連載
#19 みぢかなイスラム
ビットコインが中東で「禁忌」とされる理由「どうあっても認めない」
中東の各国でビットコインなど仮想通貨を規制する動きが強まっています。2017年1月の1ビットコイン=10万円前後から12月には一時200万円台と急激に値上がりし、日本ではタレントを使ったテレビCMも始まるなどブームの様相ですが、値動きの荒さや国の管理下に置けないことが問題視されています。(朝日新聞国際報道部・神田大介)
エジプトでイスラム教徒の最高指導者にあたる大ムフティのシャウキ・アラム師は1月1日、ビットコインはイスラム法に照らして「禁忌である」とするファトワ(宗教令)を出しました。
現地からの報道では、アラム師はビットコインが資金洗浄に使われ、テロの資金源になっていると指摘。通貨の管理は「国家の最も重要な機能の一つだ」としました。
また、「非常にリスクが高く、極端な価格変動の激しさや不安定さから価値の予測が困難である」として、ギャンブル性が高いことも問題視。イスラム教は賭博を厳しく禁じており、日本でいう宝くじも存在しません。
宗教令に強制力はありませんが、アラム師のファトワはエジプトだけでなく、広くイスラム教スンニ派の教徒に影響力があります。エジプト中央銀行は1月9日、仮想通貨の利用を警告する声明を出したとのことです。
地元メディアの報道によると、イラン中央銀行のバリオラ・セイフ総裁は1月11日、「どうあってもビットコインを認めることはない」と発言しました。
セイフ総裁は「投資家にはもっと安全な選択肢がある。ギャンブルをして不合理なリスクを背負うのはまったく無益だ」と強調。イラン中央銀行は近く、仮想通貨の取引に関する指針を打ち出す方針です。
イランでは不況と物価高が長引き、政府の経済政策に抗議する大規模なデモがあったばかり。対ドルやユーロで値を下げ続けるイランリアルに嫌気し、仮想通貨を買う動きが強まっていると報じられていました。
現状ではイラン中央銀行の出す指針がどれくらい強硬なものになるのかはわかりません。イランはフェイスブック、ツイッターを含む数百万件のサイトがアクセスを遮断されていますが、この規制をかいくぐるソフトの利用が一般的で、有名無実化しています。仮想通貨が規制されても、実際の取引に影響しない可能性もあります。
また、イランで最も普及しているSNSで、日本でいうLINEにあたるテレグラムが、独自の仮想通貨を立ち上げると報じられています。もともとイランはデビットカードの普及率が9割以上と、意外にもキャッシュレス化が進んでいる国。あっという間に普及するかもしれません。
トルコ政府宗教局は昨年11月、仮想通貨はイスラム法に適さないとする見解を発表しました。ただし、「現時点では」という留保付きです。
「不正な蓄財につながる」「資金洗浄などの不法行為に容易に使われる」「国家の監督下にない」などの理由が挙げられています。
12月にはシムシェキ副首相が「ビットコインの価格は過剰に上がっており、ある日突然崩壊する」と警告。利用を控えるよう国民に求めました。トルコ政府はバブル崩壊への危機感が強いと指摘されています。
中東の金融センター、ドバイを抱えるアラブ首長国連邦。仮想通貨の取引所もあります。
地元紙は1月7日、ドバイの取引所「ビットオアシス」が地元の銀行3行との間で取引を中止したと報じました。報道によると、銀行側が内規に基づき、顧客とこの取引所の口座の間で送金を差し止めたケースがあったということです。
ドバイにある別の銀行の口座を使えば取引はできるとのこと。ただし、地元紙は現地銀行関係者の話として、「アラブ首長国連邦内の銀行はいずれも、疑わしい取引に対する中央銀行のガイドラインを厳守している。特に高額の取引は中央銀行が厳密に監視している」と伝えています。
世界有数の産油国サウジアラビアは、今のところ仮想通貨に対する明確な姿勢を打ち出していません。
2017年12月13日、サウジとアラブ首長国連邦は共同で新たなデジタル通貨をつくり、両国間の決済や送金で試験的に使うと発表がありました。仮想通貨と同じ「ブロックチェーン」という技術を使います。銀行間の取引だけに使われ、個人は保有できません。
この試験がサウジでビットコインなど他の仮想通貨の積極的な活用につながるのか、公式通貨以外の仮想通貨を締め出す前触れなのか、現時点では不明です。
ドル、円といった普通の通貨と違い、仮想通貨は国家がコントロールすることができません。中東には強権的な国が多く、仮想通貨の考え方は相いれない傾向が強いようです。
ただ、韓国政府は1月11日、仮想通貨の取引所取引を禁止する法案を準備していることを明らかにしました。中国でもビットコインの「採掘活動」に停止命令が出たと報じられています。日本の国税当局も、仮想通貨で多額の売却益を得た投資家らの調査を始めました。
2018年は、国家による仮想通貨への規制が世界的に強まることが予想されます。
ちなみに今回、中東各国や欧米でのビットコインに関する報道を見ていて気付いたのですが、日本は「世界でもまれな仮想通貨ブームに沸く国」とみられているようです。
金融庁が取引所を法的に登録した、給与支払いに使われ始めた、家電店でも使える、はては仮想通貨をモチーフにしたアイドルグループまで現れた……といった事例が、興味深げに伝えられています。
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