お金と仕事
「e-Tax」税控除…IE限定マジか!暗証番号? 9705円までの道のり
最近、わりと身近になった寄付。「確定申告」をすると寄付したお金の一部が戻ってくる場合があるって知っているでしょうか。その名も「寄付金控除」。ネットでできる確定申告の「e-Tax(イータックス)」を試しにやってみるとけっこう手ごわい。ブラウザーでつまづき、暗証番号で手がフリーズ……。9705円をつかむまでを振り返ります。(朝日新聞記者・逸見那由子)
昨年、熊本地震の被災地に義援金を送ったときのことでした。受付のお姉さんが受領証を渡しながらこう言ったのです。
「来年、確定申告したらお金の一部が返ってきますから、これは捨てずに取っておいてくださいね」
「えっ?寄付したのにお金が戻ってくる?」
発展途上国の子どもたちを支援する認定NPO法人への1万円と合わせて寄付は合計4万円。いくら戻るのか計算してみると、9705円にもなりました(条件によって金額は異なります)。ランチなら10回は余裕でできそうです。
寄付したのに受け取っちゃっていいのかしら……。でも、これってちゃんと法律で認められている制度なんです。
昨年1年間に得たお金(所得)に対して国に納める税金(所得税)を計算して、税務署に申告し、納税することです。主に個人事業主や年収が2千万円以上の会社員が必要になります。今年は3月15日が受付期限です。
同時に、確定申告は納め過ぎた税金を戻す手続き(還付)でもあります。寄付金控除でいえば寄付をした年の翌年1月1日から5年間申告ができるので、こちらは3月15日を過ぎても大丈夫です。
税の世界でいう「控除」とは、その納税する金額から一定の金額を差し引くことです。日本には、いろんな種類の控除があります。生命保険料などは会社員の場合、勤務先に届け出る「年末調整」で払い戻し手続きをしますが、寄付金や医療費は年末調整ができない控除なので、自分で確定申告をすることになります。
任意ですが、しないと受け取れるお金が戻ってきません。申告すると、現金が銀行やゆうちょの口座に振り込まれます。郵便局の窓口で受け取ることもできます。審査があるので、だいたい申告の1~2カ月後になります。
毎年、テレビで芸能人やスポーツ選手が確定申告をしているのを見かけます。今年は五輪メダリストの吉田沙保里選手や俳優の高橋英樹さんがPRしていました。簡単そうに見えますが、やっぱり税金。お役所の世界。様々なハードルが待ち受けていたのでした。
「寄付金控除」で、とにかく一番大事なのが「受領証」です。これがないと認められません。なので街頭募金はもちろんダメです。
寄付の対象はけっこう広いです。
国や地方自治体、国立大学法人や日本サッカー協会のような公益財団法人、日本将棋連盟のような公益社団法人や私立学校も対象。
認定NPO法人、政党、政治家の資金管理団体などもOKです。
何度も言いますが、どこに寄付する場合も控除を受ける場合は受領証が必要です。これがないと試合のグラウンドにも立てません。手帳の間ですり切れながらも8カ月間、大切にとっておいてよかった~。
確定申告の強い味方がネットできる電子申告・納税システム「e-Tax(イータックス)」です。
国税庁のHPから案内に従って入力していけば、税額を計算し、申告書の電子データを送信してくれます。
しかし、このe-Tax、WindowsはIEオンリーで、グーグルのクロームなどは使えません。Oh、ノー。(※MacintoshはSafariで)
e-Taxに必要な5種の神器はこれ
・パソコン(インターネットがつながる環境で)
・源泉徴収票(勤務先で配られます)
・寄付先から受け取る受領証
・マイナンバーカード(通知カードは使えない)
・ICカードリーダライタ
順調にクリアするはずが、思わぬ場所でつまづきました。マイナンバーカードの暗証番号です。
4桁は覚えているけど、6桁以上ってなんだったけ。
思いつく番号を入力してみましたが、結果はアウト。5回までやるとロックされてイエローカード。そうなると、市区町村の役所で暗証番号を再設定し「試合再開」をしなければいけません。
ネット環境も暗証番号もよしっ!でも、越えなければならない壁はまだあったのです。
「寄付した認定NPO法人はあなたの住んでいる都道府県や市区町村の条例で指定した寄付金ですか?」
認定NPO法人の場合、寄付金控除として「所得控除」か「税額控除」が受けられます。それに加えて、「住民税控除」が受けられるかどうかは、その法人を管轄する都道府県や市区町村の条例によって違うのです(認定NPOの所在地が自分自身の居住地と異なる場合は控除の対象外)。
私は分からなかったので、寄付した認定NPO法人に電話しました。ここでまた時間を食ってしまいました。
NPO法人はたくさんありますが、寄付金控除が受けられる認定NPO法人(仮認定を含む)は984団体(1月31日現在、内閣府まとめ)
活動内容は、発展途上国の子どもの支援や盲導犬の育成、リサイクル、認知症のケアなどなど、さまざまな種類があります。
終盤、再度マイナンバーカードをICカードリーダライタに差し込み、マイナンバーカードの6桁以上の暗証番号を入力。順調にクリアできれば送信完了まで所要時間は20分くらいです。税務署で並ぶ時間と手間を考えればコスパは良さそう。
でも、スマホでチャチャッと数分で申告できたらもっと便利なのになぁ……。なんて本音もちらり。そんな愚痴を財務省の担当者にこぼしたら、「でも不正があってはいけませんので……」。
確かに貴重な税金に関わることですから、あんまり簡単すぎたら逆に危険かもしれません。念のためですが、「代わりに申告してあげるよ」なんて甘い言葉に誘惑されて見知らぬ人に銀行通帳やカードを渡さないでくださいね。
これだけの知識を得ればクリア間違いなし。興味を持った方はぜひ挑戦を。
マイナンバーカード受け取ってない!ICカードリーダライタは買いたくない!という方もご安心を。
国税庁HPの「確定申告書等作成コーナー」ではカードがなくても税額を計算し、申告書類が作れます。それを印刷して郵送すればOKです
この「寄付金控除」の制度、けっこう古くからあります。財務省によると、「寄付金控除制度」は社会のためになる事業を寄付で支えようとする国民を政府も支援しようと1962年度にできました。
国税庁がまとめた「寄付金控除等適用状況」によると、東日本大震災があった2011年は、震災関連の寄付金が多かったこともあり、前年(624億円)の2倍以上にあたる1262億円の控除が適用されています。
2012年は半分近く減りましたが、この数年は増加傾向です。
■寄付金控除などの適用状況(国税庁調査)
2010年 624億円
2011年 1262億円
2012年 635億円
2013年 513億円
2014年 543億円
2015年 1014億円
手元にお金が戻ってくるといっても、それは私たちの税金。被災地への寄付など、「私の税金をこういうところに充ててほしい」という意志をちょっとだけ形にすることができる制度ともいえそうです。戻ってくる分を計算して、少し上乗せして寄付する、なんて活用もできます。
控除申請をするのも、しないのも個人の自由。一番大切なのは、寄付金控除に限らず、身の回りの生活や社会に関わる制度についてきちんと知っておくことだと思いました。きっとつかむべきゴールはそこにあるはずです。
1/20枚