コラム
「東京こわい」地方出身者が渋谷に行ったら… 覆っていた膜が溶けた
東京、怖くないですか? 私は怖くて仕方ありません。
奈良出身、31歳。まだ東京に住んだことはありません。最も接近したのは5年前に勤務した群馬です。その時も大宮で買い物するのが精いっぱいだったのですが今年10月の1カ月間、東京で研修することになりました。この機会に東京を克服したい。目指したのは、思春期のころもっとも輝いていた街、渋谷。SHIBUYA109で買い物できたら、人生変わるんじゃないか。そんな根拠のない思いで恐る恐る109へ足を踏み入れたら…….。
私にとって渋谷は東京の象徴です。思春期のころ、テレビをつけると渋谷ギャルたちが話題の中心で、そこは非日常でキラキラした世界だったのです。
東京へはこれまで就職活動や仕事で何度も訪れました。これまでも触れようと思えば触れる機会はあったのに、意識的に避けてきました。
そのうち、そこに意味を持たせるため、「あえていかない」という選択をしていると自分に思い込ませるようになりました。本当は逃げてきただけなのです。キラキラなるものから。
そしてSHIBUYA109で買い物をする、そんな簡単なことができないままもうすぐ32歳を迎えようとしています。相当こじらせてきた自覚があるので、そろそろこんな自分が嫌になってきました。
という訳でやってきました、渋谷。就職活動の時、巣鴨のホテルへ向かう山手線の車窓から、眺めることしかできなかった渋谷。
JRハチ公改札を抜けると、テレビでよく見るスクランブル交差点が。この辺りをぶらぶら歩いて気持ちを整えながら探そう。そう思いながら交差点を渡っていると、あ、見つけてしまった。109と書かれたビルを。めちゃくちゃ近かった。
こんなに早く見つかると思ってなかったので、まだ中に入る勇気がでません。とりあえず目の前の吉野家へ。
注文はもちろん並盛つゆだく。約20年前、華原朋美さんが食べたと聞いて以来、つゆだく一筋。ついに渋谷で並盛つゆだくを食べる日がきたよ。
牛丼を食べると気持ちも落ち着いてきました。いざ店内へ。
入り口からキラキラオーラが漂っています。心臓の音が聞こえます。買うと決めたものの、何を買えばいいのかわかりません。服はハードルが高そうです。
そうだスマホケースを買おう。それならできる気がする。5Sのケースなんてあるのかな。あ、あった! 奇跡的にありました。
問題はどのスマホケースにするか。大きな耳がついたものやフワフワした触感のものなど、普段選ばないようなものばかりです。
中学生らしき女子2人組が「キラキラがいい」と言っていたし、スタッフおすすめの貼り紙があったのでなんとか選びました。き、キラキラしてるよね。
最大の山場、レジでの支払い。私なんて場違いだったんじゃないか。また不安が襲います。
おそるおそるレジへ持って行くと、あれ、店員さん対応普通。「ありがとうございましたー」とスマホカバーを手渡され、あっけなく買い物終了です。
やってみると、意外となんでもないことでした。
買った瞬間、さっきまで自分を覆っていた膜が溶けたようです。冷静になって周りを見渡してみると、イケイケのお姉さんしかいないと思っていた109には、家族連れも高齢の夫婦も海外の観光客もいます。
服装だって共通項が見つからないくらい、それぞれが自分のスタイルを楽しんでいます。私だって自分がいいと思った服を着ている。何を引け目に感じていたんだろう。堂々と歩けばいいじゃないか。なんだか自己肯定感も高まりました。
渋谷駅へ向かう心持ちは別人のようです。誰かと比較するのではなく、私は私の好きなものを選んでいこうと思えたのです。
その足で巣鴨に向かいました。就活の時、新宿とか渋谷が怖くて、巣鴨のホテルに泊まっていました。21歳の私を包み込んでくれた巣鴨。10年経って、少し大きくなって帰ってきたよ、巣鴨。ま、スマホケース買っただけだけど。
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