コラム
フィギュア、社会人スケーターがくれた感動 会社勤めしながら練習
平昌五輪ではフィギュアスケート日本代表の活躍が期待されます。代表を決める全日本選手権(2017年12月、東京)では、宇野昌磨選手や田中刑事選手らに注目が集まりました。そんなフィギュアの世界では珍しい会社勤めの選手がいます。平日は職場で仕事をしながら、土日を中心に練習し、大会にも出場しています。「スケートは人の性格や生き様がそのまま出る」。全日本では2年ぶりにフリーに進出し、力を出し切りました。今月末、山梨県で開催される国体にも出場します。
会社勤めをしながら選手として活動しているのは、男子の山田耕新選手。社会人4年目です。
全日本フリーは2年ぶりに進出しました。「社会人でも参入していける競技であると証明することで、フィギュアスケートに恩返しをしたい」と話します。
練習時間は土日にそれぞれ3時間、平日は週に1回ほどです。大阪や福岡のリンクを利用しています。限られた時間に集中して練習することで、試合の勝負強さにもつながり、3年連続で全日本選手権の切符を手にしました。
原動力は「スケートが好き」という気持ちです。追求しているのは、深みのある演技。濱田美栄コーチからは「4分間(の演技が)終わったときに、スケートっていいなと思えるプログラムになるように作り上げなさい」と指導を受けています。
日常の至るところでフィギュアスケートを意識しているそうです。
「スケートは人の性格や生き様がそのまま出る。生活の中でも自分の中で弱さが出たときにどう向き合うか、どう乗り越えるか、そこがすべてにつながってくる」
仕事との両立から練習量はトップ選手に比べると少なくなります。それでも、山田選手にとって、社会人という環境は不利ではないと言います。
「走り込みを徹底しているので、学生の頃より体力ははるかにいいし、プログラムの構成も高い。今後落ちるとすれば体力だが、心技体の技と心でどれだけカバーできるかが、社会人スケーターの伸びしろ」
全日本選手権は「自分のやってきたこと、感謝の気持ちを伝える、一年で一番大きな舞台」。ショートプログラム(SP)の上位24人が出られるフリー。昨季はあと一歩でフリー進出を逃しました。
今季のSPでは、力を入れて練習してきたトリプルアクセル(3回転半)に挑戦するか葛藤しましたが、本番は跳ばずに、確実な技で勝負し、フリーに進みました。
12月24日のフリーでは昨年披露できなかった「Fix You」の曲を滑り、こだわり続けたトリプルアクセル(3回転半)を着氷。演技後は自分自身に拍手をしました。
五輪のような舞台では、トップアスリートが、けがやプレッシャーを乗り越え、人間の身体能力の限界に挑みます。競技場で繰り広げられるパフォーマンスだけでなく、そこに至るまでの物語に共感することで、感動が生まれます。
会社員をしながら現役を続ける山田選手。合計177.40点で総合18位でしたが、彼が演技を通して伝えた感動は、トップ選手に引けを取らないものだったと思います。
「社会人スケーターという概念がなくなったらいい。そのときには僕も安心してこのスケート靴を置ける」。26歳の山田選手は後輩たちへ新たなロールモデルとして活躍し続けています。
1/19枚