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人間臭さぷんぷん「派閥」のカラクリと歴史 8派と1グループの勢力図
どこか時代を感じさせる「派閥」。でも、これ。政治の世界では現役バリバリの存在です。選挙に当選するため、大臣になるため。派閥のボスと一致団結して、政界を戦い抜く。人間臭さ丸出しの「派閥」に注目すると、政治ニュースが急に身近に感じられます。そんな「派閥」の歴史について超解説します。
超解説するのは、日本の政界を16年間取材してきた朝日新聞政治部の林尚行デスクです。
――派閥って、自民党だけにあるんですか?
「民進党は『派閥』と言わず、『グループ』と言っています」
――なぜグループ?
「ひとつは、戦後長い間政権の座にあって、権力争いの中で派閥が形作られてきた自民党と違って、民進党は前身の民主党から数えてもたかだか20年程度の歴史しかないということもあり、派閥同士が露骨に主導権を争うような仕組みになっていません」
――派閥とはちょっと違う?
「複数のグループを掛け持ちしている議員もいて、自民党的な『派閥』というイメージとは違います。ただ、党のトップを選ぶ代表選ではグループごとに投票する人を決めたりするので、そういう意味では『派閥的』な活動はしているとはいえます。蓮舫代表と代表を支える幹事長の野田佳彦さんは同じ野田グループですし。そのほかの政党は、そもそも派閥がいくつもできるほど、国会議員の数が多くありませんね」
―― 自民党にはいくつ派閥があるんですか?
「8つの派閥と1つのグループがあります。規模はさまざまですが、安倍首相の出身派閥の細田派が96人と現在の最大人数です」
――派閥の名前はどうやってつけるんですか?
「昔の学者や文化人の言葉からとるなどしています。例えば、自民党の派閥で一番同じ名前が続いている岸田派(正式名称は「宏池会(こうちかい)」)は、中国・後漢時代の学者の言葉から付けました」
――他には?
「一番新しい派閥である石破派は、臨済宗の住職さんから『水月会』という言葉をもらったそうです。その派閥が事務所を構えている場所からとったり、政策集団だとアピールする感じの名前だったりもします」
――派閥に入ると何かメリットってあるんですか?
「あります。ズバリ、『カネとポスト』です。派閥のボスはメンバーたちに資金を渡し、ふだんの政治活動の足しにしてもらいます。派閥の子分たちに配るおかねを、お盆近くに『氷代』、年末近くに『餅代』なんて言ってたんです。新人議員がどこの派閥に入るかは、地縁、血縁……いろいろです」
――ポストを得るためにもメリットが?
「内閣改造とか、自民党の幹部人事とかがあれば、ボスの口利きで大臣にしてもらったり、自分の関心のある政策に影響力のある党のポストに就けてもらったりもします。例えば、日本の農業について自分の政策を実現したい!と思えば、農林水産大臣や党の農業政策の責任者に、といった具合です」
――派閥に入ったらやらなきゃいけないことってある?
「『カネとポスト』でメリットを得る代わり、派閥のメンバーは何かあれば、ボスのために身を粉にして働くことが求められます。なんだか、日本史の教科書で習った鎌倉幕府の『ご恩と奉公』みたいですね」
「また、国会議員になったばかりの新人が派閥に入れば、派閥のベテランから選挙の戦い方でアドバイスをもらったり、官僚を紹介してもらって霞が関にパイプを作ったりできるというメリットもあります」
「これから長く議員をやっていくために、どのような立ち居振る舞いをすればいいのかを教えてもらう――。派閥には、そうした『育成機能』もあると言われています。
――「ザ・派閥」すごいですね……
「ただ、最近はこうした『ザ・派閥』という文化は、大きく変わってきました。派閥のボスはカネ集めに苦労しているし、ポストの口利きもなかなかうまくいかない」
――昔はすごかった?
