お金と仕事
現役グラドル明かす芸能界のセクハラ #MeTooが広がらないワケ
米ハリウッドでのセクハラ被害などの告発を端緒に世界に広がった「#MeToo」。日本でも被害を実名で告白するケースが出てきましたが、芸能界では広がっていないようです。なぜなのでしょうか。現役でグラビアアイドルの活動をしている20代の女性が、匿名を条件に自身が受けたセクハラや、芸能界で告発が広がらない理由について話してくれました。(朝日新聞経済部記者・森田岳穂)
女性は東京都内の芸能事務所に所属している現役のグラビアアイドル。イメージDVDやファンとの交流イベントに出たり、テレビのバラエティー番組に出演したりといった活動をしています。
ただ、元からグラビアアイドルを目指していたわけではなく、夢はドラマや映画に出演する女優。その足がかりとして今の活動を行っているそうです。
「芸能界のセクハラは本当にひどい。特にグラビアアイドルはセクハラを受けやすいですよ。水着姿になるなど、たしかに女性を売りものにしている側面がある仕事だと思います」
「ただ、グラビアアイドルをやっている子には女優や歌手を目指している人が多く、露出度の高い衣装を好きで着ているわけではない子も多いですし、セクシーなポーズも仕事でしているだけ。決して皆が『エロい』わけではありません。仕事仲間にまで性的な目で見られるのはおかしいのではないかと思います」
業界では「枕営業」のうわさが絶えません。女性も、仕事の付き合いがあった男性から暗に枕営業をすすめる発言をされたことがあるそうです。
男性は「枕をしていた」と何人かの芸能人の名前をあげたうえで「僕は自分の彼女のように思えないと仕事を任せられない」と言ってきたそうで、すぐにその人との仕事は断ったそうです。女性は「仕事で付き合っていたはずの人が豹変して、本当に恐怖を感じました」と話します。
グラビアアイドルの中から「ミス」を選ぶイベントを行っているある出版関係の会社に行った時には、編集長から「ミスになりたくないのか?」などと言われながら、ひどいセクハラ発言を受けたといいます。
「こちらはお仕事の打ち合わせでお会いしているのに、自分の性的欲求を満たすような質問をたくさんされました。まるでキャバクラ嬢に酔っ払ってからんでいるかのような扱いですよ。グラビアアイドルだからってエロいことをなんでも言っていいなんてことないですよね?」
「相手は決定権を持っている人なので、それに従う女性がいるからこそあそこまでつけあがるのだと思います。見下されているようで大変に気分が悪く、お仕事は断りました。普通の会社ならこんなことは許されないですよね? 悲しいかな、こういったことは珍しいことではないんです。芸能界では非常識なセクハラおじさんたちが許されてしまっているんですよ」
また、セクハラが激しいとされる有名なお笑い芸人などの名前は「ブラックリスト」として出回り、女性もマネジャーから飲み会などに出席しないように指導されているといいます。女性が共演者らとの飲み会に出席する際にはマネジャーがほぼ必ず同席するといいます。
それでも、セクハラだと感じるような言動をされることがあるといい、マネジャーからは「大物相手にマネジャーがクレームを入れるとカドが立って仕事に影響が出る。うまくかわせるようになってほしい」と言われているそうです。
なぜ、芸能界でセクハラが横行するのでしょうか。「芸能界ではキャスティングの権限などを持っている大物やテレビ局の社員の立場が強く、そこまで売れていない人間の立場は本当に弱い。どうしても仕事が欲しい子たちは嫌なことをされても黙っているし、あまりにも当たり前のようにセクハラがあって、芸能界はそういうものだと自分でも違和感を感じなくなってしまっています」と女性は話します。
米国・ハリウッドでの俳優らの告発をきっかけに広がった「#MeToo」。日本でも、ブロガーで作家のはあちゅうさんが自身のフェイスブックなどで元勤務先の先輩を名指しで告発するなどの動きがありました。ただ、芸能界には広がっていないようです。
こうした現状について、お笑い芸人の水道橋博士さんは朝日新聞のインタビューで、「そんなの、日本でもあるに決まってるでしょ? でも、なかなか言えないんですよ。大物が絡んでいたりすると、告発したら自分の仕事がなくなると思ってしまう。芸能界には、ボクを含めて昭和の古い体質の人たちがまだまだいますからね」と語っています。グラビアアイドルの女性も「仮に声をあげても、大物でなければ黙殺されるし、干されて芸能界にいられなくなるだけ。芸能界で頑張りたいと思っている人ほど声を上げるなんてできないと思っている」話します。
では、どうしたらいいのでしょうか。水道橋さんは同じ朝日新聞のインタビューで「米国の俳優たちも新しい社会のために行動しているし、自分の過ちを受け入れている。セクハラを許さないことは国際社会の流れで、日本もその流れに乗っていくでしょうね。共演者や視聴者など周囲がセクハラを肯定的に見ない、という意識を自分も含めて持ちたいです」と語っています。
芸能界であこがれの女優を目指して努力を重ねている女性を取材して、「誰かが声を上げないと変わらない。告発を」とは言えませんでした。女性のように立場の強くない人が声を上げればすれば、仕事を失うかもしれないからです。
告発が広がらない背景には、あまりにもセクハラが当たり前にある芸能界の現状があるようです。変えていくには、芸能界に身を置いている人はもちろんですが、一般のファンや視聴者も含めてセクハラを許さないという視線を一人ひとりがしっかりと持つことから始めるしかないのかもしれません。
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