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上司を跳び箱に! 会社員「山崎シゲル」、企業コラボが絶えぬ事情

サラリーマン山崎シゲルの一コマ=田中光さん提供
サラリーマン山崎シゲルの一コマ=田中光さん提供

目次

 ツイッターに投稿された一コマ漫画から生まれたキャラクター「サラリーマン山崎シゲル」が、息長く親しまれています。企業や著名人とのコラボは、過去4年間で20件を超えます。描いているのは、お笑い芸人でもある漫画家の田中光さん(35)。いったい、何が魅力なのでしょうか。

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又吉さんの助言きっかけ

 田中さんがツイッターで「サラリーマン山崎シゲル」の投稿を始めたのは、2013年からです。

 最初の作品からぶっ飛んでいました。

 スーツ姿の「山崎シゲル」が、宙に浮かぶ巨大な食パンにまたがっています。その隣で年配の「部長」が、「あのさ、山崎くん。得体の知れないもので通勤するのやめてくれないかな」。山崎は平然と答えます。「あれ 部長、食パン見たことないんですか?」。

 ずっと田中さんのお気に入りで、「これを最初に出したので、その後、作品でむちゃくちゃをしてもよくなりました。思い出深い一枚です」と言います。

 一コマの中で展開される、シュールなやりとり。山崎のとっぴな行動に、部長が振り回されてツッコミを入れるのが、作品の基本スタイルです。


27万人がフォロー

 田中さんは芸歴15年。大阪の吉本総合芸能学院を卒業後、コンビでデビューしました。

 ピン芸人になったのは2013年。その頃、イラスト投稿のきっかけとなる出来事があったといいます。芥川賞作家になる前の、芸人・又吉直樹さんから「芸人として生き残るには、特技を伸ばした方がいい」とアドバイスを受けたのです。

 田中さんはまさか自分が漫画家になるとは思わず、最初は「ライブ会場に足を運んでくれるお客さんが増えれば」といった気持ちで始めたといいます。奇抜な発明品を描いた一コマ漫画「本日の発明」は150作以上描き、ライブ告知も手描きイラストを添えて投稿していました。

 そんな中で生まれたのが、山崎シゲルです。田中さん自身、サラリーマン経験はありませんが「外見は極力普通の2人に。ボケ、ツッコミという立ち位置」ということだけを決めて、人物設定を考えたところ、会社員に行き着きました。

 部長を跳び箱のように跳び越えたり、部長をベルトコンベヤーに載せて書類を取りに来させたり・・・。連日のように発表した作品が評判を呼び、今では「山崎シゲル」の公式ツイッターはフォロワーが27万人を超えています。

 2014年6月には単行本化されました。ただ、この先の展開が「山崎シゲル」の特殊なところです。

単行本発売に合わせ、サイン会を開いた田中光さん=2014年、グレープカンパニー提供
単行本発売に合わせ、サイン会を開いた田中光さん=2014年、グレープカンパニー提供

依頼にゾワゾワ

 出版直後に始まったのが、大手菓子メーカー・森永製菓とのコラボでした。田中さんは「親しみのある企業から依頼が来て、ゾワゾワした」。

 「ハイチュウ」や「小枝」などのお菓子を題材に、山崎シゲルが登場する24作品を書き下ろして、特設サイトやツイッターで公開しました。

 例えば、指の間に挟んで「エンゼルパイ」を渡してくる山崎に、部長が一言。「ふつうにくれないかな。フォークボールのにぎりではなく」

 以来、ケンタッキーフライドチキン、HOME’S、コクヨ、プレミアムモルツなど名だたる企業やブランドとのコラボが続いています。その理由について田中さんは「サラリーマンという容れ物がとても使いやすいのではないでしょうか」と自己分析します。

 企業の商品や事業を取り上げるという縛りはありますが、「テーマをふられてネタを考える大喜利と、使う頭は同じ。多少縛りがあったほうが燃えます」。


 今年7月にコラボサイトを公開した明電舎(本社・東京)は、電力施設や鉄道向けの電機機器メーカーです。宣伝担当者は「一般消費者の目に触れにくい製品を展開しており、従来の企業イメージである『重い・堅い・真面目』を、『ユニーク・シュール・面白い』という新たな切り口で表現してもらいたかった」と狙いを話します。一コマ目を山崎シゲルの公式ツイッターで拡散。オチが載っているコラボサイトに来てもらう仕組みです。


フォトジェニックさが武器

 企業や自治体がイメージを変えようと、既存キャラクターとコラボする事例は多々あります。例えば静岡県沼津市は、ゲームやアニメが人気の「ラブライブ!」とコラボ。ラッピングバスを走らせたり、駅前にカフェを開いたりして、若者客を呼び込みました。

 ローソンやロート製薬は、ゲーム「ドラゴンクエスト」とのコラボ商品を開発して、大きな反響を呼んでいます。

 ただ企業にとっては、費用をかけてコラボをしても、キャラクターを生かした情報発信がうまくできるのか、課題があるのも事実。その点、SNS発のキャラクターの場合、すでにツイッターなどで強力に拡散できる下地ができています。


 ウェブメディア評論家の落合正和さんは「企業がSNSで共感されるオリジナルコンテンツを発信するのは、容易なことではない。その点を攻略しようと、SNSから生まれたキャラクターに注目が集まっている」と指摘します。

 落合さんによると、重要なのは「一目で内容が理解でき、フォトジェニックであること」。SNSでのマーケティングは、消費者の強い共感を軸にして、拡散されなくては効果がありません。伝えたいことを簡潔に、分かりやすく表現できる手法が求められているといいます。

 また「従来型の広告は掲載期間が限られるのに対し、ネット上のコンテンツは拡散して残り続ける点も、企業は重要視している」。芸能活動の合間に発信するため生まれた「一コマ漫画」の手法が、結果的にこうしたニーズとうまくマッチした形です。

 現在は漫画家として、雑誌連載も持つ田中さん。「お笑いって漫才とコントだけだと勝手に思い込んできましたが、漫画を描き始めてからは出力方法は何でもいいんだと感じました。いつか海外でも何かできればいいな」と夢を語ります。

おすすめの作品は?

過去の投稿のうち、お気に入りのものを選んでもらいました。

▼田中さん「いいの描けたな…と思った作品です」


▼田中さん「良い感じの不気味さが出た」


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