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「足立区はヤバイのか?」 区役所職員がタブーを検証、結論が出た!
本の帯には、堂々とこの言葉。「足立区は本当にヤバイのか?」。書店に並ぶ新刊『足立区のコト。』の筆者、舟橋左斗子さんは、れっきとした東京都足立区の広報担当職員だ。こんなキャッチコピーを掲げて、自分の地元を本にするなんて、本当にヤバくないのか?
まさに、タブーに切り込む一冊。タレントのビートたけしさんも、昔から自虐ネタにしてきた。いわば足立区民にとっては、お馴染みともいえるこの「ヤバイのか問題」を今回、きちんと検証するために、舟橋さんは四つの命題を立てた。「治安が悪い?」「貧しい?」「学力が低い?」「寿命が短い?」……まさに、ストレートのど真ん中で勝負だ。
さて、問いの真偽やいかに。本書の内容に沿って、それぞれの結論を見ていこう。
舟橋さんは大阪の生まれ。結婚を機に、25年前から足立区で暮らしている。引っ越した当初は、さんざんに言われようだったと明かしている。「なんで足立なの?」「大丈夫?」「変わってますね」
しかし実際に暮らしてみたら、印象は違った。実に安全で暮らしやすい町だという。ところが周囲はそうは見ずに、治安が悪いイメージがある。きちんと確認しようと、警察庁の「刑法犯認知件数」というデータを確かめた。
すると結果は……。やっぱり都内ワーストだった。ああ。
足立区は長年、この犯罪発生率で都内トップを走り続けていた。そこで区では、「割れた窓などを放置すると犯罪が誘発される」という割れ窓理論に基づいて、区内の美化などを徹底する。努力が報われ、2011年にはいったんワーストを脱却していた。だが最近、また最下位へと戻ってしまった。
年収についても比較した。内閣府がまとめている「納税義務者一人あたり課税対象所得」を検証している。
すると結果は……やっぱり都内で最下位だった。あらら。
データが整理されている最新の2013年のデータを舟橋さんが確認したところ、足立区は1人あたり324万円で、都内23区のなかで23位だった。22位の葛飾区=333万円や、21位の北区=343万円を下回っていた。
……なんだか雲行きが怪しい。ここは残る二つをまとめて確認しよう。
まず学力。舟橋さんは、早稲田大に入学した女子学生が「足立区からよく入れたね」と言われてショックを受けた、というエピソードを披露している。やれやれ。
そこで、文部科学省の「全国学力・学習状況調査」の結果を検討した。すると最新の2016年の成績は、小学6年の「国語」「算数」と、中学3年の「国語」「数学」が、いずれも都内平均を下回った。
では寿命についてはどうか。「えっ! 寿命にも差があるの?」と驚かれるかも知れないが、その通り、差があるのだ実際は。結果は……。
健康で活動的に暮らせる「健康寿命」というデータを見たところ、足立区は東京23区中で男性が20位、女性が21位だった。
以上が4命題を検証した結果だ。こうしてみると、「足立区はヤバイのか?」という問いの答えは、残念ながら「はい、その通り」となりそうだ。
しかし舟橋さんは力強く、こう言う。「ヤバくない。それが本書の結論です」
新刊『足立区のコト。』の筆者の舟橋さんが、とくに強調するのは、命題2「貧しいのか?」だ。そして、逆にこう問いかける。
「貧しいと、ヤバイのですか?」
貧しいことが、そのまま不幸ではない。また、お金があることが幸福であるとも限らない。舟橋さんは「本当に克服すべき課題とは、『関係性の貧困』です」と言う。
お金がなくても、しっかりした人間関係があれば、助けたり助けられたりできる。貧しくても、笑って暮らすことができる。しかし、人と人の絆がなければ、助け合うことも笑顔を交わすことも、関係性の貧困は、人を絶望させる。
しかし足立区には、人と人の密接なつながりがあると、舟橋さんは言う。「私たちの街の魅力は、なんといっても住民が『おせっかいで、あたたかい』ということ」。本書には、そんなおせっかいであたたかな人たちが、てんこもりに登場する。
10年来の空き家をコミュニティースペースに改造して子どもやママ達の立ち寄り場所にしたり、細い路地の商店街がオーケストラを呼んで「下駄履きで行けるコンサート」を開催したり。手作りの地域おこしに取り組む住民たちの活動が、あちこちにある。
そして「サラリーマン、商売人、工場労働者、外国人……。いろいろな年齢層のさまざまな人たちがバラエティー豊かに暮らして、町らしい活気がある」と舟橋さん。
そんな地域の魅力が再発見され、最近はある不動産会社が毎年発表している「住みたい街ランキング」のなかで、部門別の「穴場だと思う街」で4年連続トップだという。
マイナスのイメージが強い足立区、しかしマイナスからの出発だからこそ、プラスに転化する期待度もまた大きい。そう舟橋さんは話す。区役所も防犯や教育、健康などの問題にさまざまな施策も打っている。
ヤバイという事実を堂々と伝え、事実に堂々と向き合い、対処できる。それこそが最大の「ヤバくない理由」と言えそうだ。
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