連載
#15 #withyouインタビュー
学校がつらい時「ツイッターに逃げよう」たらればさんの「#withyou」
あと数日で、新学期が始まります。新しい人間関係、新しい教科書…。「ゆううつで仕方ない」と悩む10代も、いることでしょう。そんな若者に、少しでもほっとしてほしい、ひとりじゃないよと伝えたいと思い、withnewsは4月から、キャンペーン企画「#withyou」を始めます。初回の今日は、ツイッターで「質問箱」が人気の「たられば」さん(@tarareba722)に、メッセージをもらいました。(朝日新聞デジタル編集部記者・原田朱美)
「学校」というのは「愛情と時間をかければ人と人は理解し合えるし仲良く学び合える」ということを学ぶ場所ではなくて、「愛情があろうが時間かけようが、どうやっても理解できない相手はいるし、別段仲良くなくても一緒に勉強することくらいは何とか出来る」というのを思い知る場所だと思っています。
— たられば (@tarareba722) 2014年8月3日
やめた。仕事してる場合じゃねーわ。というわけで出かけました。我が生涯に悔いない。出てきてよかった。 pic.twitter.com/6eTIOltfoi
— たられば (@tarareba722) 2018年3月25日
たらればさんは、ツイッターでフォロワーが約12万人という人気アカウントです。
古典文学の魅力について語ったり、仕事や人間関係のちょっとしたヒントを教えてくれたり、役に立つツイートがたくさんある一方で、アイコンの「犬」としてフォロワーさんとの軽妙なやりとりも人気です。
そんなたらればさんが昨年、ツイッターで匿名の質問を受け付ける「質問箱」をはじめました。なんと多い時で1日60件の質問が届くそうです。その多くは中高生、大学生といった若者。恋愛や進路など、様々な悩みに対する回答もまた、秀逸だと人気です。
「勝負どころ」を「かろうじてこれならという程度でいいので自信が持てる分野」に変えること。 #peing #質問箱 https://t.co/KZuTTonDml pic.twitter.com/fYpunLsYQj
— たられば (@tarareba722) 2018年2月17日
――たらればさんが、「新学期がゆううつ」「学校に居場所がない」という若者にメッセージをおくるとしたら、どんなことでしょう?
「大事なのは、不安だったり、居場所がないと感じて学校に行けなかったりということは、非常によくあるということです」
「行きたくないこと、行きたくても行けないことを、つい学校とか社会とか本人とか家族とか友人とか、誰かのせいにしたくなりますが、それはついうっかり風邪を引くとか、額にニキビができるとか、ドブに足がはまって歩けなくなることと同じようなもの」
「誰が悪いわけでもなく、生きていればよくあることなんですね。気に病みすぎないことが大事だと思っています」
――本人だけでなく、周りの大人も深刻に悩んでしまいそうです。
「周りも、特別なことだと思わないことが大事ではないでしょうか」
「特に親御さん。お子さんが『学校に行きたくない』と言い出したら、つい自分は子育てを間違ってしまったのではと思ってしまい、自分の責任だ、なんとかしなければ…という焦りがあると思いますが、気楽に思うこと」
「そうすることで、逃げ場所とか一時避難とかとりあえず見守るだけにしておくとか、他の選択肢を考える余裕が出てくるんじゃないかと思います」
「それで今日、お話しするために、いろいろ勉強してきたんです」
(そう言って、いそいそと水色のノートをめくる、たらればさん。読書ノートだそうです。びっしりと書き込んであります)
「企画概要を伺って、えらいこっちゃ、こりゃ勉強しなきゃと思って、事前にあれこれと何冊か読んできたんですが、この本が一番よかったです」
すすめてくれたのは、こちら。
滝川一廣『学校へ行く意味・休む意味』(日本図書センター)
「学校に行く意味とはなにか、不登校とは何か、非常にロジカルに、歴史的に考えています。歴史的なことを知ると、不登校は珍しいことじゃないんだなってわかりますよ。なんで自分はこんなことになっているのか知りたいという人には、おすすめです」
「この本にはシェイクスピアも出てくるんですよ。『ロミオとジュリエット』に有名なセリフがあります。『恋人に会う嬉しさは、子どもが教科書から離れる時のようだ。そして恋人と別れる時の辛さは、重い足取りで学校へ行くときのようだ』」
「これって不登校ですよね。16世紀のシェイクスピアの時代に、もう『学校へのゆううつ』を嘆く人はいた。樋口一葉の『たけくらべ』にも不登校の話は出てきます」
「『枕草子』にも、清少納言が出仕できず実家に引きこもっていると、上司である中宮定子から『そろそろ出てきなさいな』という趣旨の手紙をもらうエピソードがあります。よくあることなんですよ。みんないろんな理由で『ゆううつ』を抱えている」
――では、たらればさんのオススメの「逃げ場所」はありますか?
