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水道橋博士となぜ格闘技 ヒット連発の編集者・箕輪厚介の「即決力」
女優との熱愛が報じられたIT社長の「親友」としてワイドショーに出演したり、月額6千円のオンラインサロンで1300人以上のメンバーを集めたりと、従来の編集者の枠にとどまらない幻冬舎の箕輪厚介さん(32)。4日には、都内で開かれるイベントでお笑い芸人の水道橋博士さんとリングの上で戦います。編集長を務める「NewsPicks Book」は昨春の創刊以降、電子書籍を含めると累計100万部を突破。「ヒットメーカー」として、常に挑戦を続ける背景には「即決で、とにかく手を挙げ続ける」という、こだわりの生き方がありました。
水道橋博士さんと対戦するのは、実業家・堀江貴文さんのオンラインサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」から誕生した素人異業種格闘技イベント「HATASHIAI(果たし合い)」の一環です。1ラウンド1分のボクシングルールで、2ラウンド。ネットテレビ「AbemaTV」での中継も予定されています。
――対戦はどうやって決まったのですか
ホリエモン(堀江貴文さん)とは、本の編集をした縁で付き合いがずっとあって。2カ月ぐらい前に、堀江サロンと僕のサロン「箕輪編集室」でイベントをした時、酔った勢いで「HATASHIAIに出たい」って言っちゃったんです。
そうしたら、エントリーされちゃって。さらにその頃、ツイッターで僕が博士に絡まれていたのを、多分ホリエモンが見つけたんです。ホリエモンは博士とも親交があるから、「2人が戦えばいいじゃん」って対戦が決定。「なんでだよ、意味分かんねえ」って、最初は思いましたけどね。
――格闘技の経験は
まったくない。タイで3日間だけ、ムエタイをふざけてやったことあるだけ。
――それでも、誘いがあったら受けるのですか
ノリで受ける。ビジネスでもなんでも、「一流」と「一流以外」の違いは、その場で即決するかどうか。
ホリエモンやキングコングの西野(亮廣)さん、SHOWROOMの前田(裕二)さんとかメタップスの佐藤(航陽)さん、落合陽一さんたちとLINEでやり取りをしていると、「行きたい」「やりたい」という曖昧な言葉は出ない。「行きます」「やります」なんです。もちろん都合があって「無理です」ということもあるけど、みんな基本的には面白いことには瞬間的に「行きます」「やります」と返事をします。
でも意外と、当日ドタキャンをすることがあるんですよ。僕もそうだけど、「あれ、いない」みたいな。見切り発車でもなんでも前のめりなんです。何でも誘われた時点で即断即決で手を挙げることが癖になってしまっている集団ですね。
でも、大企業に勤めた学生時代の友達とかのグループLINEでだと、返事が「行きたい」や「やりたい」なんですよね。
「えっ、どっち」ってなりますよね。
その時に気がついたけど、これは仕事においても全部同じだと思う。「行きたい」「やりたい」「人生変わりそう」という人は多いけど、やっぱりすごい人は、その瞬間に行動する。意識より先に行動がある。「行く」「やる」「人生変える」なんですよ。
――同じようにも思いますが……
すごい単純なことだけど、どういう習慣で生きているかで、人生は本当に大きく変わります。だから僕は、口癖を「行きたい」「やりたい」ではなく、「行きます」「やります」にしている。
ある程度の責任感は当然必要だし、僕も持っていますけど、最悪、できなくてもいいんですよ。ホリエモンからは1日1個くらいのペースで提案があるけど、いい話もあれば、「これはあんまりだな」って時もある。でも全部、やるって言います。
それでとりあえず走ってみるんです。走ってみた結果、面白くならなそうだったり、熱量が落ちてきたらやめてもいい。自然消滅することもある。でも大切なことは、まずは走ってみるということです。今の時代なにが当たるか分からない。
やっぱり誰だって、「それ面白そう、やります」とすぐに反応する人に黄金の企画を最初に持って行きたいと思いますから。
――即決できないのは、「自然消滅は無責任」「やるやる詐欺になる」といった思いがあるのでは
そうですよね。ツイッターで、「自然消滅になってもいいんだよ」って書いたら、「それはダメでしょ」って反応が多くて。
「いいんだよそんなの」って思います。僕の場合、「あの話どうなった」ってことも多いですが、その時点で、その企画はダメなんですよ。当事者が飽きてる時点でそれまでなんです。
でも、そのプロジェクトに関わっている誰か一人でも熱狂したら、結果的に成功するんです。
だけどそれも、手を挙げて、とりあえず走ってみないと面白いかどうかなんて分からない。だから、とりあえずやってみるんです。「引き受けたら、最後までやらなきゃ」と思っていると、いい成果は出ない。
――義務感になりそうですしね
そう。「ちゃんとやらなきゃ」と思うと、いわゆるサラリーマン的な発想で進めてしまう。「こんな感じで仕上げておけば責任は問われないでしょ」みたいな。それが一番、周りもワクワクしないし、自分もワクワクしない。最悪ですね。一応やりきって、結果はまあまあみたいな。
