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「ブン蚊都市」佐賀で学んだ、刺されない生活 血液は別腹?羽音の謎
存在感のない県として存在感のある佐賀ですが、蚊が多いことでも有名です。中心部にも水田や水路がある街並みは、蚊にとってまさに天国。「ブン蚊都市」とまで言われています。蚊が血を吸うのは食事ではなく産卵のため。針は6本。羽音のラブソング。「ブン蚊都市」佐賀で学んだ「身近な嫌われ者」との付き合い方を紹介します。(朝日新聞佐賀総局記者・杉浦奈実)
「ブン蚊都市」と揶揄(やゆ)されることもある佐賀市。市では、市内の水路1500カ所を調査してボウフラ対策をしたり、希望する地域に「防蚊対策アドバイザー」を派遣するなど力の入った事業を続けています。
蚊に詳しい長崎大熱帯医学研究所の砂原俊彦助教によると、「都市ごとに量を比べた論文は見たことがないが、経験的には多いと思う」とのこと。
砂原助教によると、蚊は種類によって卵を産む水面の大きさが違うそうです。佐賀は市街地の近くに水田があり、お寺も多くて墓や竹やぶなど小さな水たまりができやすい場所も多い。「蚊にとっては天国」との言葉までいただきました。
佐賀、逃げ場はなさそうです。
砂原助教によると、ハエ目カ科の虫で、2枚の羽と長いくちばし(口吻)が特徴。空中に蚊柱をつくっているユスリカや、大きな蚊のような外見でふわふわ飛ぶガガンボはこの科ではありません。
蚊は、ほとんどの種類のメスがヒトを含む脊椎(せきつい)動物の血を吸います。カエルや、魚の血を吸う種もいるとか。
ただ、血を吸うのは卵をつくるため。オスもメスも、日々の「ごはん」、エネルギー源としては花の蜜などを吸っています。ちょっとかわいい。
血の入るところと蜜が入るところは体の中で分かれているそうです。まさに別腹です。
蚊の針。1本に見えますが、解剖すると実は6本あるそうです。
まず、血管に刺さって血を通すストローが1本。
刃物のように肌を切り開くものが2本。
吸っている間、支えるためのものが2本。
そして、唾液(だえき)を送り込む管が1本。
唾液には、血を固まりにくくし、麻酔作用のある成分が含まれていて、かゆみを引き起こします。
学術雑誌サイエンスには、こんなレポートが載っていました。一部の蚊は、メスとオスの羽音がうまくハモることでつがいになります。デュエットに成功すれば恋人同士になれるって、ミュージカルみたいです。
「君が好きだ♪」
「私も好き♪」
「ハモった……これは運命!」って感じでしょうか。
知っていても、いや、知ればなおさら、耳元で奏でられたらイラっときます。
正確に言うと、羽音そのものというより1千ヘルツほどの高音階で「倍音」を合わせているようです。違う種同士でペアになるのを防ぐ仕組みのひとつと考えられるそうです。
何となく親近感が湧いてきた気もする、蚊。とはいえ刺されたくはありません。対策は、種によって違うようです。
まず、昼間に活動する白黒まだらのヒトスジシマカは住宅地に多い小さい水たまりで発生しますが、飛距離は長くありません。発生源となる植木鉢の水受けや廃タイヤなどにたまっている水をなくしましょう。
長距離を飛ぶ茶色いコガタアカイエカなどは、主に夜間に活動します。家の網戸をしっかり閉め、蚊取り線香を使うことなどで対策できます。
蚊は二酸化炭素や体温などに反応して寄ってきますが、それってヒトなら大差ないはず。
「刺されやすい人」「刺されにくい人」は、どうも遺伝的な何かで決まっているとのこと。肌から揮発する物質「匂い」が関係しているということが最近分かってきており、物質のリストアップが進んでいます。
詳しく分かれば効果的な蚊対策に使えるかもしれません。
ちなみに8月20日は「世界モスキート・デー(蚊の日)」です。
1897年、マラリアは蚊に刺されることで感染するとイギリスの医学者ロナルド・ロス氏が発見したことに由来するとか。
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