「僕はツイッターとかSNSにどんどん逃げ込むべきだと思っています」
「もちろん向いている人とそうでない人がいるんですけれども、ただSNSの一番いいところは、時間がつぶれることです。若い子は、時間をつぶすことに対して焦りを感じると思うけど、しんどい時にとりあえず時間をかせぐって非常に大事なことだと思うんです」
「『試みの地平線』という、かつて北方謙三さんが雑誌(『ホットドッグ・プレス』)でやっていた伝説の人生相談があります。『自殺したい』という相談に対して、北方さんは『本を100冊読みなさい。読んだらまた手紙をくれ』と回答していました」
「残念ながら本にだって、人を救う力はない。でも本を読むと時間がかせげる」
「君は今どうしようもない隘路にはまっているように見えるし、孤独の島でひとり生きているように思えているだろうけど、時間がたてば、そうじゃないものが見えてくるかもしれないし、そうじゃない状況に変わるかもしれない、と言いたかったんですね」
「『もう死ぬしかない』という選択肢【以外】が見えるようになるまで時間をかせぐって、重要なことなんです」
「連載当時は『読書』がスタンダードな手法だったと思うんですが、今はツイッターやSNSで全然いいと思うんです。そこでいっとき仮名の存在になる。気づくと夜になっている」
「たぶん、社会や学校、家庭で追い詰められるのに加えて、自分で自分を追い詰めてしまって、余計なことばかり考えてしまう子も多いですよね」
友人を見つける。 #peing #質問箱 https://t.co/eka96ftpn3 pic.twitter.com/OsqUrMBNo9
— たられば (@tarareba722) 2018年2月24日
――怒りも悲しみも、時間が経つと変化します。そういう意味でも、時間をかせぐことは大事ですね。
「感情が変化するのは、大事な人間の機能です。『傷』って大きいものでないかぎり、勝手に癒えるじゃないですか。少なくとも体は治そうとする」
「それと同じで、忘れるって重要な修復機能のひとつだと思うんです。嬉しいことも悲しいことも、一緒にだんだん角が取れて、変わっていきますから」
――たらればさんも学生時代、「学校に行きたくないな」とゆううつになることはありましたか?
「もちろんありました。世代的にそれでも無理やり学校に行かされましたけど、それで成功だったとも思えない」
「図書館に1日いたほうが幸せだったなあと思います」
――「ゆううつだなあ」という時の、たらればさんの逃げ場所は?
「朝日ソノラマ文庫やハヤカワ文庫を読んでました(笑)。『吸血鬼ハンターD』(菊地秀行)とか『ダーティーペア』(高千穂遙)とか」
「あの小さな文庫本が、僕にとっては救命ボートみたいな存在でした。全く違う世界に自分ごと入れることで、学校や社会から目をそらしていたんだと思います」
――たらればさんが悩んでいたのは、いつごろですか?
