IT・科学
DeNA、まとめサイト被害者に衝撃告白 「記事量産ノルマ」認める
無断転載が社会問題化したため「まとめサイト」の公開を止めているDeNAが、全国の被害者への謝罪行脚を進めています。3月をめどに、この問題を決着へと向かわせるのが狙いです。しかし、被害者の不信感は解けていません。ある女性が謝罪の場で追及したところ、DeNA社員が衝撃の「運営実態」を告白しました。
今年2月、東京都内。貸し会議室で、30代の会社員ユキコさん(仮名)がDeNAの部長級社員ら2人と向き合いました。
ユキコさんは自分で購入した化粧品を、ブログで詳しく紹介してきました。
自分の記事の盗用に気付いたのは昨年1月のことでした。DeNAが運営する女性向けまとめサイト「MERY」に、リップグロスなどの写真が何枚も転載されました。ブログには化粧品を使ったユキコさん自身の顔写真も載せていたため、「勝手に使われるのは本当に怖かった」といいます。
抗議を続け、DeNAからは「ブログを使用禁止対象に登録した」と回答がありましたが、その後も無断転載は止まりませんでした。当時はDeNAが運営する「WELQ」(現在公開停止)などでの無断転載が問題化する前でした。
ユキコさんが「まとめ記事を投稿している利用者に、必ず転載許可をとるよう義務づけて欲しい」と求めても、既に対策はとっていると紋切り型の回答があるだけ。ならばと損害賠償を求めても、先延ばしにされてきました。
風向きが変わったのは昨年冬、まとめサイトが社会問題化してからです。
「直接お会いして、ご説明したい」
今年1月末、DeNAから面会の申し出がありました。
「対応のメール履歴を見て、正直愕然としました」。面会の冒頭、DeNA社員はこう陳謝しました。「問い合わせに定型メールのような形で返したりと、質問に真摯に答えているような部分が感じにくい」。
非を認める一方で、DeNA社員からは要求もありました。「面会の内容を録音しないで欲しい」。ユキコさんはこう言って断りました。「あなた方がこれまで私のお願いを、しっかり聞いてくれたことがありましたか?」。
ユキコさんはずっと気になっていたことを質問しました。MERYでは、どんなずさんな記事の作られ方をしていたのか。
DeNA社員はこう答えました。
利用者からの投稿以外にも、インターン生として女子大学生らを集め、「ある程度の時間の中で、何本記事を書くようなことを、一定程度やっていたというのはあるのではないかと考えています」。
記者会見でも認めてこなかった「執筆ノルマ」の存在を語りました。限られた時間内に記事を書くよう組織内で求めていた――それは無断転載の増加に直結する運営手法です。
ユキコさんの元には、ウェブ広告業界などの友人から不穏な情報も聞こえてきていました。「MERY側が4月にも運営再開すると言っている」。まだ賠償問題も決着していないのに、そんな方針が決まっているのか――。
ユキコさんの質問に、DeNA社員は「4月再開は、今時点ではありません」と断言しました。
しかし重ねて聞いていくと、回答があいまいに。「復活しないかというとお答えできないのが正しい情報でして。今時点では再開したいと思っている人も当然いますが、意思決定としてはなされていなくて。再開するにしてもかなりハードルが高いと思っている」
最後にユキコさんにはDeNA社員から、A4用紙4枚の「社内調査に関するご報告」が示されました。
調査の結果、ユキコさんの写真4枚が確かにMERYに転載されていました。しかし書かれた事実関係はそれだけで、補足欄に「ご対応は、社内で検討させていただいております」とあります。賠償の可否は「3月をめどに決める」とDeNA社員は強調しました。
「(無断転載の)問い合わせが少ない数ではない状況に来ていて、具体的な請求金額を提示されている場合、されていない場合、色々ある中においてどういう対応をすべきなのか検討している段階。単純に時間がかかっている状況がございます」
面会終了後、ユキコさんは記者に語りました。「愛情を込めて書いた文章や写真をパクられて、やめてって言っても、ずっと終わらなくて。それで今回も結論が出なかった。ずっと我慢している人たちは、私の周りにもたくさんいるんです。DeNAはそういう子たちの気持ち、分かってくれているんでしょうか」
MERYに似たサイトが次々登場する状況も、変わって欲しいといいます。
「様々な会社に削除依頼を出し続けて、まるで『パクられ地獄』です。DeNAが責任ある対応を示すことで、ほかのサイトの方針転換にもつながって欲しい」
DeNAは「社内調査に関するご報告」を持って、全国の被害者との面会を進めています。旅先の写真などをブログに載せていた20代のカナさん(仮名)も、MERYに画像を無断転載されました。
DeNA社員から面会で「大切な作品を我々の方が使用してしまいまして、大変申し訳なく思っております」と謝られましたが、カナさんは「賠償の話になると、のらりくらりと避けられている気がする」。
ブログには訪問者が文章をコピーすると、メールで通知される仕組みを導入していました。
記事の大半を一気にコピーしていく人が連日のように現れました。カナさんのメールボックスには通知メールがずらりと並んでいます。
それが、まとめサイトが社会問題化した11月末ごろから「急に少なくなった」と言います。「どれだけまとめサイトの執筆者に記事を取られていたか、実感できました」。
カナさんは現在、DeNA以外の企業のまとめサイトにも無断転載被害を訴えています。しかし、責任を認めないサイトも多く、少額訴訟を検討中だといいます。
カナさんは言います。「企業に苦情を言ったら、逆に名誉毀損で訴えられるんじゃないかと思ってきました。それが社会問題化してようやく言えるようになった。泣き寝入りは、もうしません」
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