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「再審開始」って何?無罪になるの? 「開かずの扉」と呼ばれる理由
鹿児島の「大崎事件」で、裁判のやり直しをする「再審」の開始を6月、鹿児島地裁が決めました。そのハードルの高さから、「開かずの扉」とも呼ばれている再審。再審が始まれば、無罪判決はほぼ確実ですが、今回も検察が異議を唱えたため、すんなりと始まるかは不透明です。身に覚えのない罪に問われた人を救済する制度ですが、道のりは簡単ではありません。
再審をするかどうかは、有罪を受けた人(死亡している時はその配偶者や直系親族など)か、検察官の求めで開かれる再審請求審で判断されます。再審請求審は非公開の手続きで、多いのが裁判所、検察、弁護側による三者協議です。もともとの判決を出した裁判所に「無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見した」などと訴え、その主張が認められ確定すると、再審が決まります。
司法統計によると、地方裁判所に再審を求めた人は2015年で338人いました。うち181人に判断が出ましたが、再審開始を認めたのは1人だけでした。
そもそも、「無罪を言い渡すべき新規明白な証拠」をそろえないと申し立てができないので、再審を申し立てること自体が困難ですが、そこから開始が認められるのが「無罪を争う事件でいえば数年に1件あればいい方」(再審事件に詳しい東京弁護士会の泉澤章弁護士)。高いハードルであることが分かります。
さらに、地裁の判断に納得がいかない場合は、通常の裁判と同様、異議を申し立てることができます。これを「即時抗告」と言いますが、大崎事件も検察が「決定は承服できない」として即時抗告しました。
抗告をすると、舞台は高等裁判所に移ります。高裁では判断が変わることもあり、大崎事件では実際、2002年に鹿児島地裁が出した開始決定を、福岡高裁宮崎支部が取り消しています。
高裁の判断に対しても、不服申し立てをすることができ、その場合は最高裁がもう一度、判断をすることになります。ここで再審開始が認められれば、再審が始まることになります。
また、再審開始が認められなくても、別の新規・明白証拠を用意することができれば、また再審請求ができます。大崎事件は3度目の請求でした。
再審が始まれば、通常の刑事裁判と同様、公開で裁判が開かれます。「無罪を言い渡すべき新規・明白な証拠がある」と判断されて開始されるので、ほぼ無罪判決が出ることになります。
通常の裁判と同じなので、理論的には改めて有罪となる場合もありますが、そもそも有罪とされた人の利益のためにある制度なので、再審によって無罪が有罪になったり、かえって罪が重くなったりすることはありません。
再審をめぐっては、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が再審にも適用されるとした最高裁の「白鳥決定」(1975年)以降、死刑か無期懲役が確定した重大事件でも認められるケースが出て来ています。DNA型鑑定が決め手となった足利事件や東京電力女性社員殺害事件のような、科学技術の進歩を反映した再審判断も目立つようになっています。
一方、地裁で再審開始の判断が出ても、弁護側と検察側の争いが激しい場合は、高裁でも審理が長期化することがあります。14年3月に地裁決定が出た袴田事件は、いまだに判断が出る見通しが立っていません。
原口アヤ子さん(90)が殺人と死体遺棄の罪で服役した大崎事件では、弁護団が心理学の観点で自白や証言の内容を分析した「供述心理」の鑑定書を新証拠として提出。裁判所がこの鑑定を認め、有罪の決め手になった証言の一つを「信用性の高いものとは言えない」とし、再審決定につながりました。
この裁判所の判断に検察側は、「こうした鑑定書が新証拠として認められるなら、(各地の)再審は収拾がつかなくなる」と反発しています。心理鑑定を高裁がどう評価するか、改めて注目されます。
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