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葬式にサプライズを! ブライダル出身社長「派手葬儀」手がける理由
葬儀といえば、お坊さんのお経を聞きながら、静かにお焼香をして……。そんな常識を破った数々の演出で有名なのが、葬儀社「アーバンフューネスコーポレーション」です。ブライダル業界出身の中川貴之社長(43)が「お経を読むだけ」の葬儀への疑問から出発。葬儀で「サプライズ」を提供しているといいます。
「祭」と大きく書かれた法被を来た太鼓隊が登場する、故人の趣味だった水墨画の展示会をする、遺影を囲むのは…なぜかバルーンアート!?
2002年に葬儀業界に飛び込んだ中川社長は「しめやか」という言葉とはかけ離れた華やかな葬儀を手がけてきました。ついた呼び名は「感動葬儀」。感動を呼ぶ演出が同社の持ち味です。
「感動させようと思って始めたわけじゃないんですよ。最初の頃は、『サプライズ演出』をしていたんです。というのも、葬儀が人が死んだことの報告会みたいになっていて、残念だなという思いがあったんです。その人の人生を振り返ったり、一緒にすごした日々を語り合ったり、心の中にもう一度故人を納めるような時間にしたかった」
「でも、すごく保守的な場ですから、なかなか新しいことをやろうという空気にならないし、提案してもお客さんに受け入れてもらえない。だったらサプライズでやってしまおう、ということで始めたんです」
「感動演出」だけでも大変そうなのに、喪主の意向も聞かずに勝手にやっていたというから驚きです。怒られなかったのでしょうか。
「最初にやるときは決死の覚悟でした。社内で話し合って、『絶対喜んでもらえる』と確信を持たないとやらなかったですよ。なんでそう言い切れたのかな。若い時の勢いみたいなものもあったんでしょうね。だって非常識じゃないですか。勝手に葬儀屋さんが人んちのお葬式ひっかき回して。お葬式やっているという意識よりも、亡くなった人の家族のためになんとかしようっていう感覚でした」
「そういう葬儀社として知られるようになってからは、極端な話、『普通のお葬式したかったらうちには頼まないですよね』という風に接しています。『普通でいいんです』って言うお客さんもいますが、『いやいや、うちに頼んだからには、なんとかしてあげないと』って思っています」
同社では現在も、葬儀に「サプライズ枠」を設け、その枠内の予算であれば、担当者がサプライズ演出をしてもいいことになっています。お客さんには別途料金を請求しない、会社側の負担です。
「サプライズ」には注意点もありました。
「『故人はあれが好きでした』という言葉に安易に流されるのは危ない。『競馬が好きだった』と言われて競馬グッズを並べても、もしかしたら『何が好きだったか』と聞かれたからそう答えたけれど、家族は苦労させられたかもしれない。お客さんに喜んでいただくことが目的なのに、逆効果になってしまいます」
「宗教的なことや、離婚や浮気など複雑な人間関係に踏み込んでしまうことがないように注意も必要です。そして、大事なのはお坊さん。うちが頼むお坊さんは理解してくれますが、その家の菩提寺のお坊さんに来てもらう場合は、事前にきちんと『こんなことをします』と説明しておかないと、怒られてしまいます」
好評のサプライズ演出ですが、業界内では猛反発を受けたといいます。
「仕方ないですよ。僕だってもしも代々葬儀社をやっているような人間だったら、『あいつら、葬儀のこと全然分かってねーな』って文句言いますよ」
中川社長の経歴も、批判の矛先になりました。
「葬儀社の前は、ブライダル業界にいました。だから『葬式を結婚式みたいなイベント化するつもりか』と思われていたみたいです。でも僕もそこまでばかではないので、結婚式で支持された演出をそのまま葬儀に持ち込んで成功するわけがないことは分かっていました。確かに『冠婚葬祭』という言葉があるように、どちらも人生の節目の儀式という共通点はあります。でも、笑顔の仕事と、笑いは謹む仕事ですから、正反対ですよね」
「ブライダルの仕事では、オリジナリティーを大切にする式をモットーにしていました。あるとき、ふと考えたんです。お葬式はどうなっているんだろう、まだまだできることがあるんじゃないかって。『多死社会』に入って、ビジネスとして伸びしろが大きいことも魅力でした」
周囲の反発を受けながらも、感動演出を続けてきたのは、成功するという確信があったからなのでしょうか。
「お客さまからは大絶賛だったので、それを全ての答えだと思っていました。業界の人の中にも、よくよく話せば『そういうのやってみたかった』と言ってくれる人も少なくなかったし、実際、うちがやり始めたサービスをまねしてくれる会社も出てきました。そうやって、葬儀に対する意識がどんどん変わってきたと感じます」
1都3県で展開している同社のサービス。地方にはニーズがないのでしょうか。
「というよりも、地縁・血縁がしっかりしているような土地では、僕らは必要ないんですよ。近所の人は亡くなった人を知っているし、葬儀も家族や親しい人たちが仕切っている。菩提寺との付き合いがあれば、お坊さんがきてくれるだけで十分と感じる人も多いでしょう。そういう保守的で、儀式儀礼をちゃんとやるという形も、ぼくは大賛成なんですよ」
「だけど、それだけじゃ納得できない人も増えているんですよね。『お寺さんと普段付き合いがないのに、お経をあげてなんになるんだろう』とか、『お母さんらしい葬儀にしたい』という、従来の儀式だけの葬儀に違和感がある人たちです。そういう人は、確実に増えています。僕らが喜ばれたのは、そういう背景があるんでしょうね」
一躍「時の人」になった中川社長。今後、さらに新しいことを仕掛けていくつもりでしょうか。
「サプライズを重視していた十数年前と比べて、世の中も葬儀社も変わりました。いまは非常識と言われずに、その人らしい葬儀ができるようになっています」
「そうなると、今度は僕らが勝手に何かするのは余計なお世話です。家族や親しい人が望む葬儀を自分たちで考えられるように、いろいろな選択肢を提案したり、お手伝いしたりということが大事になっています。裏方に徹して、どんどん家族に考えてもらうという形にしていきたいです」
葬儀社が中心だろうと、家族が考えようと、今も昔も「亡くなった本人は自分の葬儀を見られない」ことは同じです。「自己満足」でも、いいのでしょうか。
「葬儀は残された家族のためのものだとも考えています。僕らは宗教者じゃないから、亡くなった人に直接してあげられることはほとんどない。残された人が『ちゃんと送れた』と思えることが、葬儀では一番大切でしょう。『葬儀であんなことをしてあげた』という思い出は、家族の心の中にその後も残るんです」
最後に、感動を呼ぶポイントを聞いてみた。
「結局、いいお葬式のための一番の条件は、家族の仲がいいことなんですよね。なんで亡くなって悲しいかというと、亡くなる前にあったその人との幸せな時間があるから。それを振り返るのが感動演出なのですが、幸せな時間がなければそれもできません。感動させるのは葬儀社じゃなくて、亡くなった人本人なんですよね」
この記事は3月18月日朝日新聞夕刊(一部地域19日朝刊)ココハツ面と連動して配信しました。
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