お金と仕事
ダイエット「ビフォー・アフター」写真、使い回しの実態 専門家は…
ネットなどでよく見るダイエットの「ビフォー・アフター写真」で、使い回しのものをサイトに上げている整骨院やサロンがあることが分かりました。一体なぜ? 問題はないの? 実際にアップしていた施設や法律の専門家に聞きました。
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ネットなどでよく見るダイエットの「ビフォー・アフター写真」で、使い回しのものをサイトに上げている整骨院やサロンがあることが分かりました。一体なぜ? 問題はないの? 実際にアップしていた施設や法律の専門家に聞きました。
「使い回されている」という写真は2枚組み。それぞれ白いスーツ姿の女性がVサインをしていますが、片方はぽっちゃり、もう片方はスリムです。
まずは事実確認から。と、この写真を右クリックし、「Googleで画像を検索」を選択。すると、出るわ出るわ…
「一致した画像を含むページ」として表示されたリンク先には、各地の整骨院や鍼灸院、カイロプラクティックのサロンなどが数十件、出てきました。リンク先を開いてみてみると、確かに同じ写真が掲載されています。
中身を見ると、体験談つきのものもありました。タイトルも「体験談」「お客様喜びの声」「(施設名)で私が実感しました」など様々で、写真の主の名前も「Sさん」「Y.S様」「A.Gさん」と多様です。一見、まるでそこの施設で施術された人のように見えますが、写真は全く同じなのです。
「どうなってるんですか?」と、検索結果にあった埼玉県の治療院にお電話してみると….
「これ、同じグループのところで施術された方です」
?! こちらの治療院で施術された方ではない?
「はい。私たちは日本痩身医学協会という耳つぼダイエットの協会に入っていて、そこの協会に『使ってもいい』ともらった写真です」
しかし、サイトを見ただけだとこちらで施術された方のように見えますよね?
「協会内では、同じやり方、同じ価格で施術しています。誤解させるつもりはなく、聞かれれば答えます」
と、いうわけで、写真を配ったという日本痩身医学協会(大阪府八尾市)にお電話してみました。
対応して下さった小林英健会長によると、協会は耳つぼダイエットを行う整骨院や鍼灸院などでつくる団体で、現在の会員約1500人。「医学協会」ですが医師はほとんど居ないとのこと。新たに耳つぼダイエットを開業する方向けに、講習も行っています。
まず、本当に写真を会員に配っておられるのでしょうか?
「配っています。施術を受けた方でも、写真を出されることに抵抗がある方がいますので、協会の方で顔を出すのをOKして下さった方にお礼をお支払いし、会員に配っています」
これまで、5人分ぐらいの写真を会員に提供してこられたそうです。しかし、各施設のサイトを見た人は、そこのお客さんだと誤認しないでしょうか? 問題があるのでは?
「そう言われればそうかもしれませんが、考えたこともありませんでした。同じやり方で同じ効果が出るものなので、問題ないと思っていました。法的におかしい、などの指摘があれば、改める余地はあります」
では、法律的にこうした使い回しは、どうなのでしょう。
「景品表示法」という法律があります。景品表示法は、事業者が自らの商品やサービスを「実際のものよりも著しく優良であると示し」たりすることで、「不当に顧客を誘引」することを禁じています。
公正取引委員会の中部事務所長などを務め、景品表示法に詳しい流通科学大学(神戸市)の商学部教授、小畑徳彦さんに伺うと「法の精神に照らして問題がないとは言えないでしょう」と教えてくれました。法律の「実際より著しく優良」な表示とは、「消費者の選択に影響を及ぼしうる」という要素があるからです。
例えば、公正取引委員会が1998年に健康食品の通販業者を処分した事件では、業者はダイエット食品の効果を示す写真をコンピューター処理で捏造しており、これも処分の理由のひとつとなったそうです。
「写真捏造の方が悪質ですが、この写真の使い回しもおかしいです。サイトを見た人は普通、その店のお客さんの写真だと思うでしょう。ダイエット効果は施術する人にもよるでしょうし、他の人が施術した結果を示せば、お客さんの選択を誤らせる可能性を生みます」
私が今回のケースを知ったのは、東京都目黒区にある美容医療と内科などが専門の五本木クリニック院長、桑満おさむさんのブログでした。ブログでは、使い回しについて「これはさすがに・・・」と絶句しておられます。
桑満さんに改めて問題点を伺うと、「ビフォー・アフター写真は体験談のようなものですが、まず、体験談にはエビデンスがない。そこがそもそもの問題です」とおっしゃいました。
いきなり難しい言葉ですが、エビデンスとは、証拠や根拠になり得る事実のことです。例えば、大勢の人を調べた統計結果で「喫煙者は非喫煙者より寿命が短い」のはエビデンスですが、「ウチのおじいちゃんはタバコ吸ってたけど100歳まで生きたで」というのは単なる1例。極端かもしれない1例だけでは、根拠にはなり得ないです。
なので「そもそも体験談は顧客向けには正確な情報になりません」と桑満さん。「それでも自分の店のお客さんの話ならいざ知らず、よその事例を紹介するのなら都合のいいものを持ってき放題です」
大げさな広告などで顧客を勘違いさせることを「優良誤認」といいます。桑満さんは「こうした写真の使い回しは、優良誤認の温床になりかねない、危険な行為だと思います」と心配しています。
◇◇◇
ところで、桑満さんのクリニックのサイトやブログでも、美容医療については体験談やビフォー・アフター写真を載せています。これって、どうなんですか?
「お前も五十歩百歩だと言われるかもしれませんが、ウチの体験談は、自分自身やクリニックのスタッフによるもので、悪いことも書くようにしています。もちろんエビデンスは足りないですが、分かりやすいので。都合の良いものだけをピックアップした結果にならないよう、気を遣っています」
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