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中国人観光客の「大声の会話」いったい何で盛り上がっているの?

新宿で羊料理の店を営むジンさん。「中国人と日本人の会話には違いがあります」と語る=朝日新聞社
新宿で羊料理の店を営むジンさん。「中国人と日本人の会話には違いがあります」と語る=朝日新聞社 出典: 朝日新聞社

目次

 日本の中華料理店で盛り上がっている中国人のお客さんたち。いったい何を話しているのでしょう? 日本人グループに比べると声も大きく「元気」な人が多い印象です。来日30年、新宿で中華料理店を営むジンさんは「中国人が盛り上がってしまうのは理由があるんです」と語ります。中華料理店から見た日本と中国について聞きました。

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本場の味の名物料理「羊蠍子火鍋」
本場の味の名物料理「羊蠍子火鍋」 出典: 朝日新聞社

ふるさとの味を日本でも提供したい

 北京出身のジン・イさんは、1987年に来日しました。宅急便の配達員や飲食店の皿洗いなど、様々な職業を経験したジンさん。ふるさとの味を日本でも提供したいと思い立ち、2017年4月、新宿に「老北京火鍋 蠍子王」を開店しました。「羊蠍子(ヤンシェズ)火鍋料理」のお店は日本初だそうです。


 お店の看板メニューは羊の背骨を使った火鍋です。店名の「羊蠍子」は、蠍(サソリ)の形に似ていると言われる羊の背骨の名前からつけました。


 羊蠍子の火鍋は北京料理の一つで、満州族やモンゴル族から伝わったと言われています。

「老北京火鍋 蠍子王」のオーナーの靳毅(ジン・イ)さん
「老北京火鍋 蠍子王」のオーナーの靳毅(ジン・イ)さん 出典: 朝日新聞社

中国人のお客さんの話題は「出身地」から

 お店には、日本人も中国人も来ます。ジンさんは、二つの国民には、はっきりとした特徴があると言います。

 まず、にぎやかさ。「中国人のお客さんは大きな声を出す人が多いですね。お店の人間ともよく話します」

 たしかに、飲食店などで盛り上がる中国人のグループはよく見ます。そのなかに、初対面でも互いに声をかけ合うことがあります。

 「出身地から会話が始まることが多いですね。中国が広いので、出身地が同じか近い場合、『同郷』として話しが弾みます。遠く離れると、自分の知らない気候や風習、名産品などを話すことで、話題が尽きません…」

 「初対面でもいい関係になれますよ。この前、誕生日を祝った客が隣の席へケーキを裾分けました。小さい子どもがいると、子どもを可愛がって盛り上がりました。この間、隣席の全く知らなかった客同士が、意気投合し、一緒にお酒を飲んでいましたよ」

「買い物」で盛り上がる訪日観光客

 訪日観光客と日本に住んでいる中国人とでも会話が違ってくるそうです。

 「観光客は買い物のことや日本の物価、日本の不動産などで、話が盛り上がることが多いです。日本に住んでいる中国人は仕事を話すことが多いです」

 そもそも、中国人のお客さんは、なぜ、レストランで声が大きくなるのでしょう?

 ジンさんは「そもそも中国人が賑やか好きということが理由だと思います。中国は国が広く、とくに北のほうが朗らかで、お酒が入るとどんどん声が高くなる傾向がある」と話します。 

 「中国では食事は楽しいことだと考え、みんなで一緒に食事することが基本です。注文したおかずをみんなで分かち合うのが一般的ですので、味への評判など、自然に会話も増えるのでしょう」。

青森空港に到着した天津からの中国人観光客=2017年5月7日、山本知佳撮影
青森空港に到着した天津からの中国人観光客=2017年5月7日、山本知佳撮影 出典: 朝日新聞社

