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「こどもフジロック」って何だ? ライブ聴けなくても格別な楽しみ方
夏の定番イベント「ロックフェス」。最近は若者だけではなく、子連れの姿が増えてきた。さきがけとなってきた「フジロック・フェスティバル」は昨年、主催者側が「こどもフジロック」という専用サイトを開設し、フェスのファミリー化を提案。世代を超えた「ラブ&ピース」共有の可能性を探っている。(朝日新聞記者・永沼仁)
新潟県の苗場スキー場で開かれるフジロック(今年は7月28~30日開催)は、国内外のアーティスト(最近は200組を超す)が、森の中の複数のステージで同時進行にライブを繰り広げるイベントだ。単なる野外ライブを超え、音楽とアウトドア、アートなどが結びついた「フェス文化」を生み出し、夏フェスの「元祖」とされる。
20周年だった昨年は、前夜祭を含めた4日間の延べ入場数が12万5千人。ただし、子連れの数は、主催するスマッシュに聞いてもはっきりしない。保護者同伴なら子ども(昨年から中学生以下、それ以前は小学生以下)は無料だからだが、「印象として10年前の数倍、ここ2~3年で急増している」という。
「子連れという流れは必然」。草創期からプロデュースにかかわってきたスマッシュの石飛智紹さん(58)はそう話す。「もともと、3世代が楽しめるフェス、というコンセプトがあった」。手本にしたイギリスのグラストンベリーフェスが、キャンプと音楽を愛する老若男女の集う場だったからだ。「フジの始まった97年に20歳の人は、いま40歳。子どもがいて、一緒に参加してもおかしくない」。
子連れ「歓迎」を象徴するのが「キッズランド」だ。ツリーハウスやシーソー、メリーゴーランドや木製遊具……森の中のミニ遊園地のような場所は、フェスになじめない子も目を輝かす。授乳やおむつ替えのスペースは、足場のよくない会場内で重宝する(わが家も相当助けられた)。
新潟・苗場でフジロックが開かれるようになった99年から設けられた空間は、石飛さんに子どもが生まれた翌年、07年からパワーアップを続けてきた。「おもちゃにしても、絵本にしても、妻の使い勝手と娘の成長に合わせて考えてきた」。11年からは、木立を伐採して拡充し、アスレチック遊具が増えた。楽器の体験や子ども向けライブも楽しめる。
発想のベースは、全国に広がっている「プレーパーク」。「禁止」のルールを減らし、自主性を大事にする遊び場をつくろうという哲学だ。フジロックのスローガンに「自分のことは自分で」というDIY精神があるが、この考えと共鳴する。
ただし、キッズランドは託児所ではない。ステージ間にあるので演奏が聴けず、親の側がライブを見る回数は減ってしまう。筆者も、見守りを妻に押しつけケンカになったことがある。
「子どもは、たっぷり遊ぶと満足して、次は親にも付き合ってくれる」。石飛さんはそう言うが、キッズランドの次は場内を流れる川での水遊び、その後は「おなかすいた」のリクエストが待つ。悪天候になれば移動が制限され、体調変化にも気を配りつつ、結局は「早めに宿に帰るか」と、会場を後にすることにもなる。
楽しいけれど、かなり面倒。これが、何度も参加してきての実感だ。家族でのアウトドア体験なら、もっと別の選択肢もある。しかし、でも……うまく言えないが、子連れフェスは、やはり「格別」だ。
「ラブ&ピース」な空気を、森林浴のように浴びることができるといったら大げさだろうか。流れる音楽に合わせ、笑顔で体を揺らしている子どもがいると、場内の多幸感も増幅する感じがする。(ソニック・ユースのシャツを着てご機嫌の息子への温かいまなざしは忘れがたい)。職場の30代の同僚も、こう口にする。「いつか子どもができたらディズニーランドではなくてフジに行くのが夢」。
リピーターのファミリー化、会場のホスピタリティーの充実など、20年の歳月が、子連れロッカー増加の背景にある。フェス文化に詳しい南田勝也・武蔵大教授は、「クラブには連れて行けないし、コンサートは周囲に迷惑をかける。でも、フェスなら連れていきやすい」という音楽ファンの思いも付け加える。
そして、フジが掲げる「3世代フェス」に注目する。それは、日本でロックスピリットがどう受容、伝承されていくか、というテーマにもつながるからだ。ヒッピー世代の高齢者が参加するグラストンベリーとの差。「ロンドン五輪で演奏されロックが国民の誇りとなっている国とは感覚が違う。フジの今後が興味深い」と語る。
こうも問題提起する。「そもそも、“ロック”フェスに“親子が仲良く”参加することが良いのか」と。「ロック=反抗」はステレオタイプなイメージかもしれないが、筆者も気になる。わが家の長男は小5だが中学生になったら?
「自由」を大事にした子育てをしたいが、この思いは、どう伝えるべきなのか、伝わっていくのか? そんなことも考え、今年も夏を楽しみたい。
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