本づくりでもよくありますよ。誰か一人がめちゃくちゃ本気になって売ろうとしていたら、だいたい売れるんですけど、「なんとなく売れそうだけど、だれも熱狂していない」みたいな時はだいたい、うまくいかない。そういう本って、みんなで会議して、みんなでなんとなく、「ありだよね」って感じで決まるんです。
コンテンツがヒットしたり、サービスが当たったりするかなんて最初からは分からないから、とにかくまずは立ち上げてみる。それで誰も熱狂していなかったら、やめちゃえばいいんですよ。僕の場合は、そんなことばっかりです。
――そうすると、相手との関係が悪くなったりしませんか
ならない、ならない。優秀な人はみんな忙しいから、気にも留めないですよ。「はい次!」って感じ。
だけど、 サラリーマン的な発想の人には、よく言われます。「あの件、どうなりましたか?」って。その人がやりたいわけでもなく、ただ業務として完結させようとしますね。
――そういう時はどう着地させるんですか
まあ大人としてやりますよ。やるけど、「ほら、面白くないでしょ」って感じになります。
サラリーマン的な人って、成功させようとしていないですから。「会社にやるって言っちゃったから、やらなければ」というモチベーションなんです。やっぱり、自分がワクワクしているもの以外はやらないという気概と努力が大事。それ以外は、思い切ってやめるか誰かに任せればいいんですよ。
――なかなか難しい気もします
いやでも、やりたくないことをやめてみれば、本当にやる必要ないんだなって気がつきますよ。HATASHIAIの試合があるから僕は今、トレーニングに忙しくて仕事を強引にセーブしているんです。編集長としてほぼ全てに関わっていたNewsPicks Bookはこのあと、何冊かを他の人に任せているんですけど、気がついたら周りが育って、なんとなくうまく進んでいますからね。そんなもんですよ。
その人がいなかったら、まわらないなんてことは絶対にないから、謎の責任感はやめた方がいいんですよ。嫌々仕事をするのは、サラリーマンをしていれば出くわすこともあるけど、あまりポジティブな結果を生まない。とにかく、自分がワクワクすることを選んで、やると決めないといけない。
博士と戦うのもそうなんですよね。トレーニングだってお金かかるし、ファイトマネーでないし、なんなんだこれはって最初は思いましたよ。
――出しているんですか
もちろん。やるって決めたから。でもその代わり、どうするかって考える。「そうだ、パンツのスポンサーを付けよう」と思って、箕輪編集室で動画を作ってPRしたら、120万円も集まったんです。最初はトレーニングが憂鬱だったけど、最近は慣れてきて楽しくなってきました。
ワクワクするってこういうことだと思うんですよ。最初は無茶ブリであったとしても、発想の転換で最高のイベントにしてしまう。これが、「何で俺が芸人と格闘技やらなきゃいけないんだよ」とか愚痴って被害者面してたら人生は面白くならない。箕輪さんは面白いことに出会えてうらやましい、とか言われるけど、どっちかというと面白くしてるんですよ。
とにかく、「自分が楽しいからやっている」と大きな声で言えるような仕事以外、捨てないとダメですね。それで、捨てても誰も困らないから。本当に。断言できます。
――そうした行動は、編集者の本業にプラスになっていますか
もちろん。すべての仕事に当てはまるかは分からないけど、編集者のように、コンテンツを作る仕事は、生き方そのものが、例えると土壌になっているんです。そこに、どれだけ美しい花や見たことがない花が育つかというのは、土壌の豊かさ次第。その人なりの人生を歩んでないと、その人っぽいコンテンツは生まれないと思うんです。
それは僕みたいな、めちゃくちゃでなくても、松浦弥太郎さん(「暮しの手帖」元編集長)のような丁寧な生き方でもいいと思うんですよ。どんなスタイルでもいいんだけど、そのスタイルが独特じゃないとオリジナルのコンテンツは生まれないし、人を引きつけることはできない。そうした生き方を僕の場合は僕っぽく、これからも舵を切り続けていきます。
――だから、HATASHIAIも即決で受けたんですね
そう。とりあえず手を挙げる。バカになって飛んでみる。それで強引に楽しくする。これが僕の生き様です。
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みのわ・こうすけ 1985年東京都生まれ。早稲田大卒業後、2010年双葉社に入社。広告営業としてタイアップや商品開発、イベントなどを企画運営。広告部に籍を置きながら雑誌『ネオヒルズ・ジャパン』を創刊。2014年、編集部に異動。『たった一人の熱狂』(見城徹)、『逆転の仕事論』(堀江貴文)を編集。その後幻冬舎に移籍し、2017年にNewsPicks Bookを立ち上げ、編集長に就任。既存の編集者の枠を超え、様々なコンテンツをプロデュースしている。
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