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「SNS」に頼る人、内閣支持率が高い理由 「本当にネットが原因?」
ネットニュースやSNSを参考にする人ほど内閣支持率が高く、新聞を参考にする人は支持率が低いのか? 世論調査の結果、SNSやネットを参考にすると答えた人の支持率は、全体の値より高めであることがわかりました。参考にするメディアによって、違いが出る理由とは? 専門家と一緒に考えてみました。(朝日新聞世論調査部・三輪さち子)
今年6月、麻生太郎・副総理兼財務相が「新聞を読まない人は全部自民党(を支持している)」と発言して注目されました。
そこで朝日新聞が7月14、15日に実施した世論調査では次のような質問をしました。
集計した結果、回答が多かったのは、テレビ(44%)、インターネットのニュースサイト(26%)、新聞(24%)、SNS(4%)という順番でした。
年齢別にみると、18~29歳と30代の回答者で、最も多かったのは、インターネットのニュースサイトでした。
40代以上はいずれも「テレビ」が最多で、年齢層が上がるほど「新聞」の割合が増え、「ネット」や「SNS」の割合が減っていました。
回答した人全体の内閣支持率を出したところ38%(不支持率43%)になりました。
SNSやネットを参考にすると答えた人の支持率は40%を超え、全体の値より高めだったのです。
今回の調査では、「SNS」と答えた層の自民支持は34%、「ネット」と答えた層は37%、「テレビ」は34%、「新聞」は32%。内閣支持率ほどの大きな違いはなく、新聞を参考にしない人は自民党の支持率が高いという傾向はでませんでした。
今回の結果から、何が見えるのか。政治とメディアの問題に詳しい、東京工業大の西田亮介准教授に聞いてみました。
西田さんは、情報を得るためのコストをかけるかどうかが、内閣支持率に影響しているのではないかと指摘します。
新聞を参考にする人は、情報を取ることにコストをかけている人です。つまり社会や政治のことを、お金を払ってでも知りたいという積極的な意識を持っていると捉えられます。
一方、SNSは、情報を得るためのコストは低い。社会や政治への意識、関心が高いとは言えず、受動的になりがちです。
その上で、「コストを払おうとしない人たちは、現状肯定に流されやすいのではないか」と言います。
政治や社会のことに関心を持たない人は、よほど現状の生活に不満がない限り、「今のままでいい」と現状を受け入れやすい。あるいは、現状の生活に不満がないから、政治や社会のことに関心を持たない、と言えるかも知れません。
お金を払っても得たいと思ってもらえない人が多いのは、新聞を作っている立場としてはちょっと複雑な気持ちになります。
西田さんから、今回の世論調査の結果について厳しいコメントをいただきました。
「参考にするメディアとして、テレビ、ネットに次いで新聞が3位ということは、メディアとしての地位が下がっている。いい報道をしても、読み手に届いていなければ、メディア、ジャーナリズムとして機能しません」
もう少し別の角度から考えてみます。それは、年齢の問題です。参考にするメディアとして、ネットやSNSと答えた人は若者が多く、新聞と答えた人は中高年層に多いことは、世論調査から分かっています。
さらに、内閣支持率は「18~29歳」や「30代」の人は比較的高く、「50代」「60代」と年齢が高くなると支持率が低くなる傾向があります。
つまり、内閣支持率が高めの層と、ネットやSNSを参考にする層が、どちらも若年層なのです。
同じように、内閣支持率が低めの層と、新聞を参考にする層は、どちらも中高年層が多いのです。
なぜ若年層の内閣支持率が高いのかについては、就職の状況がいいから現状に不満がない、若者が保守化している、など様々な意見があります。
いずれにしても、ネットやSNSを利用しているから、内閣支持率が高くなるのか、それとも、もともと内閣支持率の高い若年層が、ネットやSNSをよく利用しているのか、は今回の質問だけではわかりません。
ネット上で自分の好みのニュースだけを見聞きすることを、「選択的接触」と言います。
意見が合う人たちばかりと交流することで、自分の意見が正しいように思えてくることは「エコーチェンバー(反響室)現象」と呼ばれます。
私は以前から、安倍内閣を支持する人たちと、支持しない人たちとの間で、こうした分断が起きているのではないか、と感じていました。
ツイッターやフェイスブックは、自分と意見や価値観が似ている人をフォローしたり、「いいね」したりする方が多くなりがちです。
SNSやネットが重要な情報源になってきた今、興味がないニュースや自分と異なる意見に触れる機会が減っているのではないか。そのことは、内閣支持率に影響するのではないか。それが今回、私たちが、用意した質問の狙いでした。
今回の結果は、ある程度、その予想が当たっていたように見えます。
ところが、慶応大学経済学部の田中辰雄教授によれば、自分の好みのニュースだけを見聞きして、それによって「エコーチェンバー現象」が起き、社会が分断される、ということが正しいかどうか、学説上の意見は割れているそうです。
ネットやSNSを利用することで意見が過激になるのではなく、もともと政治的に過激な意見を持つ人が、ネットやSNSを利用しているのではないか。そんな仮説を立てて、田中さんは、ネットの利用と政治傾向について10万人規模の調査をしました。
田中教授は「ネットを利用する人ほど、政治的に過激な意見を持つ傾向は確かにあります。ただし、ネットを利用することによって政治的に過激になる、とまでは言えません」と指摘します。
その理由として、ネットを利用する頻度が増えた人を対象に、頻度が高くなる前と後とで政治的過激度合いを調べたところ、あまり変化がなかった点をあげます。
ネットを利用することが「原因」で、その「結果」として政治的に過激になる、ということまではわからないということです。
もともと政治的に過激な意見を持っている人が、ネットをよく利用しているという可能性もあるからです。
なぜ、参考にするメディアによって内閣支持率に違いが出るのか。その理由について、結局のところ、これが正解だというものは今回の調査だけでは見つかりそうにありません。
メディアが多様化した今、誰を支持するか、何党を支持するかといった政治意識はどのようにつくられていくのでしょうか。
今後の世論調査で、参考にするメディアを聞くだけでなく、さらに分析ができるような質問を考えていきたいと思います。
ほかにも、こんな質問をしたら、政治意識が何によって影響されるのかがわかるのではというアイデアがあれば、ツイッターにハッシュタグ『#朝日新聞世論調査質問案』をつけて、つぶやいてください。
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