連載
#18 ことばマガジン
「ゲリラ豪雨」と「夕立」、何が違うの? 気象のプロに聞きました
「ゲリラ豪雨」と「夕立」、違いはあるのでしょうか?
【ことばをフカボリ:1】
雨の多い夏になっています。さっきまで晴れていたのに急に雨が落ちてくる「にわか雨」に出くわす日もしばしばあります。近年よく見聞きするのは「ゲリラ豪雨」。ゲリラというと何だか怖い……。昔は「夕立」と言っていたような気がしますが、違いがあるのでしょうか。(朝日新聞校閲センター・岩本真一郎/ことばマガジン)
「夕立」は、夏の午後から夕方に降るにわか雨のことを言います。
強い日差しで発生した雲が空に「立つ」ような積乱雲に発達して上空を通過する際に降るから――など、夕立の語源には諸説あります。急な夕立には困らされることもありますが、夏の風物詩とも言えました。
でも最近では、突然の大雨を指す際に「ゲリラ豪雨」がよく使われるようになりました。
違いはどこに? 気象情報会社ウェザーニューズの広報に聞いてみました。
端的に言うと「夕立」と「ゲリラ豪雨」の違いは、夕方に降るか、時刻に関わらず降るかにあるようです。
「夕立もゲリラ豪雨も、メカニズムとしては同じです。どちらも、影響するのは地上の空気と上空の寒気の温度差。この温度差によって大気の状態が不安定になるのがまず必要な要素です。風の集まり具合と水蒸気の量も関係します」
以前は真夏、昼間の暑い空気がそのメカニズムで夕方に雨を降らせていて、それが「夕立」と呼ばれていました。
現在は、温暖化や、エアコンの室外機が放出する熱などが原因のヒートアイランド現象などで、地上の空気が昼間に限らず暖められやすくなり、「ゲリラ」に例えられる突然の大雨が、夕方だけでなく起きるようになったそうです。
7月、ウェザーニューズが9月までの「ゲリラ豪雨傾向」を発表しました。ゲリラ豪雨は全国で7043回発生する予想で、過去3年の平均と比べると3割増だとしています。
多発するようになった豪雨によって、日本各地で大きな被害も出ています。
「夕立」と聞くと風物詩としての趣もありますが、「ゲリラ豪雨」だと災害的なマイナスのイメージしか浮かばないのは私だけではないと思います。
環境省の「STOP THE 温暖化2017」は、現在のまま温室効果ガスを排出し続けた場合、21世紀末には滝のように降る雨(1時間降水量50ミリ以上)の発生回数が全国平均で2倍になると発表しました。
地球温暖化防止に関するパリ協定からアメリカが離脱を表明したことで、温暖化に歯止めをかけるのはますます困難になるかもしれません。
日本語で「にわか雨」を表す言葉には、「夕立」以外にも情緒のあるものがさまざまあります。
にわか雨を熟語にすると「驟雨(しゅうう)」。驟は「急に、突然」などの意味です。大きな雨粒や勢いのある雨脚が地面をたたき、辺りを真っ白に見せるところから「白雨(はくう)」という別名もあります。
夕立には雷もつきもの。この二つが合わさると「神立(かんだち)」と呼ばれます。もともと神が現れて力を示すことなどを意味していた神立が、雷や雷鳴を指す言葉となり、雷を伴った夕立のことまでこう言うようになった、とされています。
晴れているのに、なぜかポツリ。天気雨には「狐雨(きつねあめ)」というほほ笑ましい名も。「狐の嫁入り」として知られます。雲のない空から降ってくる様子を天が泣いているように見立てた「天泣(てんきゅう)」という語もあります。
日本は雨の多い国です。昔の人はカエルが鳴き、魚がはね、ツバメが低く飛び、トビが舞うのを見て雨の予兆を感じ取ってきたと聞きます。雨に関する言葉が豊富なことにも納得できます。
しかし、近年の記録的な雨による災害をみる限り、風情のある雨の名前が、今後生まれることはあるのでしょうか。
雨はなくてはならないものですが、常日頃から十分に警戒し、情報を集め、対策をたてる必要がある時代になったことは間違いありません。
1/4枚