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ネタ投稿が「ロンダリング」される瞬間 フジ、東スポ…相次ぐ誤報
ネット上の「ネタ」が事実としてメディアに取り上げられ、誤報となるケースが相次いでいます。事実確認をすれば防げたはずですが、そこにはネット上で情報が「ロンダリング(洗浄)」され変質する状況も見えてきます。ジョークだと分かる人たちで楽しんでいた情報が、転載を重ねることで、文脈がそぎ落とされ、事実かのように広まってしまう。誤った情報を拡散させないために気をつけるべきことは、何なのでしょうか?
宮崎駿監督の引退撤回をめぐり、フジテレビ系の情報番組「ワイドナショー」で、ネット上のジョークと酷似した誤報がありました。
<1986年 天空の城ラピュタ「人生で最高に引退したい気分」>
<1997年 もののけ姫「100年に1度の決意。これを最後に引退」>
5月28日の放送で宮崎監督の発言として、根拠のない情報が紹介されたのです。
すぐに「ネットで広まった、ジョークの『ネタツイート』と内容が同じだ」との指摘がネット上で続出。フジテレビは、6月4日の放送で「事実確認を十分に行わず放送に至った」とお詫びする事態となりました。
さらに、東京スポーツが2月26日に掲載した記事「巨匠・宮崎駿監督またもや引退撤回 『まるで映画界の大仁田だ』の声」にも、同様の誤報があることが分かりました。
ネット配信もされていましたが、記者の問い合わせを受け、同社は記事を削除しています。記事には以下のように書かれていました。
このうち「100年に1度の引退の決意」というコメントが、ネットで流れたジョークと一致しています。
東京スポーツ新聞社は取材に対し、「裏付け取材が不十分で、実際には宮崎監督の発言ではないコメントを監督の発言として掲載しました」(法務広報室)と説明。「再発防止に向けてチェックを徹底したい」としています。
フジテレビも東京スポーツも、何の情報をもとに書いたのかは明らかにしていません。しかし「100年に1度の決意」といった言い回しは、2013年9月1日にツイッターに投稿されたものです。
投稿は、毎年話題になるボージョレ・ヌーボーの売り文句が、宮崎監督を思わせる内容にアレンジされたもの。元ネタを知っている人が見れば、ジョークだと気づける内容です。
ところが翌日、まとめサイト「NAVERまとめ」に、このネタツイートが事実かのように転載されました。記事の見出しは、宮崎監督の「過去の引退コメントがいちいち面白いwwwww」というもの。「華やかな引退コメントの経歴」との説明書きもあります。
記事の閲覧数は、4年間で15万を超えていましたが、ワイドナショーの問題後に記事ごと削除されました。
まとめサイトの記事は、利用者が他サイトから情報を寄せ集めて作ります。しかし転載元の内容や文脈を理解しないで寄せ集めると、デマを伝える記事になりかねません。しかも根拠があるように見えるので、内容を信じてしまいがちです。
たとえば2015年、NAVERまとめに「中国事故の犠牲者数は必ず35人以下と決まっている」と題した記事が投稿されました。
記事では「死亡者が36人以上になった場合、市の党委員会書記が更迭されるのだ」などと断定調で記されていましたが、転載元のサイトを確認すると「中国のネット上のうわさ」だと書かれています。
この記事は運営会社LINEの幹部もツイッターで紹介しましたが、その後、記事の誤りが指摘され、「デマを拡散しまして申し訳ございませんでした」と訂正ツイートをしています。
フジテレビの番組を巡っては、6月6日に放送された「ノンストップ!」でも、実在しない「ガリガリ君」の味を紹介していたことが明らかになっています。
この時、問題になったのは「火星ヤシ」味です。
イラストの投稿サイトには、商品パッケージをリアルに再現した画像がアップされています。グーグル画像検索で「ガリガリ君」と検索すると、結果の上位にも表示されます。
しかし「火星ヤシ」とは、ガリガリ君とは無関係のロボットアニメに登場する架空の食べ物で、画像はそれを元ネタにした作品でした。
「宮崎監督の引退コメント」「ガリガリ君の火星ヤシ味」は、投稿した人も受け手も、当初はジョークであることがわかっていたと思われます。
しかし「宮崎監督のコメント」は「まとめサイト」に転載されることで、文脈がそぎ落とされ、コメントの言葉だけが一人歩きしていきました。
「ガリガリ君の火星ヤシ味」も、完成度の高いパッケージの画像がネットで広まり、アニメの情報などの元ネタが見えにくくなっていました。
こうした状況下では、重大な責任を負うメディアだけでなく、ネットに触れる人には誰しも「いいね」や「リツイート」で誤った情報を拡散させてしまう危険があります。
情報が「洗浄」される前の発信元をきちんと把握し、正しい事実関係を確かめる姿勢が求められています。
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