お金と仕事
ランチ悲哀の平成30年史 節約された昼食代、2割も減って今は……
忙しく働くサラリーマンにとってつかの間の癒やしであり、午後への活力となるランチ。ただ、約25年で昼食代は2割減り、昼食時間も約5分縮まった。サラリーマンの聖地、東京・新橋で、その胃袋を満たしてきた老舗そば店の店主と、サラリーマンの昼食の「平成30年史」を振り返る。
オフィスビルが立ち並び、「ランチ激戦区」の新橋。JR新橋駅前のビルにある立ち食いそば屋「丹波屋」は、正午前になると、最大8人が入れる店内は、スーツ姿のサラリーマンでいっぱいに。一番人気は春菊天そば(380円)だ。
創業は1984年。その数年後にバブルが始まり、日本は空前の好景気に沸いた。店主の上田治平さん(81)は、「バブルの頃かな? 景気が良かったころは天ぷらを2つ、3つ入れるお客さんが多かった。でも、いまはほとんどいないね。健康を考える人が増えたことも影響しているのかなあ」と話す。
1991年末にバブル景気が終わった後も、客単価はそれほど変わらなかったという。
上田さんが景気の変化を感じ始めたのは、2000年代に入ってからだ。1990年代は千円札をポンと目の前に置き、おつりの小銭を確認しない人も少なくなかった。それが2000年以降になると、景気が悪くなりお財布事情が厳しいのか、きちんと小銭を数えて支払う人が増えたという。
日本はバブル崩壊を機に、1990年代後半から物価が下がり続けるデフレが始まった。物価が下がれば、会社の売り上げは減り、給料が削られる。人々の財布のひもは固くなり、ますます経済が縮こまるという悪循環に陥っていった。
新生銀行の「サラリーマンのお小遣い調査」によると、1992年に746円だった昼食代はその後ジワジワ減り、2005年に500円台に突入。
2010年にはこの30年で最低の507円まで下がった。その後は上向き、2017年は590円に。それでもピークからは2割減った。
昼食時間はどうか。1983年に33分だったが、1993年には27. 6分に減り、2012年には19.6分と20分を割り込んだ。1993年と2012年を比較すると、10分以下の割合が8.2%から22.1%と大幅に増加。2012年は、昼食を「食べない」人が1.4%いた。直近の2017年は22分で、若干伸びている。
これらのデータからは、サラリーマンのランチが平成の30年で、より安価に手短に、という傾向が進んだことがわかる。
利用客の回転が早い立ち食いそば屋。一人あたりの滞在時間は、約10分だという。
ただ、好景気だった1990年前後は、「お店に駆け込んできて、ワッと食べて5分ぐらいで出て行くお客さんも珍しくなかった。忙しくて食事をする時間もないって言ってね。いまはそういう人は少ないね。昔は1日2回食べに来るお客さんもいましたよ」と上田さんは話す。
創業から30年余り。平成元年の1989年に消費税が導入され、2度の増税をへて8%になった。日本はバブル後の長く続いた不景気で、サラリーマンの給与は思うようには上がらなかった。
上田さんは「何度も来てくれているお客さんの顔見ると、なかなか上げられないですよね」と価格転嫁には慎重だったが、2014年4月の8%への増税後に全品を10円値上げした。消費税が導入された1989年以来の値上げだったという。
「丹波屋」の周辺には、チェーンの立ち食いそば店が複数あり、日々厳しい競争が繰り広げられている。そんな中、上田さんは月曜日から土曜日まで休まずに厨房に立ち続け、定休日の日曜日も仕込みで店に来ているという。お客さんからの「ごちそうさま」が、何よりの励みだ。
「あと何年できるかわからないけど、東京五輪までは頑張りたいなあ」
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