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高校生から医師へ「誰かの支えになろうとする人こそ一番支えが必要」

「誰かの支えになろうとする人こそ 一番、支えを必要としています」。このメッセージに込めた思いとは?

相鉄本線の瀬谷駅に設置された「めぐみ在宅クリニック」の広告
相鉄本線の瀬谷駅に設置された「めぐみ在宅クリニック」の広告

目次

【ネットの話題、ファクトチェック】

 駅に設置された医療機関の広告。医師の格好をしたウサギのイラストとともに、こんなメッセージが書かれています。「誰かの支えになろうとする人こそ 一番、支えを必要としています」。通院が困難な患者とその家族の在宅療養を支援している横浜市のクリニックのもので、高校生から医師に寄せられた言葉が元になっているそうです。ツイッターで話題になっているこのメッセージ。どんな思いを込めたのかを院長に話を聞きました。

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ツイッターで話題に


 今月16日、「駅の広告が深かった」という文言とともにツイッター投稿された画像。そこには相鉄本線の瀬谷駅に設置されたクリニックの広告が写っています。

 右上には、白衣を着て聴診器を首から提げたウサギが描かれていて、真ん中には大きな文字で、こう書かれています。「誰かの支えになろうとする人こそ 一番、支えを必要としています」

 この投稿に対して、「心にグッときました」「あ…涙腺が…」といったコメントが寄せられ、リツイートは9200、いいねは1万3千を超えています。

瀬谷駅の改札口近くのエレベーター横に設置されています
瀬谷駅の改札口近くのエレベーター横に設置されています

2000人以上を在宅看取り


 この広告を出したのは、横浜市にある「めぐみ在宅クリニック」です。

 通院が困難な患者とその家族の在宅療養を支援していて、治すことが困難な病気、特に積極的な治療が困難となった癌患者のケアにあたっています。2006年に開業して、これまでに2000人以上の在宅看取りを行ってきたそうです。

 院長の小澤竹俊さん(54)は、救命救急センターやホスピス病棟での勤務を経てクリニックを開院。2015年には一般社団法人「エンドオブライフ・ケア協会」を立ち上げ、「看取り人材」の養成にも取り組んでいます。

 今回話題になった広告のメッセージは、高校生から小澤さんに寄せられた言葉が元になっているといいます。この言葉に込めた思いについて、小澤さんに話を聞きました。

地域緩和ケア研究会で参加者と話し合う小澤竹俊さん=2015年、川村直子撮影
地域緩和ケア研究会で参加者と話し合う小澤竹俊さん=2015年、川村直子撮影 出典: 朝日新聞

院長に聞きました


 ――この広告はいつごろから設置されているのでしょうか

 「開業して2~3年して、広告会社から『広告を出さないか』としきりに営業がありました。はじめは断っていましたが、あまりに何度も言われる中で、座右の銘であるこの文言を紹介してみたいと考えました。8年ほど前になるかと思います。当初は駅の中程にある広告でしたが、現在は改札を入ってコンビニエンスストアの入り口付近にある鏡の下に小さく掲示していただいています」

 ――自身の経験から生まれた言葉なのでしょうか

 「私の講演を聞いた高校生の感想文にあった言葉なんです。2000年ごろから小中学校や高校で『いのちの授業』の活動をしていたのですが、高校1年生の女子生徒の感想文に『私はこのいのちの授業をきいて、誰かの支えになろうとするこの先生こそ、一番、支えを必要としていると思いました』と書かれていました。その言葉がとても印象的で、それ以来、座右の銘としてこの言葉を紹介するようになりました」

 ――この言葉を広告に選んだ理由は

 「ホスピスマインドを表していると思うからです。看取りという仕事を通して学んだことは『本当の力とは、すべての問題を解決できる力ではない』ということです。たとえ、解決が困難であったとしても、逃げないで関わり続けることが本当の力だからです」

 「医師になったとき、力をつけて患者さんや家族の力になりたいと思っていました。しかし、どれほど学んだとしても、全ての苦しみを解決できるとは限りません。家事ができなくなった40代の乳がん末期の患者さんからは、『まだ生きていたい』と希望されたことがあります。50代の肺癌末期のお父さんからは、『仕事ができず家族に迷惑をかけるならば早く死んでしまいたい』と言われたこともあります。力になりたいと思えば思うほど、力になれない患者さんと関わることは苦しくなります」

 「あまりにも苦しくて、逃げたいと思うこともありました。その時に学んだことが『本当の力とはすべての問題を解決できる力ではなく、逃げないで最期まで関わり続けること』でした。力になれなくても関わり続けるためには、自分の弱さや無力を認めるしかありませんでした。すると、いろいろなことが見えてきます。決して自分1人で援助を行っているのではありません。ともに働き、ともに苦しむ仲間がいました。家族がいて、今まで出会い、お別れしてきた患者さんや家族がいました。そして、信仰がありました。すると、力になれない小さな自分でも、誠実に逃げないで向かってもよいと思えるようになりました。そのことに気づかせてくれたのが、女子生徒の感想文にあったあのひと言なんです」

かつて患者さんの孫から贈られたプレート。広告に登場するウサギのキャラクターは、このイラストが元になっている
かつて患者さんの孫から贈られたプレート。広告に登場するウサギのキャラクターは、このイラストが元になっている

これからについて


 ――これまでも広告に対する反響はあったのでしょうか

 「めぐみ在宅クリニックで研修を行うことがあります。すると全国から集まった人たちが、この広告の前で記念撮影をしていくようです。しかし、このようなTwitterでの反響は初めてです」

 ――広告が話題になったことについては

 「素直に嬉しいです。わかる人にしかわからない広告ですから。ただ、これからの時代はヒト・モノ・カネが不足する時代が来ます。限られた資源で仕事や家事や介護をしていかないといけません。力になりたいと思いながら、力になれず、自分を好きになれない人も多くいることでしょう。そのような人に、このメッセージが届けばと願っています」

 ――これからの活動については

 「めぐみ在宅クリニックでは、これからも地域で求められる在宅医療に誠実に取り組んでいきたいと思います。クリニックの役割は、ただ診療を行うだけではありません。在宅緩和ケアを学びたい医師や看護師に対する教育研修も重要な役割と考えて、引き受けていきたいと考えています」

 ◇ ◇ ◇

 小澤さんの活動や思いは、著書「死を前にした人にあなたは何ができますか?」(医学書院)、「苦しみの中でも幸せは見つかる」(扶桑社)、「今日が人生最後の日だと思って生きなさい」(アスコム)などにまとめられているそうです。

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