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外務省困惑、首脳会談の裏側暴露の新駐日大使 押しの強さトランプ級
米トランプ政権の駐日大使として着任3カ月になるウィリアム・ハガティ氏(58)が11月、来日後に初めて本格的な記者会見に登場しました。風貌はソフトですが、もとはトランプ氏と同じ押しの強いビジネスマン。詰めかけた国内外のメディアを前に、「日米FTAを含むあらゆる選択肢を話し合った」と日米首脳会談の舞台裏を披露。「議論はしていない」と外務省が戸惑うなか、大統領の名代として「対日貿易赤字の解消」を何度も訴えました。
「とにかく一生懸命働く。大統領が私に与えた日本での挑戦に力を尽くす」。トランプ氏に指名され、キャロライン・ケネディ氏を継ぎ30代目の駐日大使になったハガティ氏。四児の父でテネシー州出身です。日本企業進出が多い同州で経済開発庁長官を務め、1990年頃に東京でコンサルタント会社にいたこともあります。
「四半世紀前にここにいた頃、日米貿易摩擦はひどかった」と振り返りました。そして、トランプ氏がアジア歴訪中の11日6日に東京・元赤坂の迎賓館で開かれた首脳会談に触れ、「安倍首相と大統領が表明したように、今は連携の関係だ」と強調しました。
しかし、その日米連携でハガティ氏がこわだったのは、「米国第一」のトランプ氏が唱える貿易赤字削減です。それが如実に現れたのが、首脳会談のやり取りを披露して繰り返し意気込みを示した、日米二国間での自由貿易協定(FTA)の締結です。
関税などの壁をなくそうとする自由貿易協定をめぐっては、トランプ氏の前のオバマ政権の時には、アジア太平洋の多くの国々が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)の発効を日米で目指していました。ところがトランプ氏は、TPPは米国にとって損だとして、1月の大統領就任早々に脱退を表明。代わりに二国間でのFTA締結を各国に求めています。
安倍政権は引き続きTPPを推進しており、この件で日米は平行線です。11月6日の首脳会談について、日本側は「FTAについてやり取りはなかった」と説明しました。ところが、ハガティ氏は17日の日本記者クラブでの記者会見の冒頭発言で、「二人はFTAを含むあらゆる選択肢を話し合った」と語ったのです。
冒頭発言でもう一度同じことを言い、「継続する貿易赤字に対応する議論だった。私も同席した」とだめ押し。実際、首脳会談でハガティ氏は、安倍氏と向き合うトランプ氏のすぐ隣に座っていました。トランプ政権の貿易赤字削減方針は世界に影響するので国際的に関心が高く、日米のメディアが重ねて質問で確認しましたが、ハガティ氏はぶれませんでした。
野党は20日の国会で早速ハガティ氏の発言を取り上げ、安倍氏に「日米どちらが本当の事を言っているのか」と質問。安倍氏は「トランプ大統領との会談で日米FTAに関するやり取りはなかった」と答えました。外務省幹部は「少なくとも議論はしていない。そう大きく報道されたので、大統領は言うことは言ったと反論したかったのか……」と戸惑っています。
トランプ氏がFTAの持論を封印などするわけがないと強調した形のハガティ氏。記者会見では、日本を含む参加国が米国の復帰を望むTPPについてもトランプ氏の姿勢をふまえ、「今の条件では決して参加できない。多くの国が米国市場が魅力的だからと参加したのだろうが、先行きは難しいかもしれない」と突き放しました。
ハガティ氏は、トランプ氏が首脳会談に先立ち駐日大使公邸で日米の経営者らを前に行った演説についても、「大成功だった」と絶賛しました。この場でトランプ氏は「日本との貿易は公平でない」と述べ、米国市場は開かれているとアピールして日本企業にさらなる投資を促していました。
米国の対日貿易赤字は対中国に次ぐ多さです。その解消にトランプ政権がここまでこだわるとすれば、気になるのは武器の売り込みです。米国が対日貿易赤字を武器輸出で緩和する構図は冷戦期からですが、6日の首脳会談後の共同記者会見では、トランプ氏は「首相が大量の武器を買うことが非常に大切だ」とあからさまでした。
その武器とは、米国製の新型のミサイル防衛装備か、戦闘機か、それとも他の何かか。ハガティ氏の記者会見では、対日貿易赤字と並んで北朝鮮の核・ミサイルも主要テーマとなった首脳会談での武器輸出をめぐるやり取りについても、質問が続きました。
「死の商人」との批判もつきまとう武器輸出ですが、この件はハガティ氏はさらりとかわしました。「大統領の狙いは何かについて混乱があるようだ。結果として貿易赤字が是正されるかもしれないが、狙いは日本の安全保障のために米国の先端技術を提供することだ。首相と具体的は話はしていない」
ハガティ氏はこんなエピソードも明かしました。トランプ氏が東京からソウルへ向かうため7日に大統領専用機エアフォースワンに乗る際、見送るハガティ氏に「日本には大きな機会がある。最大限生かすように」と指示した――。
米国からの歴代駐日大使には大統領と親しい大物もいて、節目の首脳会談に先立ち首相と意見交換をし、大統領に意見具申をするといったパイプ役も果たしてきました。「米国第一」のトランプ政権で、駐日大使はむしろ貿易赤字解消へ圧力をかけようと陰に陽に存在感を示すのでしょうか。今後に注目です。
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