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「脱さっしー」迫られるHKT48 まるでアップル? 集団体制を模索中
カリスマなき後、組織の発展をどう続けていくか。これ、ビジネスの話ではありません。福岡を拠点に活動6年目を迎えたアイドルグループHKT48。指原莉乃さんという強烈なカリスマに率いられてブレークした今、「脱さっしー問題」に直面しています。カリスマ経営から集団体制へ。それぞれの個性を打ち出そうと模索するメンバーに話を聞きました。
競争が激しいアイドルの世界。乃木坂46、欅坂46など「坂道」の人気沸騰に加え、AKB48グループ内でも瀬戸内各県で活動するSTU48をはじめ、HKTの後にも姉妹グループが次々に誕生しています。
今後の活動を語る上で抜きにできないのが指原さんの存在です。
「指原さんがSTUと兼任になり、HKTはここが一つのターニングポイント。いかに自分たちが動いていけるかが一番ファンのみなさんが見たい所だと思う」と2期生の渕上舞さんは言います。
2012年6月にAKBからHKTへの移籍が発表された指原さんは当時から高い人気を誇りました。HKTの劇場支配人兼任になり一層手腕を発揮し、ライブではパフォーマンスに加え、MCで笑いを取り、セットリストも手がけます。
「さしこちゃんに頼っているのが一番大きい。コンサートもさしこちゃんが言ったことに基づいてみんなが行動する感じ」と3期生の田中美久さん。渕上さんは「全体を見る力がすごい。隅々まで色々なメンバーのことを見ている」と言います。
指原さんの求心力は全体を引っ張るリーダーシップだけではありません。時には、細かな心遣いも見せます。
4月にさいたまスーパーアリーナであった多田愛佳さんの卒業コンサートでは、事前の握手会で指原さんが直接、多田さんを熱心に応援してきたファンから聞きたい曲をひそかにリサーチ。「涙のシーソーゲーム」など希望した曲が本番で披露されると、「昔からの愛ちゃんファンは大喜びだった」(ファンの一人)といいます。
1期生の森保まどかさんは「いつまでも頼り切りな訳にはいかない。1期生同士で話し合う機会も増えています。こんなにお世話になっている存在だから。個々がしっかり独立してがんばって、それがグループとしての力になる姿を見せていければ、さっしーも安心してくれると思います」と話します。
今年の選抜総選挙で3年ぶりにアンダーガールズ(32~17位)に復帰。20歳になった今年を「勝負の年」と位置づける森保さん。特技を生かして制作が続く「ピアノアルバムを今年中に発売できたら」「夢であるモデルや演技のお仕事もして、その活躍をHKTに還元したい」と決意を口にしました。
田中さんは「身近で見てきて、さしこちゃんは発信力がすごい」。HKTのSNSの発信力強化を意識しているそうです。
その田中さんら若手の「フレッシュメンバー」24人は7月のイベントが盛況で、9月に博多座(福岡市)でコンサートを行うことが決まりました。
「(さっしーのような)引っ張ってくれるメンバーがいないので、2期生のめるみお(田島芽瑠、朝長美桜)さんとか3期生で協力し、発言することが増えている。変わっていくのを感じるので、力を合わせてがむしゃらに上を目指すしかないです」
劇場公演も今秋から新たにパピヨン24ガスホール(福岡市博多区)でも行うことになりました。
グループが今後、目指す道としてヒントになりそうなのが「集団体制」への移行です。
「ずっと(さっしーに)頼り切りじゃ駄目。フレッシュにはフレッシュならでは、大人メンバーはベテランならではの落ち着きや安定感のあるものが出来ると思う」と語る本村碧唯さん。
リーダーである指原さんの存在感が大きくなる中、危機感が芽生え始めているHKTのメンバーたち。グループの将来を考えると、「カリスマ指原」依存からの脱却を真剣に考える時期に来ているのかもしれません。
ビジネスの世界で「脱カリスマ」を進めた企業として有名なのは任天堂です。
ファミコンの生み出しテレビゲームの土台を作り上げた山内溥氏。2002年に引退する際、創業者一族でもある山内氏が掲げたのが「集団指導体制」への移行でした。
山内氏の後を継いだ岩田聡氏はプログラマー出身。現場の声に耳を傾けながら「ニンテンドーDS」や「Wii」のヒット商品を生み出しました。
岩田氏が急死すると、君島達己氏が社長に。ゲーム機開発部門を率いていた竹田玄洋氏と、自社ソフト開発部門のトップを務めていた宮本茂氏との「トロイカ体制」となりました。
アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏が、ティム・クック氏に引き継いだ際も「集団指導体制」への移行として注目されました。
交代直後にあった「iPhone4S」の発表では、クック氏ではなくマーケティング担当幹部のフィル・シラー氏がプレゼンに登場するなど、カリスマ依存からの変化を印象づけました。
一方で、クック体制のアップルからは、ジョブズ氏が生み出したような革新的な製品が生まれていないという指摘も根強くあります。
ITやゲーム業界と同じように、競争が激しいアイドルの世界。立ち止まるとすぐに、他のグループにファンが流れることも日常茶飯事です。
HKTが8月2日に発売したシングル「キスは待つしかないのでしょうか?」はグループにとって10作目。一つの節目を迎えたなか、どう成長していくかがポイントになっています。
折しも、春以降、指原さんはSTUに加え、8月に行われたTIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)のチェアマンを務めるなど「アイドルの頂点」と呼ばれるほど活動の幅が拡大。メンバーはいや応なく「脱さっしー依存」に向き合うことになりつつあります。
HKTのメンバーで作るチームKⅣのキャプテンもつとめる本村碧唯さんは、危機感を隠しません。
「今が一番頑張りどき」
カリスマがいなくてもグループの価値を生み出せるのか。アイドルグループHKT48の「脱さっしー」問題は、個々のメンバーの活躍にかかっているようです。
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