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Jアラート、鳴ったらどうする? 北朝鮮ミサイルを「正しく恐れる」
北朝鮮の弾道ミサイル発射が止まりません。8月29日早朝には事前通告なしに日本上空を通過させ、東日本を中心に日本政府による「Jアラート(全国瞬時警報システム)」が鳴りました。9月3日には6度目の核実験を実施。いったいどうなるのかと不安な方も多いのではないでしょうか。またミサイルが飛んでJアラートが鳴ったら、万が一日本に落ちてきたら、私たちはどうすればいいのでしょう。整理してみました。
まずお伝えしたいのは、北朝鮮のミサイルが実際に日本に落ちるのか、落ちた場合にどのぐらいの被害が出るのかを考えるのは、とても難しいということです。
北朝鮮がミサイルで本気で日本を狙ったり、狙わなくても誤って落ちたりすることがあるのか。日本に落ちそうなら自衛隊は迎撃できるのか。着弾してしまった時、その弾頭はどんな種類と威力の爆弾なのか。そうしたこと次第で、状況は大きく変わります。
あらゆる災害や事件・事故と同じで、北朝鮮のミサイル落下についても、そんなことは起きるはずがない、起きても自分が巻き込まれることはない、と考える人もいるでしょう。
ただ、日本の方へミサイルが撃たれ、その情報がJアラートで日本にいる人々に間を置かずに伝わり、一人一人が判断を迫られるというのは、すでに起きていることです。発射後、落ちてくるかもしれないとわかってから短時間でどう身を守るか。技術的にそれを考えることができるようになった現状への心構えの一助として、ご一読下さい。
北朝鮮のミサイルが日本に落ちる場合、発射から着弾までの時間は、撃ち方や方向にもよりますが、早くて10分前後と考えられます。まず、発射されて日本の方へ飛んでくるという情報は、私たちにどのように伝わるのでしょうか。
Jアラートは、ミサイルの飛来や、津波警報、緊急地震速報など、日本にいる人々が身の安全を守るために素早い対応を迫られる情報を、全国の自治体の防災行政無線や電子メールで伝える仕組みです。
北朝鮮がミサイルを撃った時、テレビのニュース速報など報道が先行することもありますが、Jアラートが情報を伝えるのは日本の方向へ撃たれた場合です。
ミサイルが日本の方向に来ると政府が判断した場合、総務省消防庁を通じ、第一報として「ミサイル発射。避難して下さい」というメッセージが流れます。Jアラートを運用する内閣官房は、メッセージを流すのは防衛省による予測軌道の「周辺地域」に限るとしています。軌道に関係なく日本全国に伝えられるわけではありません。
この「周辺地域」ですが、8月29日、9月15日と北海道上空をミサイルが飛んだ際、Jアラートは軌道直下の北海道だけでなく東日本の12道県に流れました。防衛省幹部は「もう少し範囲を絞れないか」と指摘していますが、内閣官房幹部は「避難の時間を確保するため第一報は速さを優先しており、範囲を絞り込む余裕はない」と言います。
こうした情報が私たちに伝わるルートは、大きく二通りあります。一つは自治体経由です。各市区町村の庁舎などにJアラートの受信機があり、情報を受信すると防災行政無線が自動的に起動し、特別のサイレンに続いてメッセージが流れます。同じメッセージを登録制メールでも流す自治体もあるので、お住まいの市区町村に確認されるといいかもしれません。
もう一つは個人の携帯電話です。消防庁は携帯電話の大手事業者と提携しており、Jアラートのメッセージを「エリアメール」や「緊急速報メール」で配信します。ただ、消防庁は、一部の事業者や機種の携帯電話・スマートフォンでは受信できないとしており、ユーザーに事業者への確認を勧めています。
こうした対応が必要なのは、近くにミサイルが落ちた場合、爆発にできるだけ身をさらさないようにするためです。爆弾の中身や破壊された物が爆風で飛び散れば、物陰にいるかどうかが生死を分けることもありえます。
今年から全国各地でミサイル落下に備えた避難訓練が行われていますが、学校ではグラウンドにいる子どもたちが校舎や体育館へ逃げます。地震の避難訓練では校舎からグラウンドへ逃げますが、それとは逆の動きになります。
