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2日で13万人 白昼の酒飲み天国「にいがた酒の陣」がスゴすぎる理由

飲みながら、魅力を探りました。

酒造関係者の説明を聞きながら、大勢の来場者が試飲した=朱鷺メッセ
酒造関係者の説明を聞きながら、大勢の来場者が試飲した=朱鷺メッセ

目次

 酒造会社が日本一多い新潟県。コメと酒が代名詞のこの県には、80以上の蔵元の酒が試飲し放題となる「にいがた酒の陣」という祭りがあります。全国、いや世界から飲んべぇが訪れるこの祭り。13年目の今年3月は、2日間で約13万人が来場しました。その魅力はどこに? 飲みながら探ってきました。(朝日新聞新潟総局・狩野浩平)

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2日間で約13万人が来場した「にいがた酒の陣」=新潟市の朱鷺メッセ
2日間で約13万人が来場した「にいがた酒の陣」=新潟市の朱鷺メッセ

開場前から周辺に人・人・人

 「にいがた酒の陣」は、県内の大きなイベントといえばココという朱鷺メッセ(新潟市中央区)が会場です。

 午前10時前、いつもは車が多い周辺には歩行者の姿が目立ちます。お酒を飲むからなのでしょう。開場を待つ行列は写真を撮ろうとしても、末尾が見えないほど。隣の建物の31階にある展望台に上ってみても、全体をとらえられません。早朝5時ごろから待つという強者もいるとか。この行列が解消するまでに、1時間半ほどかかったそうです。

開場後も行列が解消するまでに、1時間半ほどかかった=朱鷺メッセ
開場後も行列が解消するまでに、1時間半ほどかかった=朱鷺メッセ
31階の展望台からでも、全体を捉えきれない行列
31階の展望台からでも、全体を捉えきれない行列

おちょこを手に、いざ

 並んでいる人たちに向けて、「ウコンの力」が販売されています。さすが酒のイベントです。

 入り口で試飲チケット(当日券2500円)と引き換えに配られるのは、おちょことペットボトルの水。水は急な酔いを防ぐためのもので、新潟では「和らぎ水」と呼ばれてポピュラーな存在です。首からぶら下げるストラップにおちょこをセットして、いざ。

試飲チケット(当日券2500円)と引き換えに配られるおちょこ
試飲チケット(当日券2500円)と引き換えに配られるおちょこ

80以上の蔵、500種以上の日本酒が集結

 名産品を売りに地域おこしを兼ねたイベントは多いですが、外から大勢の客を集める日本酒の祭りはあまりありません。酒どころ多しと言えど、ひとつの会場に80以上の蔵、500種以上のお酒が集まる「にいがた酒の陣」は、別格にして唯一という存在で、来場者数も右肩あがり。

 酒造りで名高い京都の酒造組合関係者が「似たようなイベントをやりたい」と見学に来たこともあるそうです。

酒造関係者の説明を聞きながら、試飲する来場者たち=朱鷺メッセ
酒造関係者の説明を聞きながら、試飲する来場者たち=朱鷺メッセ

知事もあいさつで赤ら顔

 オープニングセレモニーに登場した米山隆一新潟県知事の顔は、すでに赤らんでいました。来賓の待合室で、お茶ではなくお酒が出されたと暴露して、「酒の陣は、へべれけの陣とも呼ばれています。楽しく酔いましょう」と呼びかけました。

 篠田昭新潟市長が「酒の都新潟へようこそ」と乾杯のあいさつ。壮大な無礼講の始まりです。

オープニングのあいさつですでに赤ら顔の米山隆一新潟県知事
オープニングのあいさつですでに赤ら顔の米山隆一新潟県知事

高級・限定・変わり種……我先にと試飲

 入り口に近いブースから来場者が殺到していきます。「八海山」で有名な八海醸造、「久保田」の朝日酒造、「越乃寒梅」の石本酒造など、有名どころは通行もままならないほどの人だかりです。

 各蔵で数種類の酒が試飲用に用意され、純米大吟醸などの高級酒や、「無濾過原酒」「しぼりたて生酒」「濁り酒」などの限定酒のほか、日本酒で仕込んだ梅酒や新潟特産の洋梨「ル・レクチェ」の酒などの変わり種もいろいろ。高級酒も気兼ねなく試飲できるとあって、みなさん我先にとおちょこを差し出しています。女性ねらいなのか、パッケージをカラフルで華やかにして、「ワイングラスで飲む」という提案をしているところもありました。