「悩みはじめたのは中学校の後半から高校にかけて、ですかね。異性にあまりモテなかったからだと思います(苦笑)」
「このままの自分で受け入れられると思ったら、全然違った。自己評価では、僕は友だちが多くて、社会に適応していると思っていたんですが、周囲の評価はそうではなかったという、かなり痛いパターンです(笑)」
「あれ? 『ありのままの自分』って、全然ダメなやつじゃないか……と」
なんというか、行きたくない学校に「行かなくてもいいよ」とか、やりたくない仕事に「やらなくてもいいんですよ」と言ったほうがいい…というようなことを言うと、「甘やかしてるだけ」とか「解決になってない」とか「相手と真剣に向き合ってない証拠」とか言われるんだけど、いやそうでなくてですね。
— たられば (@tarareba722) 2017年9月15日
――社会と自分がズレていると感じた時、どうやって修正したんですか。
「自己受容が相当遅かったので、周回遅れだけどコツコツやるしかないなあ、と思って、とりあえず毎日『みんなやってることをちゃんとやろう』と思いました」
「たとえば朝は必ず8時前に起きて、歯を磨いて、鏡を見て寝癖を直して、制服が汚れてたら直して、爪切って挨拶して、1日1回は日光を浴びるとか」
「社会性って自然に身につくものじゃ全然なくて、こういう細かいことの積み重ねなんだなとわかったんです。やれば身につくし、やらなきゃ身につかない」
「当時はなかなか気付きませんでしたが、いま思い返してみると、それに救われたんでしょうね」
「好きな人にふられた時も、就職試験に失敗した時も、追い詰められても、毎日の生活だけはちゃんとしていれば、滅多にカタストロフィー(破局)は起きないというのはありました」
たぶん目の前の相手に「(学校に)行きたくない」とか「(仕事を)やりたくない」と言われたら、勝負はその場でどう答えるかというよりも、ずっと前に勝負はついていて、あとは彼我の被害をどう最小限に抑えるかとか、あるいは次はどう戦わなくてすむ方法を考えるかのほうがずっといいと思うんですね。
— たられば (@tarareba722) 2017年9月15日
――「質問箱」でも規則正しい生活をよく推奨されていますね。
「しんどい時の『規則正しい生活』『カロリーの高い食事』『犬を飼う』は3点セットです!」
「『ちゃんと暮らす』のが大事と気付いてからは、人にちゃんと相手してもらえるようになりました。こういうことなのか、と思いました」
「ただ、それなりに時間をかけないと効果が出ないので、ダイエットと同じですね。よく『そんなことでいいの』と言われるんですけど、しんどい時は、歯も磨けないので」
「以前見たアメリカのドラマ(『The Good Wife』CBS/2009-2016年)で、主人公の女性弁護士が、離婚相談に応じる場面がありました。夫に浮気されて離婚したいという相談者は『人生のなにもかもがダメになった。生きていても仕方ない。何をしていいかわからない』と」
「それに対して主人公は『まず、朝起きたら化粧をしなさい』と言うんです。もちろん相談者は『それで夫は帰ってくるんですか。この傷は癒えるんですか』と聞く。すると『帰ってこないかもしれないし、傷も癒えないと思う。でも、痛みに耐えられる強さは身につく』と」
「なるほどなあ、と思いました。弱々しい自意識や、ボロボロになった心を整えるには、まず外側からきちんとしておくと結構なんとかなるんだなあ、と」
今日で夏休みも終わりだって人も多いだろうから、『自殺対策白書』のグラフ貼っときます。9/1は1年のうちで10代の自殺が最も多い日です。死ぬくらいなら学校なんかいくらでも休んじゃいなよ。https://t.co/jIfohThFoF pic.twitter.com/kbeGz6XUKa
— たられば (@tarareba722) 2016年8月31日
――悩んでいる時って、『答えを出さなきゃ』と、自分の内側を突き詰めがちです。
「そういう時は『チャーシュー麺を食べよう』とつぶやいてみるとかでいいと思うんです。カロリーはいいですよ。ダイレクトに脳にきます。なぜこれが合法なんだろうというくらい効くので。チャーシュー麺、最強です。あっ、でも、複雑な子には、こんな答えじゃ届かないかな……」
――考えすぎても、あまりよくないですからね。
「若い子の誤解のひとつとして、『大人は人生の難題をくぐりぬけて、こたえを持っている』というのがあるんですけど、そんなことないですから! だいたいやり過ごしているだけ! ラーメン屋に通ってなんとなくごまかしてここにいます、っていう感じです」
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身ぶり手ぶりで、熱くチャーシュー麺の効用を語る、たらればさん。後編は、「死にたい」という悩み相談について、考えます。たらればさんオススメの漫画も、聞きましたよ。
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