話題
北朝鮮、国連がすったもんだする「三つの理由」 強い権限あるのに…
北朝鮮の核・ミサイル問題への対応で、国際連合の安全保障理事会が注目を集めています。とても強い権限があるのですが、これまで9本を数える制裁決議の効果は定かでありません。そもそもどういう組織で、なぜなかなかまとまれないのでしょう? すったもんだが続く理由を三つにまとめてみました。
アメリカのニューヨークに本部がある国際連合は、20世紀の二度の世界大戦の反省をふまえ1945年に誕生しました。
いま北朝鮮を含む193カ国が加盟しています。注目を集めている安全保障理事会は、国連の中にあります。国連憲章で「国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任」を負わされています。
安保理は15理事国からなります。改選されない常任理事国が5カ国で、第2次世界大戦の戦勝国である米英中仏ロ。
2年ごとに地域別の枠で改選される非常任理事国は10カ国で、日本はこれまで加盟国中最多の11回も当選しています。
安保理は国連憲章によって強い権限を与えられています。国際紛争などがあれば「平和に対する脅威」について決定し、その脅威をもたらす国に経済制裁を科すことができます。
それでもだめなら、武力行使のために国連軍を組織したり、多国籍軍の攻撃にお墨付きを与えたりしたこともあります。
こうした経済制裁や武力行使に国連加盟国は協力することになっていますが、その根拠として決議が必要なのです。
安保理の意思決定の形式で一番重いもので、15理事国のうち5常任理事国を含む9カ国の賛成が必要です。つまり5常任理事国には1カ国の反対で決議案を否決する権限があり、これを「拒否権」といいます。
北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射をした時の制裁をめぐって安保理がよくもめるのは、拒否権を持つ5常任理事国が牽制し合ってまとまれないからです。
その姿勢は大きく「圧力」と「対話」に分けられます。
「圧力」陣営は、アメリカ、イギリス、フランスです。北朝鮮から挑発の矛先を向けられるアメリカや、冷戦期にともに西側陣営にいて立場の近いイギリス、フランスは「圧力」を重視します。ここへ非常任理事国から日本が率先して加わります。
「対話」陣営は、中国、ロシアです。圧力に北朝鮮が反発して朝鮮半島が不安定になることを嫌う隣国の中国は「対話」を唱えます。ロシアは基本的に中国に同調します。
世界中の問題に対処を迫られる5常任理事国の間には様々な駆け引きがあります。
北朝鮮問題では中国をロシアが支え、ロシアに近いイランの核開発疑惑ではロシアを中国が支えるなど、安保理で中ロは連携してきました
ロシアは最近は対米関係の悪化から、北朝鮮に対するアメリカの圧力に反発するという姿勢も見せています。
なので、北朝鮮が問題を起こすたびに、制裁をめぐって特にアメリカと中ロが対立しがちです。
核実験だとさすがにひどいということで制裁決議へ足並みがそろいますが、内容をどこまで厳しくするかの詰めは大変です。
アメリカが決議案を日韓と調整してたたき台を作り、中国と交渉するというパターンですが、2016年9月の5度目の核実験に対する決議には2カ月半以上かかりました。
弾道ミサイル発射の場合はさらに厄介です。発射を規制する国際的なルールはありません。北朝鮮が非難されるのは、核開発との結びつきを懸念して北朝鮮だけに発射を認めない安保理決議が根拠です。
核実験の場合は、常に安保理で対北朝鮮制裁決議が採択されます。しかし、弾道ミサイル発射に対する国際社会の関心は、核実験ほど大きくないのです。
発射が射程の長い長距離弾道ミサイルであっても、安保理の対応はこれまで様々でした。
06年や13年のように日米主導で決議が出たこともあれば、2009年のように米中が妥協して決議より一段下の議長声明になったこともあります。
北朝鮮が核実験をする前の1998年には、「衛星打ち上げ」との北朝鮮の主張に中国などが理解を示し、数段下の報道向け談話に終わりました。
