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中国の全人代「使われない二つのボタン」 お膳立てされた「ゴム印」
ゼンジンダイって最近どこかで耳にしませんでしたか。漢字では「全人代」と書きます。毎年3月、中国で開かれる国会のことで、「全国人民代表大会」が正式な名前です。人口13億人と国が大きいだけに、参加する議員の数も約3000人とビッグサイズ。国民を代表するという建前でさまざまな階層の人たちが選ばれ、88歳のおばあちゃんも参加しました。政権の座を狙う野党は存在せず、あだ名は「ゴム印」……。そんな全人代で今年、中国の今後を左右する大きな決定がありました。(朝日新聞中国総局員・延与光貞)
2013年から中国の国家主席を務める習近平(シーチンピン)氏は5年の任期切れを迎えましたが、今年の全人代で1人の反対もなく再選。さらにこの先5年、国家主席を続けることが決まりました。習氏はいま64歳です。
それだけではありません。これまで憲法で2期10年までと決まっていた任期をなくすことも全人代で決まりました。
習氏の3選が視野に入っていることは明白です。
国家主席の任期をなくせば、中国の政治は短期的には安定するかもしれません。ですが、一歩間違えば独裁者を生みかねないため、中国内にも反対の声はありました。
それでも、全人代で反対はわずか2票しかありませんでした。
「中国の国会」と言っても、日本とは制度が全く違います。
そもそも中国は共産党が支配する国ですから、政権の座を狙う野党はありません。日本のように、「指導者の資質」をめぐって与野党で議論を戦わすことはないのです。
「共産党の指導」のもとに人事から憲法改正まですべてお膳立てされているため、全人代は「ゴム印」だと馬鹿にされてきました。
共産党から下りてきたものに、ペタンと承認のハンコを押すだけの機関という皮肉です。
ですから、建国の父とされる毛沢東や、改革開放を進めた鄧小平といった歴史的な指導者と同じように、「党の核心」と呼ばれるようになっていた習氏が再選されるのも、憲法改正が可決されるのも、ある意味、予定通りだったとは言えます。
とはいえ、この時代に全くと言っていいほど異論が出ないのは、さすがに異様です。
国営テレビでは、「再選の瞬間、感動のあまり涙が出た」という代表の姿を繰り返し流していました。
中国にも公の場で共産党や政府を批判する人たちは少数ながら存在しますが、当然ながら、そういう人たちは全人代の議員には選ばれません。
とはいえ、全人代は国民を代表する機関という建前ですから、議員には党幹部だけでなく、さまざまな階層の人たちが選ばれています。
内陸部の山西省の議員に、申紀蘭という88歳の農民の女性がいます。なんとこの方、1954年に開かれた第1回の全人代から今回まで、64年にわたって議員を続けているおばあちゃんです。
ついたあだ名は「生きた化石」。失礼この上ないですね。
そんな彼女が今回、大きな脚光を浴びました。これまで一度も反対票を投じたことがないと伝えられていたからです。2009年の全人代の取材で、彼女はこう答えていました。
その後、彼女が取材に応じて、こんな提案をしたというフェイクニュースが出回りました。
かなりのブラックユーモアですね。ただ、本当に言ったかもしれないと思わせるところが恐ろしいところです。
習氏の再選と任期制限の撤廃で、庶民の間では風刺するような言動がネット上で広がりました。
極め付きの批判は、6~7年前に党メディアのサイトなどに掲載されていた評論です。何の言葉も加えず、そのまま転載しただけのものが拡散しました。
当時の評論は、地方の共産党幹部の選挙で満票当選が相次いだことを受け、その危険性を訴えるものでした。今もネット上に残る評論の一つには、こう書いてあります。
思わずため息が出ます。共産党メディアがそう書いていた時代もあったのです。しかも、そう遠くない昔に。
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