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派閥って何?同じ党なのになぜ? 名前のつけ方、一番「強い」のは…
ただでさえわかりにく政治の話、中でも「派閥」は、とっつきにくいやつの代名詞です。何で派閥を作るの? どの派閥が強いの? そもそも普通の人に何か関係があるの? 謎だらけの組織「派閥」を超解説します。
超解説するのは、日本の政界を16年間、取材してきた朝日新聞政治部の林尚行デスクです。
――政治家は何で派閥を作るんですか?
「民主主義は『しっかり話し合おうぜ』『少数派の意見にも耳を傾けようぜ』というのが前提ですが、最終的にものごとを決めるときは多数決で決めます」
――数が物言う?
「なので、やっぱり人数が多いほど、ものごとを決める力が強いと言えます。政治の世界では『数は力』という言葉もあります。その象徴が、派閥なんです。自民党で派閥が育ったのは、戦後長い間政権の座にあって、権力争いが続いたからです」
――そもそも派閥って政治家じゃない普通の人にどんな関係があるんですか?
「『人間は3人集まれば派閥ができる』なんて言う人もいます。みなさんの周りでも、学校の友達、ママ友、会社の上司や同僚、サークル仲間なんかで、『□□さんは○○派だからね』なんて話をしませんか?」
――その延長が派閥?
「ボスがいて、そのボスを支える人たちがいて、そのグループの力を背に、大きな顔をしたり、肩身をせまくして過ごすしかなかったり……。実は政治の世界も私たち普通の社会も、基本的に同じなんです」
――団結力ってやっぱり相当、強いんですか?
「『一致結束、箱弁当』という言葉があります。これは、みんなで昼に派閥の事務所に集まって、出前でとった箱弁当を食べ、『俺たちは同志なんだ』という意識を高め、結束を確認する、、、そんな、派閥ならではの行動パターンを指した言葉です」
――なんか濃いですね……
「とりわけ、鉄の結束を誇って政界に強い影響力を及ぼした、田中角栄さんの流れをくむ『田中派』、今は額賀派(正式名称は「平成研究会」)って言うんですが、ここの派閥に属する人たちの結束ぶりを表す言葉として、永田町でよく使われてきた言葉なんです」
――結束ってどうやって固めるんですか?
「ひとつは『敵』の存在です。自民党という政党にとっては、民進党だったり共産党だったり、政党が敵ですが、派閥にとっては他の派閥が敵と言えます。だから、他の派閥をいじめたり、、、いや、いい言葉で言えば、派閥同士で切磋琢磨して、グループの結束を強めようとすることもありますね」
――連絡はLINEのグループとか使っているんですか?
「最近はLINEやメールで国会議員同士が連絡を取り合うのは、珍しくありません。ただ、『一致結束、箱弁当』の言葉でもわかるように、派閥というのは『会う』『一緒の時間を分かち合う』のが大事なんです」
――ウェットですね
「なので、週に一回、みんなで派閥事務所に集まったり、年に一度『合宿』したりして、『俺たちは同じ派閥だー』という意識を高めています。東京都内の高級ホテルの宴会場を借り切って、資金集めのパーティーとかもやっていますよ。自分たちは政策集団だといって勉強会を開き、メンバーで政策集を出すこともあります」
――最近、変化があったらしいですね
「そうなんです。派閥の動きをウォッチするという意味で、注目すべき変化が起きています。5月15日に、麻生太郎副総理と山東昭子元参院副議長が東京都内で会談しました」
――何を話し合ったんですか?
「話し合ったのは、派閥の合流。麻生さんは衆参44人が所属する派閥の会長で、山東さんは衆参11人がメンバーの派閥の会長です。2人のボスが『麻生派と山東派は合流する』ということを決めたんです」
――新しい動きが生まれた?
「今国会が閉会した後に合流するとしています。新しい派閥には谷垣禎一前幹事長のグループからも何人か合流する見通しで、総勢60人程度になる可能性が高い」
――勢力図が変わる?
「現在、自民党には派閥・グループが九つあります。最大派閥は細田派(96人)で、2位が額賀派(55人)、3位が岸田派(46人)と続き、この3派閥がトップ3なんですが、麻生派と山東派の合流によって一気に第2派閥に浮上するということになるんです。おかげで、他の派閥も気が気じゃないんです」
――最大派閥が一番強い?
「その派閥から首相を出していたり、派閥のボスが実力派だったり、という要素も重要で、必ずしも最大派閥が一番強いとは限りません。それでも規模のアドバンテージというのは意味があります。『数は力』と言うくらいですから、最大派閥にはそれなりの存在感があることは確かです」
――なんだか銀行とか企業の合併みたいですね
「そうも言えますが、たとえば消費税ひとつとっても党内にはさまざまな考えがあります。派閥がくっついたり離れたりすることで、我々の生活を左右するような重要なテーマの扱いがどのように変わるのか、関心をもたないといけません」
――同じ政党なのに何で違う考えの派閥があるんですか?
「もちろん、同じ政党なので考え方が全く違う、ということはありません。自民党の場合は、あくまでも自民党の結党の理念の範囲内で、派閥が様々な活動をしています」
――それでも派閥ができるのは?
「衆参あわせて400人以上の国会議員がいるだけに、考え方には幅もあります。例えば、安倍晋三首相の出身派閥である細田派は、いわゆる保守的な人が多いと言われることが少なくないですね。憲法改正に強いこだわりを持っている人が結構います」
――首相と違う路線のところもある?
「反対に、岸田文雄外相が率いる岸田派(正式名称は「宏池会(こうちかい)」)は、自民党内では『リベラル』と言われています。憲法9条を改正することへの抵抗感が強く、中国や韓国などアジア重視の政策でも知られています」
――同じ自民党でも「リベラル」な派閥がトップになれば、がらっと変わる?
「派閥の人数が増えれば、それだけ自分たちの意中の総裁、つまり首相を選べる可能性が広がります。なので、同じ自民党政権でも、よりリベラル色の強い政策が実行される環境になるということは言えるでしょう」
――けっこう重要ですね「派閥」
「政治家が『政策を実現するためにグループを大きくするんだ』と言っても、本当にきちんとした政策の実現につながるのか。単なる権力争い、主導権争いで終わらないよう、有権者としてチェックしていきたいものですね」