「1970~80年代の『三角大福中』(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘)とか、続く『安竹宮』(安倍晋太郎、竹下登、宮沢喜一)とか、派閥のボス=首相候補とされていたので、ボスのために身を粉にする、というのはイコール、自民党総裁選でボスを総裁にするため、そして首相にするためにがんばる、というシステムでした」
「ただ同時に批判もありました。派閥のボス同士が水面下で話し合って大事な政策などを決めてしまい、政治が国民の目から見て透明ではないのではないか、という批判です」
――今はちょっと違う?
「今、自民党内で将来の首相候補と目される派閥のボスは、多くはありません。首相もビビるような『実力派ボス』がいなくなったことも、派閥から『元気』を奪っている背景にあります」
――昔と比べると、けっこう様変わりしているんですね。
「なんといっても派閥が変質した最大の理由は、選挙制度の変更です。衆院は昔は中選挙区制度と言って、ひとつの選挙区から2人以上、3人とか4人とか複数の国会議員が選ばれる仕組みでした」
――同じ選挙区に同じ政党の人が立候補していたんですね
「なので、同じ自民党からでも2人以上の人が立候補することができて、『党公認候補』というより、『派閥公認候補』という感じで、派閥ごとに支援する候補者が違う、なんていうことはよくありました」
――今は?
「1990年代に、政治改革を目的に小選挙区制度に変更されました。ひとつの選挙区の定数は1議席。つまり、自民党から2人以上の人が立候補することができない仕組みになったのです。候補者を選ぶ権利は、派閥のボスから党のトップである総裁、つまり首相一人に絞られるようになりました。その結果、派閥のボスの力が弱まったのです」
――選挙制度の変更が今の政治に影響している?
「新しい選挙制度の強みをフルに活用したのが、小泉純一郎首相と安倍晋三首相です。小泉さんは『自民党をぶっ壊す』と言ってブームを起こし、首相の座を射止めました」
――何をぶっ壊すつもりだったんですか?
「小泉さんがぶっ壊すと宣言した『自民党』とは、派閥の中の派閥と言われ、大きな力を持ってきた『田中派』(当時は『橋本派』になっていました)を指します。100人を超える規模です」
――ザ派閥!
「つまり、小泉さんは田中派に象徴される、それまでの自民党の派閥政治をぶっ壊そうとしたのです。そして、小泉さんは大臣のポストも、選挙の候補者も、派閥のボスたちの意見をほとんど聞かずに決めました」
――けっこうな改革ですね
「『ポストの配分』というメリットを失った派閥は、急速に力を失っていきました。そして、今の安倍さんです。安倍さんは『1強』と言われる、官邸主導の仕組みを作り上げました」
――官邸主導とは?
「安倍さんは、小泉さんと同じく、大臣を決めるときはほとんど派閥の意見を聞きません。安倍政権になって国政選挙を何度も経験していますが、安倍さんもまた、小泉さんと同じく候補者選びを自分主導でやっています」
――派閥を知った上で政治を見ると何が面白いんですか?
「それはやはり、『政治は人が作る』ということをウェットに見られるところではないでしょうか」
――人間模様が見える?
「私たちの普段の生活と同じで、物事がすべて合理的に決まっているわけではない。『この人とこの人の関係はどうなっていて、この人の背後にはこれだけの人数の応援団がいて……』という風に考えてみると、政策決定プロセスのひとつの側面が見えてきたりもします」
――わりと普通の人と同じなんですね……
「ただ、国会議員は私たちの生活を左右する法律を決めたり、政府の中で行政をリードしていったりする、とても大切な役割を求められています」
――ドラマみたいに楽しんでもいられないですね
「単に『数合わせ』とか『ボスのため』とか『権力争い』とかの結果で、重要なテーマが決められていないか。そうした『永田町の論理』によって、私たち国民の目から政治が不透明になっていないか。目を光らせるためにも、派閥の動きをよく知っておくことが重要だと思います」