 おちょこに注いでくれるのは酒造で働くお酒のプロ。「しぼりたてをそのまま詰めたので発泡感がある」「同じ造りだけど、酒米が山田錦か五百万石なのかで違ってくる」。細かく詳しい説明にお客がうなります。

酒造関係者の説明を聞きながら、試飲する来場者たち=朱鷺メッセ
酒造関係者の説明を聞きながら、試飲する来場者たち=朱鷺メッセ

 視察をかねて来たという、日本航空中国総代表の北京支店長、江利川宗光さんと出会いました。

 初めての酒の陣で、若い女性の来場者が多いことに驚いたといいます。「中国では、日本食はおしゃれなOLに人気。爆買いが一段落して、いまは体験型の旅行にニーズが移っているので、酒蔵ツアーなどの商品を考えたい」と話しました。

会場では若い女性も多く来場していた
会場では若い女性も多く来場していた

「日本酒=おじさん」は過去? 目立つ若い女性

 日本酒=おじさんというイメージは過去のもののようで、若い女性だけのグループが目立ちます。主催者が来場者数千人に行うアンケートでは、女性の割合は45%前後で推移。年齢別に見ると、20、30代はそれぞれ2割を超えていて、全体の約半数を占めています。近年言われる「日本酒ブーム」を象徴しているようです。

 東京から来た25歳の女性2人は、居酒屋でも日本酒を飲むことがよくあるといいます。華やかな香りと甘みで知られる山口県の銘柄「獺祭」が好み。会場で購入した鮮やかなピンクのケースに入った頚城(くびき)酒造(上越市)の純米大吟醸を手に、「飲みやすいし、かわいい」と満足そうです。

会場では若い女性の来場が目立った
会場では若い女性の来場が目立った

海外からのバイヤーも

 アンケート調査では、海外からの来場者は1%未満ですが、外国人の人気も高まっています。酒の陣の前日に行われた商談会には、中国やベトナムなどアジアからのバイヤー4人組が訪れていました。海外では銘柄を問わない安い商品が「SAKE」として売られていることが多く、上質な「本物の」日本酒を求める富裕層も増えていると教えてくれました。

 酒の陣の会場で、福島県から来た外国語指導助手(ALT)の男女3人にも話を聞きました。新潟の酒は「辛口淡麗」と言われますが、2人は甘口好き。「梅酒がおいしい」と口をそろえます。女性(29)は辛口好きだといいますがが、「スパークリングの日本酒が気に入りました。ワインみたいです」。

外国人の人気も高まる日本酒
外国人の人気も高まる日本酒

 ステージではそれぞれの蔵の法被を女性モデルが着るファッションショーが始まりました。最前列に陣取ってカメラを構える男性陣の野太い声が、会場の盛り上がりに拍車を掛けます。

会場で行われたファッションショー
会場で行われたファッションショー

会場では酔って寝る人も 救護室を用意

 時計を見ると正午近く。会場の通路という通路は人がいっぱいで、いすや壁際で眠り込む人が出てきました。中にはスマートフォンを操作する指が止まったままの人も。こんなに酔っ払いが許される公の場は初めて。ずっと会場内にいると気づきませんが、いったん外に出てから戻ると「うわっ」とのけぞるほどの酒臭さです。

 突然、「救護です。通してください」という声。年配の女性が車いすで救護室へ搬送されるところでした。そう、お酒のイベントでは、おいしくと同時に、安全に飲んでもらうための努力が欠かせません。酒の陣も、初めは泥酔者が続出。帰りのタクシーで気分が悪くなったり、会場から救急車で運ばれたりということが起こりました。現在では救護室を設置して、10人以上の看護師が待機しています。

2日間で約13万人が来場した「にいがた酒の陣」。酔うほどに会話もはずむ
2日間で約13万人が来場した「にいがた酒の陣」。酔うほどに会話もはずむ

 取材が一段落したところで、記者もチケットを買っておちょこを手にしました。元々酒に強くない身です。10ほどの蔵を回ると酔いも回ってきました。休憩していると、同じく1人飲みの25歳男性から声をかけられました。出店で買ったもつ焼きを一緒につつきながら、すすめられるままに一杯、また一杯。「来た見た飲んだ」と、満足げに飲んでいたら急に眠気が。あくまで、飲んでも飲まれるな。

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