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ストリートファイター、30周年の強さ 「eスポーツ」戦略で若返り

ストリートファイターⅤの世界大会=CAPCOM U.S.A.提供
ストリートファイターⅤの世界大会=CAPCOM U.S.A.提供

目次

 カプコンの格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズが、今夏に誕生30周年を迎えます。新作を世に出し続けてきた一方、ブームを育んだゲームセンターは減り、ファン層の高齢化にも直面してきました。そこで活路となったのは米国をはじめ世界での「eスポーツ」への挑戦でした。

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120万人が視聴

 昨年12月、米カリフォルニア州で開かれた『ストリートファイターV』の世界大会。

 約8500人の観客の前で優勝を決めたのは、当時20歳の米国人男性NuckleDu氏でした。女子プロレスラーのキャラ、レインボー・ミカを操り、対戦相手の春麗を投げ飛ばして勝利した瞬間、会場のアナハイム・コンベンションセンターは大歓声に包まれました。

 感極まって顔を両手で覆うNuckleDu氏。2日間の大会は、最大16万人がネット中継を同時視聴し、累計の視聴者数も120万人にのぼります。

 大会を主導したCAPCOM U.S.A.の小野義徳オフィサーは、インタビューに「eスポーツの世界は、日本では想像できない状況になっている」と話します。

【動画】CAPCOM U.S.A.の小野義徳オフィサーが語る「eスポーツ」=戸田拓撮影

 家庭用ゲーム機やパソコンを使ったゲーム対戦を、スポーツととらえる「eスポーツ」は1990年代後半に欧米で始まったとされ、プロチームも相次いで誕生しています。選手には固定給や遠征費、住居費などが支給。優勝したNuckleDu氏も有力プロチームに所属しています。

 カプコンが、初代『ストリートファイター』をゲームセンターに投入したのは1987年8月です。さらに1991年の『ストリートファイターII』(ストII)は改良を重ね、飛び入りでプレー中の相手と対戦できる「乱入」などの斬新な機能で、大ヒットしました。

ストリートファイターIIの画面=カプコン提供
ストリートファイターIIの画面=カプコン提供

スポーツ化で若者人気復活

 しかし、それから十数年。2008年に小野さんがプロデューサーとして『ストリートファイターIV』を世に出したとき、直面したのがファンの「高齢化」でした。プレーヤーの交流の場にもなった日本のゲームセンターの数は、20年前の約3分の1に減少。若い世代のファン層が生まれにくくなっていたのです。

 「ストIIからのファンの方が40、50代になっていた。大会で頑張っているのも30代後半。シリーズを続けるには、新陳代謝が必要だった。そこで新しい舞台として、世界規模の大会を作ってみたいと考えました」

ストリートファイターVの画像=カプコン提供
ストリートファイターVの画像=カプコン提供

 しかし一から始めた運営は試行錯誤でした。支えになったのが30年の歴史の積み重ねだったと、小野さんは言います。すでに世界各地に愛好者のグループが存在し、家庭用ゲーム機やパソコンで対戦する「草の根大会」が開かれていました。

 そこで運営は現地のファンに任せたうえで、CAPCOM U.S.A.が各大会を公認。上位入賞時の獲得ポイントを決め、世界のプレーヤーが同じランキングで競えるようにしました。最終的にはランキング上位32人などを米国に集め、決勝大会を開く――CAPCOM U.S.A.が、1年を通じた「CAPCOM Pro Tour」をスタートさせたのは2014年のことでした。

 2016年は各地での参加者が、合計10万人以上に。小野さんは「eスポーツの大会は、参入障壁が高い。多くのプレーヤーやファンが不可欠で、簡単にそんなゲームは育てられない。30年の歴史が生かせる世界だった」と振り返ります。

 大会で若い世代が活躍し、そのネット中継が若者を呼び寄せる。いまプレーヤーの平均年齢は「世界では20代に、日本でも30歳前後までぐっと下げることができた」と言います。

ストリートファイターⅤの世界大会。2016年の優勝者は当時20歳だった=CAPCOM U.S.A.提供
ストリートファイターⅤの世界大会。2016年の優勝者は当時20歳だった=CAPCOM U.S.A.提供

世界では「まだ中の下」

 一方で、カプコンがeスポーツの「覇者」かと言えば、現状は甘くありません。

 世界には月間ユーザー数が1億人を超えるような「化け物ゲーム」があり、『ストリートファイター』の大会規模は「まだ中の下くらい」なのが現状です。

 決勝大会があった2016年12月。ネット中継で見られた時間は、ゲーム別で7番目の位置。トップクラスの7分の1ほどです。

 米国発のパソコン向けストラテジーゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」は、大会中継の独占権などを得るために、米企業が2023年までに最低約340億円(3億ドル)を支払うと報じられました。

 別の人気ゲーム「Dota2」は、世界選手権の賞金総額が20億円超にのぼります。

東京・秋葉原で開かれたeスポーツの大会。声をかけ合って試合を進める選手たち=2015年3月
東京・秋葉原で開かれたeスポーツの大会。声をかけ合って試合を進める選手たち=2015年3月 出典: 朝日新聞社

裾野もっと広がって

 こうしたケタ外れの展開を支えているのが、厚いファン層です。小野さんは「eスポーツは、米国ではテレビ中継も頻繁にされている。20~30代のミレニアル世代が日頃から見るコンテンツとして、野球やサッカーと同じように受け入れられている」と指摘します。

 一方、海外に比べると日本では「eスポーツは限られたプロだけの世界と思われがち。一般の人からは『縁遠い世界』と身構えられてしまう。もっとカジュアルに楽しまれるような、裾野の広がりを生んでいきたい」。

 期待しているのが、国内外での大会の充実です。サイバーエージェント子会社のCyberZは2015年から、eスポーツ大会「RAGE」を始めました。今月、ラスベガスで開かれる世界最大規模の大会「EVO」も、2018年に日本大会が開催される予定。

 2022年には「アジア版のオリンピック」とも呼ばれるアジア競技大会で、eスポーツが正式種目になることが決まっています。

 小野さんは「日本企業のeスポーツへの取り組みは道半ばですが、そのぶん成長余地が大きい。業界全体で盛り上げていければ」と強調します。

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