「避難して下さい」の第一報を車の中で知ることもあるでしょう。内閣官房は、ミサイルの爆発でガソリンに引火する恐れがあるため、車から離れたうえで【屋外にいる場合】の対応をとるよう求めています。ただ、高速道路などで車外に出ると危険な場合は安全な所に車を止め、中で姿勢を低くするようにとしています。
この第一報の内容ですが、9月15日のミサイル発射から少し変わりました。「頑丈な建物や地下に避難して下さい」だったのが、「頑丈な」が消え、「建物の中、または地下に避難して下さい」となりました。
8月29日のJアラートに対し、不安の声が政府や自治体に寄せられたためです。「家の中にいてもより頑丈な建物に移らないといけないのか」「頑丈な建物や地下がない場合はどうすればいいのか」――。
繰り返しになりますが、メッセージの趣旨はできるだけ爆発に身をさらさないように隠れるということです。内閣官房の幹部は「とにかく建物の中へということが伝わるようにと変更したが、不断の見直しが必要だ」と話します。
Jアラートの第一報の時点では、ミサイルが日本に落ちるかどうかはまだわかりません。飛んでいるミサイルの動きを政府が追い続け、領土や領海に落ちるかもしれないと判断すれば、「直ちに避難。ミサイルが落下する可能性があります」という第二報が流れます。そして実際に落ちたと推定されれば、「ミサイルが○○地方に落下した可能性があります。引き続き屋内に避難して下さい」という第三報が続きます。第二報、第三報は、ミサイルの軌道予測をふまえ第一報が流れたのと同じ地域に伝わります。
ミサイルが領土や領海ではなく、手前の日本海や東シナ海、または日本列島を越えて太平洋に落ちるかもしれません。日本上空を通過した、あるいは領海外に落ちたと推定される場合は、第二報でその旨を伝え、「不審物を発見した場合は近寄らず警察や消防へ連絡して下さい」と流れます。領土や領海にミサイルの本体が落ちなくても、分離した一部が落ちるかもしれないので、「不審物」に注意をというわけです。
このように、Jアラートは命に関わると言える情報です。8月29日にミサイルが東へ飛び太平洋に落ちた時は、北海道、東北、北関東など12道県で避難を呼びかけましたが、16市町村で防災行政無線や登録制メールが作動しませんでした。あってはならないことで、菅義偉官房長官は翌30日の記者会見で「消防庁で原因特定と再発防止を徹底し、同種の問題が他の自治体で生じないよう情報提供していく」と述べました。
領土や領海には落ちなかったとわかれば一安心ですが、落ちてしまったらどうするか。その場合は、第二報で流れた「○○地方」を中心に対処が必要です。最初に述べたように、ミサイルの弾頭に何が積まれているかで被害は大きく変わります。実験なら空洞ということもあるでしょう。ただ、もし通常の火薬や、さらには核兵器や生物化学兵器といった大量破壊兵器だったら――。
内閣官房では「テレビ、ラジオ、インターネットなどを通じて情報収集に努めて下さい。また、行政からの指示があれば従って、落ち着いて行動して下さい」としています。「行政からの指示」は、政府が引き続きJアラートを使ったり、着弾点付近の市区町村が独自の情報を防災行政無線で流したりすることが考えられます。
かつてない事態に直面しても、できるだけ混乱や不安が広がらないよう、私たちは情報の把握に努めないといけません。行政機関には、互いに連携、調整して速やかに被害に対処しつつ、地域に応じて適切に情報を発信することが求められます。
最後に一言。ミサイル落下と地震や津波への対応は、もしもの時に備えるという面で似ていても、性質はかなり違います。ミサイル落下は日本への攻撃とみなされかねない話です。そこからもし戦争になれば、二発目、三発目が落ちてくるかもしれません。
私たち自身の努力でその攻撃による被害をいかに小さくするかは、堅く言えば「民間防衛」という活動になります。太平洋戦争中に米軍の空襲に備えて家で夜に明かりを消したり、防空壕に逃げたり、バケツリレーの消火訓練をしたりといったことがありましたが、それと同じ考え方です。
戦後70年以上経った今、日本がどうしてまた「民間防衛」への備えを迫られる事態になっているのか。外交と安全保障政策を駆使して東アジアの平和をどう確保するのかという、自然災害とは別の重い課題が突きつけられているのです。
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