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IT・科学

月面生活か!ダイオウイカか!「宇宙と深海」研究者がアピール合戦

月面探査レースに挑んだ「ispace」(左)と、海底無人探査レースに挑戦中の「Team KUROSHIO」
月面探査レースに挑んだ「ispace」(左)と、海底無人探査レースに挑戦中の「Team KUROSHIO」

目次

 38万キロ先に浮かぶ月か、ダイオウイカなど独特な形の生きものが暮らす深海か。「宇宙と深海」それぞれの専門家がお互いの研究の「スゴさ」をアピールする一風変わったイベントが開かれました。月面都市の夢と、海底資源のロマン。あたなはどっちを選ぶ?(朝日新聞科学医療部記者・杉本崇、田中誠士)

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月の水を探るispace、再び探査へ

 対談したのは「HAKUTO」というプロジェクト名で月面探査レースに挑んだ「ispace」と、海底無人探査レースに挑戦中の「Team KUROSHIO」。6月29日に朝日新聞社内で開かれました。

 ipsaceから来たのは、立ち上げメンバーの一人、中村貴裕さん。チーム「HAKUTO」として、米国の財団が主催する月面探査レースに参加しました。しかし、相乗りするはずだったインドチームが資金不足などで打ち上げを断念。レースは勝者なしのまま3月末で幕を閉じました。

次の月探査計画について話す中村貴裕さん
次の月探査計画について話す中村貴裕さん

 地球を回り続ける白銀の星である月は、1969年7月20日に米国のアポロ11号が着陸しました。それから49年になります。

 世界から再び注目を集めている理由の一つが月にあると考えられる水です。電気分解すれば、人間の呼吸に必要な酸素や、ロケットの燃料にもなる水素を生み出せるし、野菜を育てるのにも使えるかもしれません。

 遠い宇宙に向かうときに、大量の水を地球からロケットで運び出すと、膨大なコストがかかりますが、月の水が利用できるなら便利になります。そのため、月で利用できる水を探そうという動きが世界各国で始まっています。

 民間からもどんどん参加できるよう後押しするために開催されたのがHAKUTOが参加した探査レースでした。ispaceはレース終了後、あらためて月を目指す計画を発表。現在、月での水資源を探そうと計画しています。

【関連リンク】HAKUTOの挑戦 SORATO、月への旅路:朝日新聞デジタル

 さて、月はどれぐらい過酷な環境なのでしょうか。中村さんはこう説明します。

 「重力は地球の6分の1ほどで、大気はなく、強い放射線もあります。昼夜の温度差も激しく、表面はレゴリスと呼ばれる非常に細かい砂に覆われてます」

 NASA(米航空宇宙局)によると、太陽の当たる昼間の赤道付近は100度を超える一方、月の南極にあるクレーター内部では零下238度だったそうです。

 生身の人間だったらとても生きられません。また、レゴリスは宇宙服や探査車などの隙間に入り込み、不具合を起こす原因でもあります。

目指すは2040年、月と行き来できる未来

ispace 2040 Vision Movie

 中村さんはどんな夢を持っているのでしょうか。

 水資源を使って月面の開発を進め、2040年に1千人が住み、年間1万人が月を訪れる構想を動画を使って説明しました。

 「私たちが大切にしているのは『夢みたいを現実に』。イベントでお話しすると、夢みたいですねって言われることが多いです。でも、実行しないと意味が無いので、一歩一歩着実に進めているところです」

海底探査レース、秋に本戦

「Team KUROSHIO」共同代表の一人、大木健さん
「Team KUROSHIO」共同代表の一人、大木健さん

 海底探査レースに参戦する「Team KUROSHIO」から来たのは共同代表の一人、大木健さんです。普段は、海洋研究開発機構で地震の研究をしています。

 「海底は月より近くて遠い」と話す大木さん。月よりも海底の方がずっとよく分かっていないことが多いからです。

 大木さんによると、月全体の地形は一番粗いところでも、10メートルの細かさで調べられています。一方、海底は1千メートルの細かさでしか情報がありません。

 海底は油田、レアメタルなどの鉱物がまだ多く眠っていると考えられており、こうした資源開発には詳しい地図が欠かせません。それを後押しするのが海底探査レースです。月探査と同じ財団が主催しています。大木さんらは海洋研究開発機構の技術や、日本の民間企業の技術を生かそうと参加しました。

 秋からの本戦では、自律潜水艇(全長約5メートル)を水深4千メートルに潜らせ、洋上の無人船と情報をやりとりしながら海底を測量します。

私たちは地球の2/3をまだ知らない ―― Team KUROSHIO 深海への挑戦

水深4千メートル、カップ麺もオレンジもぺしゃんこ

 水深4千メートルってどんな環境なのでしょうか。

 1平方センチあたり400キロの重さがかかり、電波すら届かない。想像すら難しい世界を大木さんは動画を使って説明します。

 動画では、部品の耐久性を調べるのと同時に、水深4千メートルの状況を再現できる装置のなかに果物やカップ麺、風船などを入れて観察しました。

 空気の入った風船は水深4千メートルではぺしゃんこ。しかし、水圧を抜くと元に戻りました。カップ麺は大きく縮み、その後も元に戻りませんでした。オレンジやリンゴの大きさは完全ではないものの少し戻りました。

 同僚が実際に食べてみると組織が水圧でつぶされたためか、非常にジューシーだったそうです(安全性は確認されていないため、水圧耐久試験の装置を持っている方でも決してマネしないでください)。

水圧実験(10倍速)


夢はワンクリックで深海探査

 大木さんにも夢を聞きました。

 「月はこれから人が行ける時代になると思います。それと同時に、海の底にも人がどんどん行く時代になってもいいんじゃないかなと思います 」

 大木さんたちは将来、ネットで注文すれば、自動的に潜水艇が海底地図を測量してくれるサービス「ワンクリックオーシャン」を実現したいと考えています。

 資源探査だけでなく、海底地震の調査や、夏休みの自由研究でダイオウイカ(水深数百メートルに生息)の観察日記を書ける時代が来るかもしれません。

 「Team KUROSHIO」の主体は研究者の自主活動のため、レースを続けるための活動費用を朝日新聞が運営するクラウドファンディング「A-port」(https://a-port.asahi.com/projects/kuroshio/)で募っています。7月末までの締め切りで残りは約600万円です。

さて、どっちに行きたい?

 知名度で圧倒的有利かと思われた月面でしたが、さすがこうしたイベントに足を運ばれる方たちだけあって、月面も海底も同じぐらい詳しい質問が飛び交っていました。

 登壇した2人、そして司会を務めた記者も30代。自分たちの子どもが成長したころにどちらにも気軽に調べられる世の中になっていて欲しいと思います。個人的にダイオウイカは苦手ですが。

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