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AKBもついに…「脱CD」の布石? ファンがメンバー選考ドラフト会議
AKB48や姉妹グループの新メンバーを選ぶ「第3回AKB48グループドラフト会議」が先月、都内で開かれました。いわゆるアイドルオーディションですが、メンバーになる候補者を「指名」したのは運営側ではなくファンたち。「ファン目線」でのメンバー選考について、考えてみました。(朝日新聞記者・小松隆次郎)
秋元康さんがプロデュースするAKB48グループは国内に計六つあり、計300人以上のメンバーが所属しています。
過去2回のドラフト会議は、それぞれのチームの現役メンバーと運営幹部らが相談して選びました。
新メンバーの候補者は12~18歳の68人。昨年秋に始まった事前オーディションの1次審査(書類)、2次審査(面接)、3次審査(ダンスと歌唱)を通過しており、ドラフト会議はいわば「最終審査」です。
ファン投票は、インターネットの動画配信サイト「SHOWROOM」上で行われました。サイト上では、ファンが自分のチームを決め、そのチームに入れたい候補者を投票していきました。
ファン投票でメンバーを選ぶという試みに、開催前からネット上では賛否両論でした。
「簡単な気持ちで彼女たちの未来を選ぶ責任を負えない」
「何を基準に選べばいいの? 私たちど素人の直感で(選ぶの)は無責任過ぎる」
「(指名された)ドラフト生(候補者)にははじめからファンがついている! むしろ安心だ」
メンバーを自分たちで選べるし、人気の高い子がメンバーになれば、ファンも喜ぶんじゃないの? そう思う人もいるかもしれません。でも、そう単純ではありません。
「プロの目」で選ばれた「アイドルに向いてなさそうに見えた子」がみるみる成長し、人気メンバーへとのし上がる。人気が出なくても、「一推し」として応援できる存在になる。アイドルファン、特にAKB48グループのファンは、そんなアイドルたちをたくさん見てきたのです。
私自身もこれまで、加入当初に「大丈夫かなあ?」と思っていたメンバーが何人もいました。でも今はそんなメンバーたちを見ると、「オーディションで選んだ人たちの目はすごい! えらい! ありがとう!」と言いたくなります。見違えるように成長しているのです。
また、全国展開するAKB48グループならではの特殊な事情もありました。
たとえば東京在住の候補者がAKB48ではなく、地方の姉妹グループに入った場合は、引っ越しをしなければいけません。一人暮らしができない小中学生は親とともに引っ越しを余儀なくされます。人生を変えるようなことをファンが決めてしまっていいのか、と。私もそう思います。
実際、家庭の事情で実家を離れることができないため「AKB48以外のグループであれば指名を辞退する」と「逆指名」した候補者もいました。プロ野球の世界でもしばしば起きるドラフトならではのドラマですが、それを運営(球団)側が指名するか、趣味で参加する不特定多数のファンが指名するかでは大きな違いです。
そうしたファンの気持ちが反映された結果なのか、候補者が公表した「志望チーム」と、ファン投票で実際に決まったチームが一致したケースが多かったと言えます。
アイドル情報サイト「スクランブルエッグ」の編集長、岡田隆志さんに話を聞きました。
アイドル取材歴20年以上の岡田さんでも、これまでにメンバーをファン投票で選ぶアイドルグループは聞いたことがないそうです。そして運営側、メンバー、ファンがそれぞれ求める新メンバーの傾向について、こう分析していました。
運営側は「育てたい子」を選び、メンバーは「今までにいないタイプで、若めの子」を選ぶ傾向がある。「特にメンバーにとっては、すぐに自分のライバル的存在にはなって欲しくないという深層心理があるかもしれません」と言います。
なるほど。
一方、ファンが選ぶのは「現時点で可愛い子、能力が優れている子」。今回は2次審査通過以降、候補者がSHOWROOM配信をしていました。「ファンの心をすばやくつかむのが上手な子が選ばれやすいのでは」と岡田さん。
ところで「ファン目線」でメンバーを選んでしまって本当に大丈夫なんでしょうか? その問いに岡田さんは、AKB48の小栗有以さんの例を挙げ、こう答えました。
「小栗さんは加入した当初は目立たない存在でした。それがファンがネットで『2万年に一人の美少女』と言い始めてから人気が急上昇し、今では卒業したエース渡辺麻友さんの後継者とも呼ばれる存在になりました。ファンに『見つけてもらって成長する』というのは、AKB48の特徴ですから」
今回指名された候補者はAKB48や姉妹グループと交渉をし、加入するかどうかを決めます。少女たちにとっては、大きな決断です。
新曲のメンバーを決める「総選挙」は毎年恒例の行事になるなど、AKB48グループはファンとの一体感を売りにしてきました。
結成から12年経ち、渡辺麻友さんの卒業でかつての「神7(セブン)」が全員、グループを去りました。今回の「ドラフト会議」の狙いは、ファンによる新しいスターの発掘にあったと言えます。
大きな曲がり角を迎え、SNSの急速な普及やライバルとなるアイドルグループの増加に対応するため、思い切った施策に出たのでしょう。そこには近年、「CD売上=人気・流行」が成り立たなくなってきた音楽業界の構造の変化も影響していそうです。
音楽ランキングの老舗オリコンも、今秋をめどに、CDの売り上げやダウンロード購入数などを合算して一つの指標にまとめた複合ランキングを新設する方針を明らかにしています。
背景には、CDの特典商法拡大や音楽の楽しみ方の多様化で、CDの売れ行きだけで流行を追えない現状があります。
AKB48グループのメンバーの多くは最近、メディアに登場しない地下アイドルたちと同じように、公演や握手会がない日もTwitterやInstagramを使った発信、SHOWROOM配信を通じたファンとの交流に励んでいます。
「会いに行けるアイドル」から、ネットを通じて日常的に会話ができるような、さらに身近なアイドルへと発展していく途上かもしれません。
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