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「レアな鉄道車両」を次々と入手・・・「埼玉の眼科」どんな先生?
今年2月、60年間にわたり箱根登山鉄道を走り、愛されてきた「110号車両」が引退しました。鉄道ファンが驚かされたのは数カ月後。その車両が「埼玉県の眼科医」に引き取られることになった、と報じられたのです。調べると、いくつかの懐かしい車両の保存先に、「眼科医」の文字があります。一体、どんな眼科の先生なのでしょうか。さいたま市を尋ねてみました。
大きなショッピングモールが近くに見える、埼玉高速鉄道の浦和美園駅。15分ほど歩くと突然、鮮やかな小豆色が目に飛び込んできます。白壁の建物のとなりに、鉄道車両が丸ごと1両置かれているのです。
北海道の羽幌炭鉱鉄道を走っていた「キハ223」です。1970年の営業廃止後は、茨城県の湊(みなと)線で活躍。製造から43年間もの間、親しまれました。
では、この建物は駅舎なのかと思いきや、違いました。壁には思わず「目」を疑う看板が、掲げてあります。
「ほしあい眼科」
眼科に鉄道車両・・・実際に見ても、ちょっと理解が追いつきません。
医院の中に入ると「ホーム」と書かれたガラス扉が。開くとホームにそっくりな造りのテラスと、「キハ223」が目の前に現れました。
車内には運賃表や貼り紙が残り、湊線を走っていた当時のまま。床は木製。ボックス席の壁には栓抜きに使える、金属の突起がついています。時代を感じますが、きれいに管理された車両は今にも走り出しそうです。
あれ、私は旅に出たんだっけ・・・。
運転席に近づいてみるとコレクションの主、つまり「埼玉の眼科医」ご本人が、着脱式のハンドルを取り付けようとしていました。
ほしあい眼科の院長・星合繁さん(45)です。
「乗り鉄、撮り鉄・・・鉄道の楽しみ方は色々ありますが、私はいわば『本物集め鉄』。古き良き車両を、昔の魅力を残しつつ、きれいに残したいんです」
「このキハ223は患者さんも使っていて、中でゆったりご飯を食べる人もいますよ」
幹線道路に面した側に向かうと、今度は水色とオレンジ色の車両が見えてきました。
千葉県を走る全区間5.7キロの流山線で、2009年まで使われた「クハ21」と「クモハ2003」です。ともに車両の先頭部分が切り出され、壁際に立てた形で保存されています。まるで医院の中から頭をのぞかせているような、ちょっとシュールな光景です。
さらに駐車場には、寝台列車ブルートレインに使われた「EF66ー45」の先頭部分が、保存されています。
繰り返しますが、全部「実物の車両」です。なぜこんなに集めているのでしょうか。
そう尋ねると星合さんは一言、「まあ、踏み切ってしまう性格ゆえでしょうなあ・・・」。
大阪出身の星合院長。幼い頃から鉄道好きでしたが、模型を買い集められるお小遣いはなく、「自然と実物に乗るのが大好きになりました」。小学生の頃には、友達と大回りできるルートを探して一日中、鉄道に乗っていたといいます。
「実物集め」に目覚めた転機は、眼科病院の副院長を9年間勤めた30代後半でした。埼玉県の医療法人・豊栄会から、新たに建てる医院の院長にならないかと誘われたのです。
星合さんは「医院を一からつくるなら、特色を出したい。夢を実現するチャンスだ」と決意。そこで発揮したのが、交渉力でした。鉄道車両が置ける広さの土地が見つかるまで候補地を探し、医院の知名度向上に役立つと豊栄会を説得。鉄道車両の購入や設置費用を、出してもらうことが認められました。
ところが肝心の車両の確保で、思わぬ問題が浮上します。
医院で車両を保存したいと申し出ても、前例がないため、鉄道会社から次々と断られました。
やっと交渉がまとまっても、遠方なら輸送費がかさみます。例えば「キハ223」は、140キロ離れた茨城県に保管されていました。そのため専門業者が深夜に10時間かけて輸送。車両本体は80万円でしたが、輸送費は800万円かかりました。
2010年の開業後、星合さんは超多忙な生活を続けています。
白内障など、医院の手術実績は年間4600件。全国でも珍しい、深夜の救急搬送に対応できる眼科医院の指定も受け、医院内に院長の住まいを置いて対応しています。
「一生懸命働かないと、車両集めも続けられませんから」と星合さんは笑います。
塗装を2年おきに塗り直すなど丁寧な保存が知られるにつれ、近年は、以前とは逆に私鉄やJRから車両購入の打診が来るように。しかし、さすがに医療法人に追加負担は頼めず、自腹での購入を始めました。
ニュースにもなった箱根登山鉄道の「110号車両」は、輸送費を含めて800万円かけて自腹購入しました。年内には医院の敷地に展示する予定です。「食べ物や車に関心は無いので・・・働いた自分へのご褒美として、高級車の代わりに買ったと思えば」と語る星合さん。
「この前は蒸気機関車の打診もありましたが、輸送費だけで2000万円。さすがに断りました」と誘惑はつきない様子。
今後の夢を尋ねると「列車を買って、つなげて走らせること」と答えが返ってきました。コレクター魂に、終点はなさそうです。
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