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「首相動静」を10倍楽しく読む方法 誰と会う?料亭前での駆け引き
首相の1日の動きを伝える「首相動静」。新聞の片隅に毎日、必ず載っている記事です。あまり知られていないコーナーですが、首相が誰と「仲良し」なのか、「腹心」は誰なのか、よーく読むと見えてくるのが「首相動静」です。細かすぎる首相の行動、どうやって調べているのか、超解説します。(朝日新聞政治部デスク・林尚行)
首相がいつ、どこで何をしたかを分刻みで紹介する「首相動静」。ほかの新聞社も同じような記事を載せています。この記事、スペースが小さいためか……ほとんど知られていません!
ところが、よーく読むと、首相の「こ、こ、ろ」が見えてくるのです。
この原稿を書くには、総理番と呼ばれる新聞記者が欠かせません。朝日新聞では三十歳前後の若手記者2、3人が、交代しながら首相を見張ります。ほかのメディアもあわせると、日々数十人の記者が首相を追っています。
総理番が使うおもな道具は「メモ帳」「ペン」「ICレコーダー」「携帯電話」「カメラ」「国会議員要覧」「国会記者証」です。総理番の「七つ道具」と言えばいいでしょうか。ちなみに「便覧」は国会議員の顔写真があるのでとっても便利。「記者証」があれば、国会議事堂や政党本部などに出入りできます。
これらの道具を使いこなし、首相が誰と会い、何を話したのか、こってりねっとり取材します。
この取材、けっこう大変です。
首相官邸は2002年に新しくなりました。以前は首相の執務室の真ん前まで行けましたが、いまは警備を理由に部屋がある5階に入れません。官邸には正面玄関以外の出入り口があるので、「見張り」も大変なのです。
さらに大変なのは、夜です。
「政治は夜動く」という言葉があるように、夜の会合でさまざまなことを決めます。重要な政策、選挙戦略、人事、ライバルの追い落とし……。首相も例外ではなく、毎晩のようにいろいろな人と食事をともにしながら、あらゆることについて意見を交換するのです。
もちろん食事相手は、政治家だけではありません。経済界の大御所、芸能人、報道関係者、はたまた「腹心の友」……。
しかも、食事相手の確認は一筋縄ではいきません。首相が料亭で秘書とお食事か思いきや、すでに料亭に控える「ある大物」と面会なんてことも。総理番は、駐車している車のナンバーや種類などから、首相と会った人を割り出します。その集大成が首相動静なのです。
まるでキツネとタヌキの化かし合いのような、首相と総理番の追いかけっこ。まんまと首相に「だまされた」こともあります。
2012年2月25日。当時の野田佳彦首相は、東京都内のホテルで昼食をとりました。相手は藤村修官房長官とされ、翌日の「首相動静」にも、「日本料理店で官房長官と食事」と載りました。
ところが、実は野党・自民党の谷垣禎一総裁と密会していたのです。
与党の代表である首相と、野党第1党の総裁が、秘密会談……。政治的にとても重要なことが話し合われたのは、間違いありません。後になって、この2人が会っていたことがわかり、総理番たちは地団太踏んで悔しがったものです。
首相動静を読み続ければ、面会した人の肩書から、首相が何に「関心」を持っているかが、透けて見えます。
ちなみに2016年分を読むと、「腹心の友」とは、3月、7月、8月、10月に食事やゴルフ。クリスマスイブも首相夫人を交えて食事をしていました。
また、最近では7月2日夜の動静が、なかなか興味深いです。
東京都議選で自民党が歴史的大敗を喫した夜、首相は都内のフランス料理店で、麻生太郎副総理、菅義偉官房長官、甘利明前経済再生相という大物政治家たちと、食事を楽しみました。都議選の情勢、大敗による影響、今後の政権運営……。一体どんな会話がやりとりされたのか、気になるところです。
どんな官僚からレクチャーを受けているか、ということも政治的に重要です。
外務省の事務次官や、陸、海、空の自衛隊を監督する統合幕僚長と会うことも少なくありません。
日本は、外交案件や安全保障で課題が山積。首相はさまざまな案件について判断しなければなりません。担当の官僚を呼び、レクチャーを受け、指示を出す。そんなところからも首相が何を重視しているのか、関心を持っている政策の分野などが透けて見えます。
まさに、首相の動静は、日本の動静そのものなんです。短い記事と、あなどるなかれ。ぜひ、毎日、読んでみてください。