提案をしました。
内心、心配もしていました。お笑いに理解がないと、「何をばかなことをやっているんだ」と、一蹴されてしまいそうだからです。ただ、メールをみた当番のデスクからの電話の第一声は「ドネシア!」。そして、「動画をみているインドネシアの人たちの写真を撮ってほしい」とリクエストがありました。ほっとしました。
東京からのリクエストを受けた私は、ジャカルタ郊外、南タンゲラン市の学校にいました。そこの催しで、クリスマスソングを演奏していた日本人に頼み、現地の人たちを集めてもらい、4人組にタブレットで動画をみてもらいました。
みんな日本語をまったく知りません。ところが、次第に笑顔に。途中から一緒に「ドネシア!」と口ずさみ、大笑いする姿もみられて、とってもうれしくなりました。
主婦のエンダさん(43)は「テンポも良く、構成も賢い」。色々な国名が入るなか「インドネシアと繰り返され、選ばれた感じがしてうれしい」と絶賛します。主婦のナンダさん(39)も「インドネシア以外は聞き取れなかったけど、すごく面白かった」。
「ドネシア」の響きについても、みんな好反応でした。動画で笑顔を見せた音楽家のリウさん(44)は「笑えるし、否定的な感じはまったくしなかった」と話しました。
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