お金と仕事
ミラーボール、今も売れ続ける理由 葬儀の演出、卓上、保育園でも?
盛り場のイメージが強いミラーボール。どうやら近年は、企業努力で従来にない形の製品が生まれ、使われる場所も拡大しているらしい。変化を追った。(朝日新聞大阪社会部・吉川喬)
滋賀県長浜市の葬儀会社「ハマリビング」を訪ねた。きれいな建物外観で、見た目は一般的な葬儀場。だが、通夜会場をのぞいてみると、ひと味違った演出がされていた。
祭壇の周囲を白い光の粒が下から上に流れる。青白い照明と飾られた花々と合わさり、幻想的な見た目だ。雰囲気を壊さない優しい光の粒は、有ると無いとでは印象が違う。祭壇の周囲に「動き」があるのも新鮮だ。
祭壇の裏に回ってみると、ラグビーボール形のミラーボール2個がギラギラと光っていた。「通夜会場にミラーボール?なんだこの組み合わせは」。思わずにやけてしまった。
ハマリビングでは、3年ほど前から通夜でミラーボールを使っている。西村保寛社長(48)が「魂が天に召されるようなイメージがぴったり」と採用し、遺族からも好評という。
ミラーボールというと、どうしてもクラブやスナックなどの印象が強いが、通夜会場と光の粒はなんとも相性が良いみたいだ。見ていると落ち着く。祭壇の後ろにあるため、参列者の目に直接触れず、ミラーボールが使われていることに驚く人も多いらしい。
西村社長は「光を使った演出を何かしたかった。白い光だけでこんなに雰囲気がでるとは驚きだった。他の葬儀会社との差別化にも役立っている」と話し、笑顔を見せた。
中大型のミラーボールの生産の多くを担っている舞台照明機器メーカー「日照」(大阪府摂津市)を訪ねた。社内の展示室には、大中小のミラーボールがずらり。スポットライトの光を浴びて、四方八方に光を飛ばしていた。
まぶしさに目を細めながら、山中稔喜社長(43)が口を開く。「ミラーボールはうちの屋台骨。1949年の創業当時から作ってます」。クラブやカラオケはもちろん、劇場や百貨店など、全国に出荷しているという。
ミラーボールは、アルミ製の球体の枠に1~3センチほどの小さなガラス鏡を貼り付けて作る。直径30センチのミラーボールの場合、使う鏡は約千枚。外部の照明器具による光を反射させ、球体内部につけたモーターで回転する仕組みだ。
鏡には丸鏡と角鏡があるが、丸鏡の方が光の粒がきれいに映るという。同社では、枠や鏡の貼り付けは府内の町工場に頼んでいるという。まん丸の枠を作るのも、均一に鏡を並べて貼り付けるのも手作業だ。
「海外製品は角鏡が多くて、鏡の貼り方が不均一で隙間も多い。見栄えが全然違います」。直径30センチで定価6万円前後、大きな特注品なら数百万円と値は張るが、高価格の裏にはこだわりがあった。
1980年代から90年代前半は好景気の波に乗り、ディスコやカラオケ店などからの注文が相次ぎ、日照だけで年4千個ほど作っていたという。だが、バブル崩壊後は減少し、現在は年に400個ほど。
今でも需要は底堅いが、日照は商品開発に余念が無い。個人や小規模な商業施設向けに、卓上に置ける小型のミラーボール(高さ約23センチ、幅約13.5センチ)を開発。光の粒が上下に動く縦回転のラグビーボール形(高さ約22.5センチ、幅約37.5センチ)も売り出した。
一方で、鏡を斜めの流れで貼り付けたり、花柄の鏡を使ってみたり、試行錯誤してもうまく光の粒が投影されなかった例も多い。日照の挑戦は続く。
葬儀場以外でも活用されていると聞き、同府吹田市の千里丘学園幼稚園へ向かった。多目的活動向けホールには、大きなミラーボール。2011年からに導入し、月1回ほど、歌と演劇の発表会や、体を使って物をまねる「表現活動」などの時間で利用している。
照明の色を変えることで桜や雪などの自然に似せた演出ができる。園児の舩方柊太朗(しゅうたろう)君(5)は青い光に包まれながら、「まるで宇宙にいるみたい」とうっとり。
続いて、横浜市中区桜木町1丁目の桜木町駅前へ。ミラーボールを使った芸術活動を展開しているアート集団「ミラーボーラー」(東京都世田谷区)の作品が、環境保護を呼びかけるイベント会場で展示されているらしい。
会場ではミラーボールを使った卵形のオブジェが目を引いていた。卵形の外枠の中に大小のミラーボールが約10個。スポットライトを反射し、小さな光の粒が周囲を包む。人々が立ち止まって眺めていた。
同団体は、2000年にミラーボールの光に魅せられたグラフィックデザイナーらが立ち上げた。麻田亮代表(48)は「光の粒のループの中にいると独特の癒やし効果を感じる。ミラーボールは演出次第で色々な場になじむ」。
幼児教育から人生のお見送り、芸術の場でも広がるミラーボール。山中社長は「現場の人たちが新たな活用法も見つけてくれており、可能性が広がっている」と笑顔を見せた。
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