しかし06年以降、核実験と弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮のエスカレーションは止まらず、5常任理事国は妥協しながら9本の制裁決議を採択してきました。
「対話に向かわせるための圧力」というわけですが、北朝鮮は対話どころか今月3日に6度目の核実験をしました。そもそも制裁の効果はあるのでしょうか。
カギを握るのは、北朝鮮の貿易の9割を占める中国です。
北朝鮮からは主要産品の石炭を輸入し、逆に北朝鮮へは石油を輸出しています。国連加盟国に対し、石炭は8月の8本目の決議で輸入が禁じられました。石油は9本目の決議案でアメリカは最初は輸出禁止を主張していました。
中国は、石炭輸入を制限した16年の決議をめぐるアメリカなどとの交渉では、北朝鮮に圧力をかけすぎることへの懸念に加え、北朝鮮と取引する中国企業への影響や、広大な中国のすべての港で輸入制限を監視する難しさに触れています。
9本目の決議でも、米中交渉の結果、石油輸出について禁止ではなく年間の上限を設けることで折り合いました。
決議の効果という意味では、すべての国連加盟国を縛ると言っても罰則があるわけでもなく、必ず実施されるわけではないという弱みもあります。
決議実施に関する加盟国から安保理への報告は、アジアから遠い中東やアフリカなどの途上国で芳しくありません。
日本は他国で経済制裁の態勢が整うよう、東南アジアで税関などの「能力構築支援」をしています。
制裁決議を主導するアメリカは「対話に向かわせるための圧力」を国際社会に呼びかけますが、その対話の場がないまま圧力が強まっています。
そのため、制裁をすることが北朝鮮に「アメリカ主導の圧力から自衛するために核・ミサイル開発を開発する」という口実を与えている面もあります。
北朝鮮の核問題に関する米中ロ日韓との6者協議は08年から、米朝の直接対話は「戦略的忍耐」のオバマ政権当時の12年から動いていません。
金一族が世襲する体制を守ろうとすでに核保有を宣言した北朝鮮と、非核化へ具体的に動かない限り対話に応じないという今の日米の間には溝があります。
ただ、過去の決議では、数十の項目が並ぶ制裁による圧力だけではなく、「6者協議の再開を」と対話も求めています。
4月に安保理の閣僚級会合が開かれた際、中国の王毅外相は「対話がある時は朝鮮半島は安定していた。すべての関係国は決議に従い、対話へさらに努力をしてほしい」と訴えました。
安保理という組織が核問題に対応する限界として、国連で指摘されてきた「そもそも論」があります。
安保理の決定を左右する5常任理事国が、核不拡散禁止条約(NPT)で「核兵器国」として認められた5カ国と重なることです。
核兵器を持つ5大国が軍縮の努力を尽くさずに、他国の核開発に安保理決議で制裁を科すというのはご都合主義ではないかという趣旨です。
「核なき世界」を掲げた前米大統領のオバマ氏は国際政治の舞台を去りました。
そんな世界はNPTの下ではいつまで経っても実現しないということで、国連での交渉会議を経て、7月に核兵器禁止条約が122カ国の賛成を経て採択されました。
人道的見地から核兵器の存在を否定するなど踏み込んだ内容で、「核兵器国」や、アメリカの核の傘の下にある日本は参加しませんでした。
この核兵器禁止条約は、NPTの「核兵器国」=常任理事国である安保理に核問題を解決できるのか、という国際社会からの挑戦状と言えます。
安保理がいくら制裁決議を重ねても北朝鮮の核・ミサイル開発を止められない悪循環から、どうすれば抜け出せるのでしょうか。
スウェーデンにあるストックホルム国際平和研究所は今年の報告書で、世界中にある約1万5千の核兵器のうち92%をロシアとアメリカが持ち、英仏中を入れた上位5カ国では97%を占めると推定しています。
これと重なる常任理事国が核軍縮をさらに進め、安保理が担う「国際の平和及び安全の維持」を、核の力に頼らずに実現するよう努めることが必要ではないでしょうか。
常任理事国がそうした姿勢で率先すれば、多くの国が共感し、安保理による制裁決議への協力も進むでしょう。それこそが北朝鮮に対する「対話に向かわせるための圧力」になると思います。
◇
北朝鮮の核・ミサイル問題で四半世紀にわたる国連安保理の苦闘を検証する企画「北朝鮮と安保理」を朝日新聞で連載中です。
1/14枚