中国人ガイドさんの分析「多民族国家、中国の土地柄?」

 訪日観光客を相手にする中国人ガイドの趙(チョオ)さんも、「中国人観光客が大声で話してしまうのは中国の土地柄が理由」と言います。

 「中国は多民族国家で、歴史が長く、国土も広いので、大きな声で話すことで自分をさらけ出し、相手に安心感を与える部分があるかもしれません」と分析をします。

 騒々しい環境の中なら、食事の際に大声になるのも仕方ないと話す趙さん。「居酒屋では大きな声をする日本人も多いですよね」。

 一方、場をわきまえず、パブリックな場でも大きな声をする中国人観光客が多いのも事実だと言い「時々恥ずかしいと思う」とも。

 ただ、大声で話す中国人観光客に注意することが難しいそうです。「特にお金持ちのグループ場合は、『郷に入り郷に従え』と言う概念がなく、注意しても無駄なケースが多いです」と嘆きました。

北京の伝統パン料理――「ラン龍=怠ける龍」。料理名から話のネタにもなります。
北京の伝統パン料理――「ラン龍=怠ける龍」。料理名から話のネタにもなります。 出典: 朝日新聞社

「かなり静か」な日本人

 日本人のお客さんんも3割ほどいるというジンさんのお店。中国人に比べると話し声は「かなり静か」と言います。

 「日本人のお客さんは2、3人で来店し、メニューの説明を聞いた後は、お店の人間とおしゃべりすることはほとんどないですね」

 もちろん、中国語が話せるかどうかの違いはありますが、ジンさんは、食事に対する考え方の違いも関係しているのではないかと考えています。

 「中国人がお店の人間に話しかける理由は、食事だけでなく、人と関わり、その店のことを知りたがります。一方、日本人はゆっくり食事自体を楽しむというか、しっかり味わう人が多い印象です」

飲み会の日本人客※写真はイメージです
飲み会の日本人客※写真はイメージです 出典: Pixta

本場の味、心がける

 「これまで、日本の中華料理は、日本人の好みに合わせた改良版の中華料理が多かった」と言うジンさん。自分のお店では、日本人好みの味付けにはせず、本場のレシピで作るようしているそうです。

 「看板メニューの羊蠍子は、まだ日本ではなじみがありません。だからこそ、本場の味を出すことが大事だと思いました。日本の人にも本物味の魅力を伝えたいと思ったのです」

 最近では、会員が1200人いる羊肉のファンで作る「羊齧(かじり)協会」のメンバーが、貸し切りで食事を楽しむこともあるそうです。

 「日本に羊料理に熱心な団体があることは、少し不思議ですが、ありがたいです」

新宿の「老北京火鍋 蠍子王」お店
新宿の「老北京火鍋 蠍子王」お店 出典: 朝日新聞社

「昔は外国人に優しかったけど…」

 来日して30年。最近はちょっと日本の変化を感じているそうです。

 「清潔で便利な国というのは変わっていません。でも、昔に比べると、日本人のマナーも少し悪くなったところがあるかな」

 ジンさんが気になっているのは、外国人観光客への態度です。

 「偏見なのでしょうか。外国人の観光客だとわかると敵視する態度を取る日本人が増えたと思います。昔は、外国人に優しい日本人が多かったんですけど……」

歓迎を受ける来日したフィリピン人女性社員たち=2017年4月17日、大阪府吹田市、小林一茂撮影
歓迎を受ける来日したフィリピン人女性社員たち=2017年4月17日、大阪府吹田市、小林一茂撮影
出典: 朝日新聞社

「文化は、やはり多元的な方がいいですね」

 日本人と結婚したジンさんは、異文化交流の大切さを身をもって感じています。

 「文化は、やはり多元的な方がいいですね。だから、外国人の方も、日本の伝統やルールを尊重しなければならないと思います」

 長く日本に住み、日本人と一緒に家庭を築いたことで「文化の融合は難しい。それぞれの良さを尊重し、共存していくことが大事だ」と語ります。

 ジンさんが、あえて本場の味を提供するのも、文化交流への思いがあるからです。

 「料理だって同じです。羊料理は栄養豊富で、カルシウム満点。そんなおいしい本場の羊蠍子料理を日本で普及できるように努力します」

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