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ギャンブル依存症映画、作られるはずなかった家族崩壊の「その後」

映画「微熱」の続編。ギャンブル依存症という病気を初めて知る夫婦の場面
映画「微熱」の続編。ギャンブル依存症という病気を初めて知る夫婦の場面

目次

 ギャンブル依存症の人とその家族を描いた映画の続編がユーチューブで公開され、話題になっています。ギャンブルをやめられない夫と、それに耐え続ける妻、両親が争う姿を見て心に傷を負う幼い娘。そんな家族が、治療のため病院を訪れ、回復に向けて一歩を踏み出すまでを描いた4分半の動画です。再生回数は約8カ月で8千回を超えました。本来なら作られるはずのなかった映画の続編が、なぜ制作されたのか。監督を務めた小澤雅人さんに聞きました。

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【映画「微熱」についての記事はこちら】
夫なじる妻、心閉ざす娘 ギャンブル依存症映画が生まれた悲しい理由
ギャンブル依存症の人とその家族を描いた映画「微熱」の続編。治療のため病院を訪れ、回復に向けて一歩を踏み出すまでを描かれている。

支援団体から「続編を」

――動画の制作の経緯を教えてください。

 2015年に「微熱」という短編映画を撮ったのがきっかけでした。パチンコがやめられない夫のせいで、壊れていく家族の姿を描いた作品でした。機能不全に陥った家族の姿を描きたかったので、ギャンブル依存症はその端緒に過ぎませんでした。

 ですが、作品を見た、ギャンブル依存症に苦しんでいた当事者や家族から、「自分たちのことをリアルに描写している」と思わぬ反響が寄せられました。昨年、「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表から、ぜひ続編を作ってほしいと依頼を受けました。

――続編の内容はどうやって決めたのでしょうか。

 田中さんからは、ギャンブル依存症の夫の回復の過程を描いてほしいと言われました。微熱のラストは、家族がどうなったのか結論を描いていませんでした。治療につながる、希望が見えるストーリーにしたいと思いました。

映画「微熱」の続編より。新たな借金が発覚し、言い争う夫婦
映画「微熱」の続編より。新たな借金が発覚し、言い争う夫婦

――撮影はいかがでしたか。

 16年秋に撮影がスタートしたのですが、俳優陣はみな喜んで参加してくれました。微熱の撮影から2年ぐらいしか経っていなかったので、夫役の佐々木佑磨さん、妻役の荻野みかんさんの中に役の感触が残っていたのだと思います。リハーサルの段階で、映画のときと同じような夫婦の険悪な感じがすぐに出ていました(笑) 娘役の山直礼実さんが2年の間でだいぶ大きくなっていたことには驚きましたが。

 夫婦が相談に訪れる精神科医は川上麻衣子さんが演じてくれました。企画の趣旨に賛同し、「ぜひ応援したい」と友情出演してくれました。

精神科医役として出演した川上麻衣子さん
精神科医役として出演した川上麻衣子さん

回復の一歩、リアルに表現

――「微熱」でも今回の続編でも、ギャンブルに振り回される夫婦や娘のリアリティーあふれる演技が印象的でした。
 
 私の父親がギャンブル依存症だったので、家族の心情はなんとなく分かります。子どものころ、父親をパチンコ屋に迎えに行ったり、ギャンブルをやめない父親をなじる母親の姿を見たりする中で、育ちましたので。ただ、当時はギャンブル依存症という病気だとはわかりませんでした。

 結局、両親は私が二十歳のときに離婚しました。一度壊れてしまった家族が再生するのは、簡単なことではありません。ギャンブルなどをきっかけに夫婦の仲が険悪になると、そのしわ寄せは子どもに向かってしまう。自分の経験を踏まえ、そのことを伝えたかった。

夫婦げんかに耳をふさぐ娘
夫婦げんかに耳をふさぐ娘

――公開された動画の再生数は、8千回を超えました。

 作品を見て、ギャンブル依存症の人やその家族が、治療に向かうきっかけになればと願っています。回復に向けた一歩として、作品の中に依存症の当事者や家族が集まり、体験を語り合う自助グループが登場します。

 自助グループと聞いてもどんなものか分からない人も多いので、田中さんの助言を受けながら、実際の雰囲気に近い感じを伝えられるようにしました。私は父親が病気であるということが分からなかった。だから治療が必要だとか、治るということも想像できなかった。

 これまでも「微熱」を自主上映したいという問い合わせを受けることがありましたので、今後は続編の動画とセットで見てもらえると、より伝わると思います。

ギャンブル依存症たちの自助グループに参加する主人公(中央奥)
ギャンブル依存症たちの自助グループに参加する主人公(中央奥)

次は「介入」をテーマに

――新たな続編の計画もあるのですか。

 田中さんとは、次は依存症者を治療につなげる「介入」がテーマの動画を作りたいねという話をしています。依存症は否認の病といって、なかなか治療を受けようとしません。田中さんのような専門家が本人と家族の間に「介入」し、治療につながることが多いそうです。

 先日、山梨県甲府市の依存症の回復施設を訪れました。入所者に話を聞きましたが、みんな本当に普通の人。ギャンブルにはまっていたなんて、全く見えない。もともとは学生だったり、会社員だったり、普通の生活を送っていた人が、ふとしたことをきっかけにギャンブルにはまり、やめられなくなる。誰もが依存症になる可能性があるんだと思いました。

 カジノ法案などで、ギャンブル依存症は徐々に認知度は上がっているかもしれませんが、まだまだ多くの人にとってはよくわからない病気だと思います。動画を見て、依存症の理解が深まり、回復に向かう人が一人でも増えてほしいです。

 微熱や動画の問い合わせは、小澤さんのホームページ(http://masatoozawa.zohosites.com/Contact.html)へ。

     ◇
小澤雅人(おざわ・まさと) 1977年生まれ。2004年映像テクノアカデミア映画学科映画映像編集クラス卒業。児童虐待や機能不全家族といった社会問題をテーマに映画を撮る。2013年に長編映画「風切羽 かざきりば」を発表。昨年公開の長編映画「月光」は性暴力被害をテーマにした。
監督の小澤雅人氏
監督の小澤雅人氏

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