話題
待機児童問題、今度は「保留児童」が話題 集計トリックに批判相次ぐ
ツイッターでは「言葉遊びでは」「実態を反映してほしい」などという声が。
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ツイッターでは「言葉遊びでは」「実態を反映してほしい」などという声が。
保育所に入れないのに、待機児童として数えてすらもらえないのはなぜ? 認可保育所への入園の可否が届く季節、こんな怒りの声がSNSで渦巻きました。こうした存在は「隠れ待機児童」と呼ばれ、以前から問題に。今年は「保留児童」という言葉も話題になっています。厚生労働省も見直しに向けて動いていたのですが、自治体ごとの定義があまりにバラバラで、1年先送りに。こんなところにも、待機児童対策のちぐはぐさが見えてきます。(朝日新聞記者、仲村和代・伊藤舞虹)
横浜市の20代の女性は2月上旬、市から送られてきた「待機児童数の集計方法について」という手紙を見て、驚きました。「育児休業中の家庭の児童は待機児童に含まれず、『保留児童』という扱いになる」という趣旨のことが書かれていたからです。希望を出した認可保育所全てに「落ちた」ことを知らせる通知に同封されていました。
1歳の息子は1月生まれ。1歳になった時点で保育所に空きがなかったため、育休を延長しましたが、育休中だと、待機児童としてはカウントされないことになることを、初めて知りました。
通える範囲の保育所はどこも定員いっぱい。年度途中で、1歳児クラスに空きが出るとは思えません。それなのに、「待機児童」として数えられないことに、がくぜんとしました。「保留児童という言葉を作ることで、待機児童が少ないように演出してごまかそうとしているのでは」と憤ります。
ツイッターでは、ほかの自治体でも同様の投稿が。「言葉遊びでは」「そんな言葉は初めて聞いた」「実態を反映してほしい」と、批判が相次ぎました。
「保留児童」のように、入園できなかったのに待機児童として数えられない子どもの存在は、「隠れ待機児童」とも呼ばれ、以前から問題になっています。厚生労働省が公表した2016年4月時点の待機児童数は2万3553人。一方、「隠れ待機児童」は6万7354人にのぼります。
なぜ、こんなことになっているのでしょうか。
国の定義では、待機児童とは、「入園の要件を満たしているが、入園していない子ども」のこと。ただし、子どもが入園できていなくても待機児童に含めなくてもいい「除外ケース」も定めています。①通える施設があるのに特定の施設を希望した ②自治体補助する認可外施設などに入った ③求職活動をやめた――の三つのケースです。①の「通える範囲」は、20~30分未満で登園できる範囲と例示されています。
保護者が育児休業中の場合の判断は、市区町村に委ねられています。①~③のケースをどう捉えるかも自治体によって異なり、市区町村が独自の物差しで待機児童数を決めているのが現状です。
保護者からは「実態を反映していない」と批判が寄せられ、厚労省は昨年9月から定義の見直し作業を始めました。自治体へのヒアリングなどから、ばらつきの実態が明らかになってきました。
例えば東京都世田谷区では、自宅から半径2km以内に空きのある施設がある152人について、個別の事情を確認しないまま①の「特定の施設を希望している」ケースにあてはまると判断し、待機児童から除外しています。一方、横浜市では、保護者の相談に応じる「保育コンシェルジュ」が保護者の家庭の状況や就労時間、通勤経路などを聞き取り、利用可能と思われる施設を紹介。それでも入園しなかった1337人を、待機児童ではなく、「保留児童」としていました。
厚労省は、新年度から定義を見直す方向で検討していましたが、実態を把握するには、自治体が保護者の事情をきめ細かく把握する体制を整える必要があると判断。3月中をめどに新たな定義をまとめ、1年間の周知期間をおいて18年4月から新定義を適用する方針です。
独自に定義を見直した自治体もあります。
岡山市では、中心部の保育所はいっぱいですが、郊外には比較的余裕があります。以前は車で30分以内の距離なら「通える範囲」とみなし、入所しない場合は、待機児童に含めていませんでした。「保留児童」はいましたが、待機児童は「ゼロ」の状態が長く続いていました。
ただ、市内中心部から30分かけて郊外の保育園に送り、また中心部に出勤するのは、現実的ではありません。このため、2016年4月からは第3希望まで出し、利用調整をしても入れなかった人はすべて、「待機児童」と数えることにしました。担当者は「以前の定義は不親切で、市民感覚とずれがあった」と話します。
待機児童の数は、15年4月の134人から、16年4月は729人と、世田谷区に次いで全国で2番目に。この人数を元に、16年度は定員を800人以上増やす方針を打ち出しました。ただ、入園希望者も大幅に増え、17年度も待機児童解消は難しそうです。
安倍首相は2月、「17年度末に待機児童ゼロ」という目標達成が厳しいという認識を示し、「働く女性が見積もり以上になった。労働市場の状況が予想以上に改善された」と説明しました。6月には新たな解消策を打ち出すことも表明しています。解消のためにはまず、本当の需要を把握することから始める必要がありそうです。
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