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IT・科学

28年前に商標出願、実は「誤解」だった 任天堂ゲーム「ARMS」

新型ゲーム機「ニンテンドースイッチ」
新型ゲーム機「ニンテンドースイッチ」

目次

 ゲーム機「ニンテンドースイッチ」向けに、任天堂が今月発売した最新ゲームをめぐり、「30年近く企画を温めてきたのでは?」とネットで話題になっています。ロマンを感じる話ですが、取材をすると違う真相が見えてきました。

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「いつから温めてたの?」と反響

 そのゲームとは、6月16日発売の「ARMS」です。個性豊かなキャラクターを操り、伸びるウデを使って対戦。任天堂が、スイッチに自ら投入する新たな「格闘スポーツゲーム」として注目を集めています。

 ツイッターですぐに話題になったのが、「ARMS」の商標登録でした。商品名などを国に登録して、マネされるのを防ぐもので、多くのゲーム名も発売前後に出願・登録されています。


 ところが特許庁の検索サイトで調べると、任天堂が権利者となっている「ARMS」の商標は、出願日が「1989年11月29日」。なんと28年も前だというのです。

 この検索結果がツイッターに投稿されると、「そんな昔から温めてたの」「ずっと試行錯誤してたのか」と反応が。「実は30年近く前から任天堂が商標登録していた事が判明!」などと伝えた、ゲーム情報サイトやニュースサイトもあります。

 記者が特許庁のサイトで検索してみても、同じ表示が出ました。出願が1989年、登録は1995年。使い道は「家庭用テレビゲームおもちゃ」など。確かに話題通りの内容に見えます。

検索結果より(赤線は記者が記入)
検索結果より(赤線は記者が記入) 出典:特許情報プラットフォーム

ヤマハも商標登録

 一方で1989年と言えば、スーパーファミコンが発売される前年です。あまりの古さに「別企画から名前だけ転用したか」などと、直接の関係を疑問視する声も出ています。

 不思議な点はほかにもあります。

 検索結果によるとヤマハも、全く同じ出願日で「ARMS」を商標登録しているのです。ただ使い道が異なり、任天堂と住み分けているように見えます。

 さらに任天堂は「ARMS」の商標を2017年1月にも出願し、審査待ちの状態です。こちらは出願されているロゴから、明らかに最新ゲーム「ARMS」に関係するものです。

2社から回答得られず

 一体どういう事なのでしょうか。

 任天堂に聞いてみましたが「知的財産について外部にお話はしていません」。ヤマハは「スキー用具商品のために登録した商標」と教えてくれましたが、やはり任天堂との関係などは非公表といいます。

 真相が見えません。

ゲーム見本市「E3」の任天堂ブース=6月14日、米ロサンゼルス
ゲーム見本市「E3」の任天堂ブース=6月14日、米ロサンゼルス 出典: 朝日新聞社

特許庁に聞いた

 それでは商標登録の記録自体から、何か分からないでしょうか。商標の検索結果は、リンクをたどると様々な情報が並んでいますが、専門用語が多く読み解くのが難しい部分もあります。

 そこで特許庁に聞くと、意外な状況が見えてきました。

ーー「ARMS」の検索結果から、分かることはないでしょうか。

 「そうですね・・・任天堂とヤマハの商標は、登録番号が途中まで同じです」

ーー確かに、末尾の数字が違うだけですね。ただ、それが何か?

 「大きな土地を持っている人が、一部を売ることがありますよね。商標も同じように使い道の一部を、他企業に売ったり譲ったりできます。そして、商標の権利の一部が他企業に移ると、こうした末尾だけが違う登録番号になります」

登録番号の末尾だけが違う
登録番号の末尾だけが違う

ーーとなると「ARMS」の商標にも、そうした経緯が?

 「公開情報を見てみると、1989年に商標登録を出願をしたのはヤマハです」

ーーヤマハだけですか。

 「はい。そして長らくヤマハが保有していましたが、2017年2月に任天堂へと、権利の一部が移っています」

ーーということは任天堂が、この商標を得たのは今年からなのですね。

 「そういうことになります」

検索結果を詳しく見ていくと、権利が移った記録が残っている
検索結果を詳しく見ていくと、権利が移った記録が残っている

ーーしかし、任天堂は今年1月にも「ARMS」の商標出願をしています。

 「今年1月のものはロゴとともに出願されていますし、『テレビゲームイベントの開催』や『スマートフォン用ゲームの提供』など、より幅広い使い道について出願されています。既に保有している商標でも、新たな使い道を加えるには改めて出願する必要があります」

他企業と交渉も

 取材の結果、分かったのは次のような経緯でした。

 「ARMS」の商標は、ヤマハが自社商品のために1989年に出願。

 その後、同じ名称のゲームを発売するのに先立ち、任天堂が一部権利の移転を受けた。それは28年前ではなく、今年の出来事でした。

 商標をめぐり、他社と交渉となるケースは多々あります。米アップルが日本で「iPhone」を発売しようとした際は、読みが似ているインターホン最大手のアイホン社と協議。最終的にはアイホン社が、アップルに使用許諾をする形で「友好的な合意に至った」と発表しています。

 「28年前の出願」には、実は起きたばかりの商標をめぐる動きが隠れていました。

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