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中国で「カルト的人気」お化粧動画 千年前のメイク、計5千万回再生
一昔前まで、すっぴんの人が多かった中国の女性たち。今では、中国版ツイッターの微博にお化粧の達人が集まり、テクニックやアイテムの紹介を盛んにしています。そんな中、千年以上前の古代中国のお化粧を再現したアカウントが人気です。なんでそんなマニアックな路線を選んだのか? そもそもなんでそんなに人気なのか? 中の人に話を聞きました。
古代中国のお化粧を再現するアカウントを運営するのは夢詩さんです。
大学に入るまで全くお化粧に接したことがなかったという彼女。「大学に入り、たまたま同じ寮にお化粧が上手な女子がいました。彼女がとてもきれいだったので、お化粧の基本を教えてもらいました」
その後、ウェブ上で資料を収集します。「当時(2010年ごろ)はまだ微博(weibo)でなく、主に博客(ブログ)でした。好きなお化粧の達人のブロガーをフォローし、熱心にお化粧の技術を習得しました」と振り返ります。その後、夢詩さんも『寝室化粧課(寮でできるお化粧)』動画を撮影しはじめ、同年代の女性にお化粧の心得をシェアするようになりました。
2014年に大学を卒業して就職したのは不動産会社でした。しかし、思ったような仕事ができなかったこともあり、2015年にあっさりと退職。「お化粧ブロガー」(美粧博主)の道を歩み始めます。
有名人になった夢詩さんですが、「お化粧ブロガー」になったばかりの2016年には、迷いもあったそうです。
「当時はまだ自分の立ち位置をうまく見つけられませんでした。発信していたのは『お化粧のコツ』『友達に教えて役に立つ』といったもの。自分のできること、伝えたいことがメインでした」
取り組んだ動画も、思うような再生回数にはならかったそうです。
「お化粧のブロガーはとても多くて。更新スピードや、コンテンツの新しさなど、競争の激しさを痛感しました」
転機は「コスプレ」でした。
2017年の新年パーティで、お化粧のテクニックを披露する機会がありました。
その時、夢詩さんは中国のカンフーの時代劇の人気キャラクター「小龍女」という役に扮したのです。いわゆるコスプレです。
これが大好評で、その時の手応えから「古代の衣装に合わせるお化粧をすればいいんだ、とひらめきました」と語ります。
最初は中国のテレビで人気の時代劇の登場人物にフォーカスし、当時のお化粧を検証しました。
文献や史料などを読み込むうちに、古代のお化粧のおもしろさにはまったそうです。
オリジナル動画を作り『這才是古粧(これこそ古代のお化粧だ)』というシリーズとして公開しました。
この動画シリーズが、反響を呼び、合計5千万回以上の再生を記録。微博だけで一つの動画の再生回数が480万回を超えたのです。
お化粧の再現にはこだわります。
中国南北朝時代(439年から589年)の南朝の寿陽姫の「梅花お化粧」は額に梅の形の装飾が特徴です。
宋王朝(960年から1279年)では、宮廷女子と普通女子のお化粧の比較も手がけました。
明王朝(1368年から1644年)の「三白粧」は古代の絵に基づきで再現しました。
大成功した再現シリーズですが、夢詩さんによると、古代のお化粧の再現は、絵などの史料がしっかり残った場合は再現度が高いですが、文字描写しかない場合、史料は3割で、想像はむしろ7割を占めるそうです。
史料をメインに基づいたにもかかわらず、シリーズの中で最も多い再生回数を誇ったのは、唐王朝(618年から907年)の「エキゾチックお化粧」の動画です。
エキゾチックお化粧は、有名な詩人白楽天の詩『時世粧』に基づいています。唇は黒く、眉は八の形をし、顔は赤い顔料で塗られています。騎馬民族から伝来されたと言われています。
夢詩さんは、文献をひもとき、黒い唇と八の形の眉を再現し、さらに新疆地区で保存された当時のお墓の壁画を参考にしながら、赤面のお化粧を再現しました。今の時代からするとびっくりするセンスですが、歴史的事実をユニークな視点でよみがえらせました。
また、「各王朝のリップのお化粧の比較」の動画も大人気を誇り、各王朝のリップを比較した結果、古代の中国では「桜桃の唇」が美しいとされていたことを表現しました。
この古代化粧シリーズがヒットしたおかげで、微博上のフォロワーは数万人から47万人以上(原稿を出す9月25日時点)に急増しました。
今の中国のテレビドラマで古代宮廷の時代劇が人気だったことも追い風でした。
「漢服ブーム」ブームも後押ししました。夢詩さんによると、中国の動画サイト「bilibili」(「Bサイト」とも呼ばれる)にある漢服サークルのメンバーが、『這才是古粧(これこそ古代のお化粧だ)』シリーズに注目を注いでいます。「本当の唐王朝お化粧術」という動画は、「Bサイト」で64万回の再生を誇り、動画に書き込まれたコメントも5000件を超えました。
再現する際には、文献を手がかりに、各王朝時代の絵、壁画、彫刻などを調べているそうですが、一番大変なのが「顔料」です。
眉を描く際に使われた「黛」(ダイ)という顔料は、黒に緑色がかかっていて調合するのが大変でした。
顔に塗る「赭」(ゼウ)という赤い顔料も、現代では入手困難です。
「古代のお化粧の再現と言っても、当時の化粧品を手に入れなければ、お化粧の模倣に過ぎないかもしれません」と夢詩さんも嘆きました。
「なかなか『これだ!』という明確な答えがないために、捜すことも作ることも、かなり時間と労力がかかるんです」
夢詩さんは、これらの作業をチームで進めています。
現在、夢詩さんは中国最大のお化粧アプリ会社「抹茶美粧」に所属しています。現在は資料集めや顔料の入手、動画の最終仕上げ、SNSの運営などは、チームの別のメンバーが分担し、自分はお化粧の再現に専念できるようになったそうです。
このように、中国では、有名なアカウントやブロガーの場合、複数の人がチームで運営することが少なくありません。
中国のネット空間が、UGC(ユーザー生成型コンテンツ)と呼ばれる時代から、PGC(プロフェッショナルなコンテンツ)に変化を遂げていることがうかがえます。
多くの中国人と同様、夢詩さんは日本の化粧品のファンでもあります。持っている化粧品の8割は日本製品だそうです。
「この間使ったダブルカラーのマスカラーは、色の対比が大胆でユニークであり、また人とあまりダブらないところがとてもよかったです。ファンデーションもきめ細やかで、欧米の製品より、日本のほうがよりアジアの女性の肌に合うことは間違いないです」と話していました。
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