エンタメ
DA PUMPがくれたもの「ダサかっこいい」貫くかっこよさ
DA PUMPの「U.S.A.」は、今年を代表するヒット曲の一つ。12月に入り、テレビで歌を聞かない日はありませんが、ちょっと前までは、ショッピングセンターなどでパフォーマンスをする日々でした。再ブレーク目前の6月、取材に応じたISSAさんが語った言葉がありました。「ダサかっこいい、という言葉はいいなぁと思う」。平成という時代にジェットコースターのような浮き沈みを経験した彼らから「平成最後のサクセスストーリー」について考えます。(朝日新聞記者・坂本真子)
「U.S.A.」のシングルが発売されたのは6月ですが、その前の5月にミュージックビデオがYouTubeで公開されると、ネットがざわつき始めました。
メンバー7人のばらばらでカラフルなファッションや、「カモン・ベイビー・アメリカ」などの歌詞が「ダサかっこいい」とSNSで広がる一方、「僕らは地球人」「どっちかの夜は昼間」といった独特の日本語詞が、モーニング娘。などハロー!プロジェクトのファンの間で「つんく♂っぽい」と評判に。
さらに、サビの「いいねダンス」をまねる動画が次々にYouTubeに投稿され、じわじわと人気が拡大していったことは、みなさんもよくご存じでしょう。
DA PUMPは1997年にデビュー。沖縄のアクターズスクール出身で、同門の安室奈美恵さんやSPEEDと共に、歌とダンスがうまくてかっこいいイケメン4人組として脚光を浴びました。
「if…」などがヒットし、98年から5年連続でNHK紅白歌合戦に出場。2001年のベストアルバム「Da Best of Da Pump」はミリオンセラーに。当時はISSAさんのモテ男ぶりも大きな話題になりました。
ところが、メンバーの脱退や、ライブのリハーサル中にISSAさんが足を骨折するなどの不運が重なり、一時活動を休止。新しいメンバーを加えて09年に9人、14年から現在の7人になりますがヒット曲に恵まれず、郊外のショッピングモールを回って無料ライブを行っていました。
「U.S.A.」は3年8カ月ぶりのシングル。発売当初、イオンモールなどでパフォーマンスをする動画がYouTubeに多く上がっています。それを見ると、狭いステージを隅々までうまく使う7人の様子がわかります。どんな場所でもすぐに対応して動けるのは、ダンスの技術だけでなく、地道な活動の積み重ねがあったからでしょう。
7月末に放送されたNHKの音楽番組「SONGS」では、加入して10年頑張っても売れず、脱退を考えていたことを打ち明けて涙ぐむメンバーもいました。
そんなDA PUMPを取り巻く状況を大きく変えた「U.S.A.」は、1992年にイタリアで発売されたユーロビートのカバーで、彼らが所属する音楽事務所ライジングプロダクションの平哲夫社長が、ISSAさんの声に合うメロディーの曲を探したそうです。
最初にこの曲を聴いたとき、ISSAさんは「今これをやるのはどうなんだろう」と感じたそうです。6月のインタビューで、ISSAさんは次のように語っていました。
「ユーロビート自体は自分たちも全然なじみのあるジャンルなので抵抗はないんですけど、チームとして考えたとき、今これで大丈夫か、みたいなところがあった。でも、やるからには手を抜けない、抜かないので、デモの段階でかなりクオリティーの高いものを作ったんです。それを社長が聞いて『これでいいじゃん』ということで決まりました」
日本語詞は、作詞家のshungo.さんが「60~70年代の米国に憧れる少年をイメージして書いた」もの。ISSAさん自身、生まれ育った沖縄で米国の文化に憧れてダンスを始めたので、「最初は違和感があるっちゃある、という印象だったんですけど、よくよく考えると自分がそういう環境だったので、それからはすんなりと自分の中に落とし込めました」と言います。
「ダサかっこいい」と言われるファッションは、メンバー全員で話し合って考えました。今回は一人ひとりをばらばらの個性にして、着たいものを加味したそうです。
「ダサいことを真剣に純粋にやっている人を、俺はかっこいいと思うので、ダサかっこいい、という言葉はいいなぁと思う。自分たちのパフォーマンスはいつも真剣にふざけるものだし、自分たちが楽しまないと見ている人に伝わらないので」と、ISSAさんは話していました。
「U.S.A.」のヒットからは、華やかなイメージの芸能界で、泥臭く作り物ではないリアルな物語の価値が見えてきます。
ISSAさんへのインタビューをはじめ、取材を続けてきた私自身、最初は「カーモン・ベイビー・アメリカ」というサビに違和感があったのですが、何度か聴き直すうちに、クセになるような、中毒性があることに気づきました。覚えやすい歌とユーロビートの心地よさ、ISSAさんの歌唱力、まねしたくなる「いいねダンス」……。
でも、実際に挑戦してみると、彼らのようにかっこよく踊るのは難しいことがわかります。踊りながら生で歌うISSAさんの歌唱力にも気づかされます。
DA PUMPのメンバーのうち、KENZOさんはダンスの世界大会で8年連続優勝。DAICHIさんも全米のダンス大会で金賞を受賞しています。YORIさん、U-YEAHさん、KIMIさん、TOMOさんもそれぞれダンスユニットなどで活躍していました。「いいねダンス」は、他のアーティストの振り付けも手がけるTOMOさんが、米国などで流行するシュートダンスを取り入れたものです。
実はかなりの実力者ぞろい。そんな彼らが約10年間、下積みのような日々を過ごし、それでもなかなか売れず、辞めることも考えて、ようやく今、花開いた。かなりリアルなサクセスストーリーと言えます。
また、バブル全盛期に始まって、バブル崩壊、阪神淡路大震災、リーマンショック、東日本大震災など苦難の日々を経て、戦後最長に迫る景気回復。平成という時代の波と、山あり谷ありだったDA PUMPの約20年が、ダブるような……。そんな気持ちにもなってきます。
先ほどと同じ6月のインタビューで、ISSAさんは「目標は置いていない」と話していました。
「目の前にあるものを完璧にこなしたいし、その日その日をちゃんとかみしめて生きる方がいい。でも、メンバーはせっかくこの仕事を10年やって、鳴かず飛ばずでいろんな思いをしているだろうし、俺が見てきた景色とか、そういうところに彼らを連れて行きたいという思いはあります」
今年10月10日、東京国際フォーラム・ホールAで行われた単独ライブは、約5千人の観客で超満員に。1曲目の「U.S.A.」から7人はとても生き生きとして、本当にうれしそうでした。アンコールの最後は再度「U.S.A.」。観客全員が「いいねダンス」を踊り、ホールの床が揺れました。
YouTubeの動画再生回数は1億3千万回を超え、日本レコード大賞の優秀作品賞を受賞。大みそかは16年ぶりに出場する紅白歌合戦で2018年を締めくくるDA PUMP。彼らは今、どんな景色を見ているのでしょうか。
1/7枚